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(連載2)米朝首脳会談に向けた綱引きと不透明な見通し ← (連載1)米朝首脳会談に向けた綱引きと不透明な見通し  ツリー表示
投稿者:斎藤 直樹 (神奈川県・男性・山梨県立大学教授・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-24 07:04 [修正][削除]
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3327/3327
 5月7、8日に改めて訪中した金正恩は、大連で習近平国家主席との二度目となる中朝首脳会談に臨み、段階的かつ同時並行的な方式を支持している習近平に直談判した。金正恩曰く、「米国は非核化を完遂すれば経済支援するというが、米国が約束を守るとは信じられない・・米国と非核化について包括的な合意ができた場合、中国が中間段階で経済的な支援を行ってほしい」。これに対し、「米朝首脳会談で非核化について包括的に妥結すべきである。・・米国と合意し非核化の具体的な進展があれば、中国が北朝鮮を支援する大義名分ができる」と習近平は金正恩を宥めた。また「・・(米朝首脳)会談の結果に関係なく中国が積極的に北朝鮮に経済・外交支援をすることで合意した」ともされる。後ろ盾となっている習近平から心強い言葉を頂いた金正恩が、既述の通り5月16日に強硬姿勢に転じた背景にはこうした経緯も横たわる。

 北朝鮮が先に核を放棄すれば、米国が体制の保証や経済支援などに始まる見返りを提供するとするトランプの基本方針を金正恩が受け入れておらず、段階的かつ同時並行的な方式を金正恩が依然として求めているとすれば、米朝首脳会談に向けた状況は必ずしも楽観視できない。体制の保証を受けられるとする5月17日のトランプの発言で金正恩は矛を収めるか、あるいはそれでは不十分であると頑強に抵抗するか。もし段階的かつ同時並行的な方式に相変わらず金正恩が執着しており、これが首脳会談に向けたハードルとなっているとすれば事態は傍目にみえるほど単純ではないであろう。とは言え、6月12日の米朝首脳会談の開催が必ずしも覚束なくなったわけではない。米朝首脳会談の開催がトランプと金正恩に多大な恩恵をもたらすことを踏まえると、5月16日以降のやり取りは会談に向けた双方による綱引きであると捉えることができよう。トランプにとって米朝首脳会談において目に見える形で成果を挙げることができれば、11月の中間選挙で共和党の勝利を呼び込み大統領再選に向けて今後の政権運営に弾みを付けることができよう。他方、首脳会談が頓挫することがあれば、米国による経済制裁はさらに強化され、体制の存続にかかわる深刻な事態につながりかねないことを斟酌すると、金正恩にとっても首脳会談の開催は死活的に重要であろう。

 すなわち、厳しく反目している感のあるトランプと金正恩は米朝首脳会談の開催に実は共通の利害を見出しているのである。金正恩はトランプが言う通り、核を先に放棄した場合、確固たる見返りが必要であり、それがゆえに金正恩が条件闘争を繰り広げているとみられるが、今一つ不透明なのは米国から一層大きな見返りを得るために条件闘争を展開しているのか、それとも金正恩の持論である段階的かつ同時並行的な方式を受け入れるように金正恩がトランプに改めて迫っているかである。もしも後者であるとすれば、今後の推移は予断を許さないであろう。激しい綱引きは6月12日の首脳会談の直前まで続くことが予想される中で、双方の溝が埋まられないままに首脳会談の開催を迎える可能性が出てきた。数時間の首脳会談の席上でトランプと金正恩の両首脳が本音をぶつけ合うことがあれば、会談はそれこそ物別れに終わるといった最悪の結果となりかねない。トランプは3月10日に「私はすばやく立ち去るかもしれないし、あるいは対話の席に着いて世界にとって最も素晴らしい取引ができるかもしれない」と発言したが、その前者に近い状況が現実に起きかねない。

