(連載2)対北朝鮮経済制裁の現状と課題
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投稿者:斎藤 直樹 (神奈川県・男性・山梨県立大学教授・60-69歳) [投稿履歴]
投稿日時:2018-02-01 01:02 [修正][削除]
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No.3249
 度重なる軍事挑発に対し不満と失望感を持つ習近平指導部が原油供給を多少縮小することはあっても、全面的に停止することはないとみられる。このことは中国が近年、曖昧な貿易統計を発表してきたことにも標される。貿易統計によれば、2014年以降中国から北朝鮮へ供給された原油量はゼロであるとされる。もし本当にゼロであるならば、中国は北朝鮮への原油供給を遮断したことになる。しかし、現実には北朝鮮において原油が枯渇しているようにはみえない。実際には毎年50万トンもの原油が中国から北朝鮮に供給されているとみられる。このことは北朝鮮への中国の原油供給は統計から除外されており、中国が統計上、数字を操作しているのではないか疑わせる。こうしたことを踏まえると、習近平指導部の履行意思が改めて問われることになる。表向きは金正恩指導部の核兵器開発と弾道ミサイル開発を厳しく非難し日・米・韓と意見を共有しながらも、肝心なところで習近平指導部は後ずさりしているのである。

 加えて、原油の供給だけではなく北朝鮮の貿易において圧倒的比率を占める中朝貿易の実態が今なお不透明である。中朝貿易総額は2017年前半だけで25億5000万ドルであった。その内訳は輸出が16億7000万ドル、輸入が8億8000万ドルであった。度重なる安保理事会決議に従い北朝鮮への経済制裁が履行されているにもかかわらず、2016年の同期に比較して中朝貿易は10%以上も拡大したとされる。これは制裁対象品目の取引が減るのと並行するかのように、制裁対象以外の品目の取引が大幅に増えた結果であると推察される。これまでみられたのは決議の採択に伴い、習近平指導部が当初は制裁決議の履行に加わったが、そのうち履行を次第に緩めるという図式であった。しかも問題なのは、原油供給だけでなく公式統計に表れない中朝間の非公式貿易である。非公式貿易は公式統計上の貿易額を超過するとも目される。こうしたことから、中国が安保理事会決議を真摯に履行するかどうかについて過度な期待を持つべきではない。加えて中国だけでなく他の多くの加盟国も真摯に決議を実行に移してきたとは言えない。制裁決議が実効性を持つためには中国だけでなくロシアを初めとする他の国による制裁の履行も問われよう。経済制裁の実効性は相変わらず不透明かつ曖昧な部分を残しているのである。

 そうした側面があるとは言え、2017年の終わりまでに状況が変わりつつあることは事実である。2017年8月採択の決議2371により、北朝鮮の主な輸出品目である石炭、鉄・鉄鉱石、鉛・鉛鉱石、海産物などの輸出が全面的に禁止された。同年9月採択の決議2375は原油と石油精製品からなる油類全体の供給量に一定の制限を課した。原油供給量はそれまでの一年間分の総量を超過しない一方、ガソリンや灯油などの石油精製品の供給量は年間200万バレルを上回らないとされた。北朝鮮の一年当たりの石油精製品の水準は450万バレル程度で推移していたのに対し、決議2375は現状の450万バレルから200万バレルに削減した。さらに同年12月採択の決議2397は石油精製品を著しく減少させることを企図した。決議2397は石油精製品の上限を年間200万バレルから50万バレルに減じた。決議2397を通じ石油の全面禁輸には及んでいないものの、石油精製品の供給は実に89%も減少することになる。他方、中国産出原油に圧倒的に依存する北朝鮮への原油の禁輸は決議2397に盛り込まれなかった。既述の通り、何よりも原油の禁輸による金正恩体制の動揺を回避したい習近平指導部が拒んだからに他ならない。決議2397の内容が厳格に履行されることがあれば、北朝鮮経済は一層厳しさを増すことが予想される。そうした中で、日一日と窮地に追い込まれている金正恩指導部はますます対米ICBMの完成に向けて猛進している感がある。

 安保理事会での決議の採択とその履行は2006年から徐々にではあるが確実に前進していることは確かである。ただし、経済制裁措置だけで金正恩をして核・ミサイル開発を断念させることは難しいのも事実であろう。もしもトランプ政権が経済制裁を強化することにより金正恩が核・ミサイル開発を断念すると考えるのであれば、多少なりとも楽観的すぎると言わざるを得ない。しかも経済制裁それ自体に内在する問題もあろう。すなわち、外貨獲得が一層厳しくなったとしても、他に選択の余地はないと考える金正恩が対米ICBMの完成に向けて狂奔を続ける中で、国民が一層窮乏化しても、金正恩体制にあって最優先課題として位置付けられる核・ミサイル開発には残された資金がこれからも投じられるであろう。こうした厳然とした現実を踏まえ、対応を模索しなければならないのである。(おわり)

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