 そうした短時間の会談で合意が成立するかどうかは極めて不確実であり、4月27日の南北首脳会談で採択された「板門店宣言」のような曖昧かつ不透明な宣言が発表されることになるのではなかろうか。宣言には北朝鮮が先行して核の放棄を履行すれば、その補償として米国が体制の保証や経済支援などを行うとするトランプが主張する最も基本的な文言さえ入らない可能性があろう。ましてや非核化の完遂の時期・期限の明示、非核化の対象と範囲の明示、検証措置の明示などに何ら言及されない可能性が高い。その結果、「板門店宣言」にあるように「・・完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した」といった曖昧かつ不透明な宣言が採択される可能性がないわけではない。南北首脳会談がそうであったように、米朝首脳会談も政治的な演出に終わる可能性が高い。両首脳が首脳会談の成果をことさら訴え、残されたすべての課題はその後の実務者協議に任されるという可能性が出てきた。そうなれば、実務者協議は間違いなく難航することが予想されるのである。(おわり)

(連載1)米朝首脳会談に向けた綱引きと不透明な見通し  ツリー表示
投稿者:斎藤 直樹 (神奈川県・男性・山梨県立大学教授・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-23 18:40  
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 米朝首脳会談は、6月12日にシンガポールで開催されることが決まった。トランプ大統領は、5月10日に「世界平和にとって非常に特別な時間になるよう我々二人とも努力する」とツイッターに書き込んだ。ところが、米朝首脳会談に向けて順風満帆と思われた流れは数日後、思わぬ形で足をすくわれることになった。何があったのか。5月16日に北朝鮮の国営メディア『朝鮮中央通信』は「朝鮮民主主義人民共和国に対する大規模軍事演習を行った米韓を非難する」との見出しで米韓合同軍事演習を槍玉に挙げ、同日予定された南北閣僚級会談を突如、中止すると発表した。また同メディアは「第1外務次官による記者声明」という見出しで金桂冠(キム・ゲグァン)の談話を伝え、米朝首脳会談の開催についても再考する旨の警鐘を鳴らした。金桂冠は、問題の所在が北朝鮮の非核化にいわゆる「リビア方式」を適用すると大声で唱えているボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)などにあると指弾した上で、「・・国のすべてを大国に明け渡したために崩壊したリビアやイラクの運命を尊厳ある我が国に押し付けようとする非常に悪意のある動きの表れである」と断じ、「・・もし米国が我々を追い詰め我々が核兵器を放棄するのを一方的に要求するならば、我々は協議への関心を失い、・・首脳会談を受け入れるべきか再考せざるをえなくなる」と言い放った。

 金桂冠に非難の矛先が向けられたボルトンは、以前から北朝鮮の非核化について「リビア方式」を適用すべきである旨の主張を度々行ってきた。2003年3月の米国によるイラク侵攻とフセイン体制の崩壊に慄いたリビアの独裁者カダフィは、体制の存続を図るべく大量破壊兵器開発計画の放棄を自ら宣言し、国際機関の査察を受け入れた。これに対しブッシュ政権はリビアに対する制裁を解除した。ところが、2010年以降中東地域に吹き荒れた「アラブの春」の余波を受け、カダフィ体制はNATO諸国が後ろ盾となった反カダフィ勢力によって打倒され、結局カダフィは除去された。この政変を重大視した金正恩朝鮮労働党委員長は、事ある度にフセインやカダフィの二の舞は忌避しなければならないと断言してきた。核を放棄したもののこれといった体制の保証を受けなかった結果、崩壊の道を辿ったカダフィ体制の末路を暗示させる「リビア方式」が金正恩を激しく憤激させたことは確かであった。

 ボルトンの発言が発端となり、米朝首脳会談の開催に突如、黄色信号が灯ると、今度はトランプがボールを投げ返した。トランプは5月17日に「リビア方式」は北朝鮮に適用しないとし、金正恩が核を先に放棄すれば、金正恩体制を保証すると力説した。トランプ曰く、「(金正恩が)居続けるものだ。(金正恩が)国に居て、自分で統治して、国がとても裕福になるというものだ・・変わるのならそれでもいいし、そうでないなら会談はとても成功するのではないかと思う」。このように先に核の放棄に金正恩が応じれば、金正恩体制の存続を保証するとトランプは示唆した一方、もしも核の放棄を金正恩が受け入れなければ、その「リビア方式」が適用されることになるとトランプは警告した。このことは金正恩が核の放棄に応じなければ、体制の存続の保証はない可能性があることをトランプがほのめかしたことを意味した。「首脳会談を受け入れるべきか再考せざるをえなくなる」とした金桂冠の脅しを逆手にとって、トランプは脅し返したのである。

 金正恩が4月16日に急に強気に転じた背景にはボルトンによる「リビア方式」発言への反発だけではなかったと推察される。トランプの基本方針は既述の通り、北朝鮮が核を先に放棄すれば、米国は体制保証や経済支援などの見返りを提供するが、核の放棄の完遂までは経済制裁を中心とする圧力を掛け続けるというものである。しかしもしもトランプの言う通り、北朝鮮が核を実際に放棄することがあれば、米国は体制の保証や経済支援などの見返りを提供することはないであろうと金正恩は深く疑っている。その結果、国家存立にとっての「宝剣」と見なす核を一方的に放棄した北朝鮮は遅かれ早かれ崩壊の危機に陥りかねないと金正恩の目に映る。そうした事態を回避するためには、非核化の全工程を数段階に区切り段階ごとに北朝鮮による履行と米国による見返りの提供を同時並行的に行うという、段階的かつ同時並行的な方式に金正恩が拘っていると考えられる。(つづく)

根強い中国人の西洋崇拝を描いた卒論   
投稿者:加藤 隆則 (非居住者中国・男性・汕頭大学長江新聞與伝播学院教授・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-23 12:14 [修正][削除]
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 勤務先で「答弁」と呼ばれる卒業論文の聞き取り審査が始まった。私が指導した女子学生4人の論文は概して出来がよかった。最も印象深かったのは、広告専攻の女子学生が書いた論文「国内の平面広告における外国人キャラクターの研究」だ。中国人の西洋崇拝を正面から取り上げた内容だった。平面広告とは、紙媒体で用いられるポスターなどを指す。現代ではネットで流される割合のほうが多い。日本でもしばしば化粧品や洋服、自動車などのコマーシャルに、高級感を醸し出すため白人を起用するケースがある。西洋への潜在的なあこがれに訴える効果を狙ったものだが、彼女の論文を読んで、中国でも、いやむしろ中国の方がその傾向が強いように思った。

 彼女は図書館にこもって、地道に、権威ある広告年鑑の過去十年分をめくった。異なる業界ごとに、人物が登場する約千件のサンプルを集め、分析した。そのうち外国人、主として白人が使われているのは毎年ほぼ2割から4割の間で推移し、目立った上昇あるいは下降の傾向はみられなかったが、2016年が37%を超え最高だった。つまり、高度経済成長を続け、生活水準が大幅に上がり、自分たちへの自信を強めている中にあっても、依然として西洋崇拝は根強く残っていることになる。中国は清朝末、西洋の圧倒的な科学技術、生産力を見せつけられ、それまでの夜郎自大な閉鎖体制を打ち砕かれた苦い経験がある。以来、列強に対抗する愛国精神と、劣等感の裏返しである西洋崇拝が混在し、その時々の情勢で、敵視、排外と崇拝、屈服の心理が交錯する複雑な歴史を歩んできた。中国における西洋崇拝はかくも根深い。それだけに、現代社会の中で広告に現れた外国人キャラクターを研究対象として取り上げることは、歴史的にも、現代的にも意味のあることである。

 彼女の統計調査によって、興味深い業界の特徴が表れた。広告で最も外国人の起用が多かった業界は不動産と自動車、薬品・保健用品で、それぞれ55、50、50%にのぼった。自動車は外資メーカーが世界最大の市場を目指してしのぎを削っているので理解できる。薬品・保険用品も、健康に対する関心の高まりが、自国製に比べ安全で、有効な欧米製に対する強い信頼を敏感に物語っているといえる。だが、生活の場そのものである不動産に西洋崇拝が最も顕著であることは驚きだった。中国人にとって家は、伝統的な宗族文化を支える家族の絆のよりどころであり、個人の私有財産が十分に守られていない社会主義体制において、帰属感、安全感を得るために不可欠な財産である。しかも、貧富の格差が広がる社会において、重要なステータスシンボルになっている。それだけに、家のあり方は、変動し、流動する社会の真相をはっきりと映し出す鏡になる。かつ、不動産価格は先進国並み、あるいはそれを超える異常な状況が生まれ、とても普通のサラリーマンが一人で購入できる水準ではない。一生の買い物どころか、親子何代にもわたる投資と化しており、より鮮明に消費者心理を投影する商品でもある。

 そこに現れた西洋崇拝、西洋式生活へのあこがれは何を物語るのか。習近平総書記が中華民族の偉大な復興を実現する「中国の夢」をスローガンに掲げ、ことあるたびに社会主義の優位に対する自信や中華文明への誇りを口にするのは、むしろ現実社会に蔓延する欧米志向にクギを刺すためだと思えてくる。自信や誇りを過剰に強調するのは、むしろ自信のなさの裏返しである。メイドインチャイナがいかにしっかりした地位を築くべきか。一学生の地道な論考が多くの示唆を与えてくれる。

北朝鮮による拉致問題の逆利用   
投稿者:倉西 雅子 (東京都・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-22 11:44 [修正][削除]
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 南北首脳会談に続き米朝首脳会談の開催も決定された頃から、日本国内からも、日朝首脳会談を勧める意見が散見されるようになりました。この流れに乗せられてか、安倍首相も同会談に積極的な意向を表明するに至っています。しかも、拉致問題解決を最優先の議題に据えたいようなのです。こうした日本側の動きを見越して、北朝鮮の金正恩委員長からも対日交渉の扉は開かれているとするメッセージが発せられているようです。しかしながら、この流れ、拉致問題を巧妙に利用した一種の詐欺ではないかと思うのです。何故ならば、日本人拉致事件とは、紛れもない北朝鮮による国家犯罪であり、拉致被害者の解放は、当然のことであるからです。国内法である刑法においては略取又は誘拐の罪に当たり、加害者は厳正なる裁判の下で刑罰を受ける立場にあります。

 ところが、マスメディアの報道ぶりを見ますと、拉致事件の解決=平和=北朝鮮礼賛の三段論法的な構図が演出されており、その犯罪性が隠蔽されているかのようです。しかも、核・ミサイル問題の解決とは切り離した見解も多く、日朝交渉に限定すれば、金委員長の‘英断’によって拉致被害者の帰国が実現すれば、直ぐにでも日本国側の対北経済制裁が解除され、日朝国交正常化まで進展するかのような印象を与えているのです。北朝鮮の策略とは、核・ミサイル問題は脇に置き、拉致事件を前面に打ち出すことで、先ずは日本国政府を交渉の場に引出し、現行の経済制裁の緩和や多額の経済協力を伴う日朝国交正常化等を条件に拉致被害者を帰国させるというものなのでしょう。その際には、生き別れた被害者家族の再会という誰もの涙を誘う“感動的なシーン”が演出され、金委員長を勇気ある‘解放者’として讃えるものと推測されます。その真の姿が刑務所に行くべき犯罪者であるにも拘わらず…。

 そして、この点に関しては、安倍首相も、拉致事件の解決を最優先とし、かの平壌宣言に基づく日朝国交正常化に言及しているのですから、北朝鮮の巧妙な対日懐柔作戦に騙されているとしか言いようがないのです。この流れは、2002年の小泉元首相による訪朝時における“サプライズ外交”と類似しています。日本国政府は、またもや北朝鮮が仕掛けた同じ手に騙されるのでしょうか。

 “悪魔は、善から悪を引き出す”とされていますが、北朝鮮の手法は、拉致問題が人道問題であることを逆手にとった一種の詐欺のように思えます。拉致事件の解決に対しては、人道問題であるだけに心理的に反対意見の表明が憚られ、北朝鮮による詐欺を見抜いての冷静、かつ、合理的な批判であっても、マスメディア等から非人道的な見解として手厳しく叩かれかねません。国家犯罪が人道の名によって“善行”にすり替えられ、しかもその先には、日本国からの莫大な経済支援という詐取が潜んでいるのです(経済支援を受けた後に、日米に向けた核開発が再開される可能性もある)。このように考えますと、マスメディアによる“バスに乗り遅れるな”式の日朝交渉の薦めに煽られることなく、日本国政府も国民も、冷静に北朝鮮の悪を見据えるべきではないかと思うのです。

トランプ政権の貿易黒字削減要求に怯える習政権   
投稿者:田村 秀男 (東京都・男性・ジャーナリスト・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-21 20:51 [修正][削除]
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3323/3327
 米トランプ政権は、今月初旬に北京で開かれた米中通商協議で対米貿易黒字2000億ドル(約22兆円)削減を求めた。この対中強硬策について、英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙のチーフ・エコノミクス・コメンテーター、マーティン・ウルフ氏は9日付のコラムで、「2000億ドルもの削減要求はばかげている」とトランプ氏を非難。「米国が築き上げてきた貿易制度を支える非差別主義や多国間協調主義、市場ルールの順守といった原則に反する」「トランプ政権よりも国益をよく理解している米国人は、米国が対立を望むようならいずれは孤立するということを理解すべきだ。それが自分勝手ないじめっ子となった指導者のたどる運命である」(10日付日本経済新聞朝刊の翻訳記事から)という具合である。

 2000億ドル削減は、トランプ政権が事前にまとめた対中要求案のたたき台「米中貿易関係均衡に向けて」に盛り込まれている。まず、2018年6月から12カ月間で1000億ドル、さらに19年6月から12カ月間で1000億ドルを追加し、20年には18年に比べて2000億ドル削減すると期限を設定している。同時に中国による知的財産権侵害やサイバー攻撃の停止、進出米企業に対する投資制限の撤廃、中国企業の米情報技術(IT)企業買収に対してとる米側の制限措置の受け入れなどを求め、中国側には報復するなと迫っている。その過激さから、FTは「最後通告」だとみなしたわけだ。

 実際に、米中は「貿易戦争」に突入するだろうか。上記の要求案のただし書きを読むと、同案はあくまでも事前に用意された草案であり、対中協議の進展具合で見直されるとの説明付きだ。大上段に振りかぶって相手を威圧し、大きな譲歩を引き出すのがトランプ流取引だとすれば、結果はめでたく握手、という可能性も否定できない。現に、トランプ氏は米国から部品供給禁止の制裁を受けている中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)が経営難に陥るのをみるや、「救済の手を差しのべてもよい」と中国の習近平国家主席に申し出た始末である。6月12日にシンガポールで開催される史上初の米朝首脳会談を控え、習氏の金正恩朝鮮労働党委員長に対する影響力行使を見込んだうえでの妥協だ。

 それでも、著者の見るところ、米中摩擦の鍵を握るのはやはり2000億ドル削減の可否である。中国の対外収支と米国の対中貿易赤字を対比してみた。中国の貿易黒字の大半を占めるのは対米黒字だ。貿易黒字から、国民の海外旅行、特許使用料、進出外国企業の収益など差し引いた経常収支で大きく減る。最近では年間2000億ドルを下回る。対米黒字を2000億ドルも減らせば、経常収支は赤字に転落する。すると中国は外貨準備を取り崩さざるをえなくなりかねない。外準こそは中華経済圏構想「一帯一路」など習政権の対外膨張策の軍資金である。習氏はおびえているはずだ。

チョムスキー 氏の米国撤退論は愚の骨頂   
投稿者:前田 智紀 (千葉県・男性・会社員・30-39歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-19 23:58 [修正][削除]
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 生成文法理論などで知られる言語学者のノーム・チョムスキー氏は、長年にわたる積極的な政治的発言でも有名です。このチョムスキー氏が、数日前、ニューヨークで講演し、先日の板門店宣言に示された南北朝鮮の歩み寄りを積極的に評価するとともに、朝鮮半島問題の解決(和平、非核化、統一など)は当事者である南北朝鮮の主体性に委ね、米国はこの問題から手を引くよう示唆したとの報道に接しました。いかにもチョムスキー 氏らしい主張でありますし、同氏のような主張は、我が国でも左派のみなさんからちょくちょく出てきます。

 チョムスキー氏は、かねてから、米国こそが世界の「ならず者国家」であり、世界各地を踏み荒らし、人倫を蹂躙し続けている、というのが持論です。北東アジアについても、米国がいつまでも撤退せずにのさばっているから情勢が緊張し続けるのだ、という理解のようです。したがって、とりあえず米国は引っ込め、という話になるわけです。しかし、こうしたチョムスキー氏の議論には、致命的な欠陥があります。つまり、たしかに米国には、いわゆる旧世界の国々に比べ、歴史観や情勢判断において、即断即決の動きをとる傾向にあり、ときに世界各地で混乱をきたすことはあります。しかしながら、たとえいくつかの行き過ぎや失敗があったとしても、米国のがんばりがなければ、戦後世界の平和と繁栄はこれほどまでは達成されなかったことは間違いありません。したがってチョムスキー氏のような考えはあまりに一面的に過ぎると言わざるを得ません。

 朝鮮半島問題に話を戻すますと、たしかにこの問題は、南北朝鮮という当事者の意思を無視した解決はあり得ないことはたしかでしょう。しかしこの地域には、南北朝鮮だけでは制御できるわけもない国際システムがしかと成立しており、そこには中国も日本もロシアも米国も絡んでいて、微妙なバランスを保っているわけです。何より、この点がチョムスキー氏には見えていない致命的な部分です。したがって、この問題の解決には、南北朝鮮の主体性を尊重しつつも、この地域の国際システムをいかに安定理に制御していくかという課題が必然的に伴うといえます。その意味では、こと米国に関していえば、朝鮮半島問題をめぐっては、引っ込み過ぎてもよくないし、出しゃばり過ぎてもよくない、と考えるべきでしょう。いずれの場合にも地域の国際システムにひずみが生じてしまうからです。

 さて、このバランス感覚をトランプ大統領がどれほど持ち備えているかですが、なかなか危なかしいものがあります。なにせトランプ大統領は、あまりに多国間主義の意味を理解していません。こう書いてまいりますと、米国悪玉論に拘泥し国際システムの機微を見ようとはしないチョムスキー氏と、二国間主義にこだわり、多国間主義をまったく理解しようとしないトランプ氏は、意外にもその短絡的な国際政治観において近接的な感覚を共有しているのではないか、という気がしてきました。とにかく国際政治を考えるには、アートに近いセンスが必要だということです。

インドと日本の音楽交流   
投稿者:児玉 克哉 (愛知県・男性・社会貢献推進機構理事長・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-19 22:44 [修正][削除]
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 インドは最後の超大国と言われます。13億の人口は近いうちに15億になると予想されています。すでに人口の減少が始まった日本とは異なった展開です。インドはまた親日国としても知られます。日本に対する好感度は高く、日本の工業技術力だけでなく、日本文化への好意や憧れも強いといえます。モディ政権と安倍政権との協力関係も強く、アフマダバードとムンバイ間の新幹線プロジェクトもインドでは大きな話題となっています。自然崇拝や多神教などにおいてもインドと日本は共通点が多く、親近感はあります。

 といいながらも、現在のところでは、日本とインドとの経済交流や文化交流はまだまだ限定的です。ちょっと前まで、インドのビザの取得に時間を要したことやインドの専門家が他のアジア諸国と比べて非常に少なかったことなどが影響しているのでしょう。インドと日本とはお互いに好感を持ちながらも、実際にはあまり理解し合えていない仲と言えるでしょうか。この未完の大国インドに4月、日本の音楽ユニット「神雅氣」(Shinki)が大学・学校を中心にコンサートツアーを行い、大きな反響を得ました。「神雅氣」は、教育活動、環境保護、平和、人権などをテーマに世界的に活動をする稀有な音楽ユニットです。日本を代表するブルースギタリスト高谷秀司と、静寂の次に美しい歌声をもつシンガーソングライター小川紗綾佳による魂の音楽ユニットと言われます。日本人離れした2人のグルーヴと繊細でダイナミックな音色は、「宇宙を彷彿とさせる」と定評があります。

 この異色のユニットは、インド・グジャラート州のアフマダバード市を中心に、JB芸術大学やSBVP平和センターなど5ヶ所でコンサートを行いました。グジャラート州はマハトマ・ガンジーが生まれ、活動を行った地でもあります。それだけに世界平和や非暴力・人権の意識は高く、「神雅氣」のコンサートへの期待も大きなものがありました。「神雅氣」の高谷氏と小川氏も実際にガンジーアシュラムなども訪れ、ガンジーのスピリットも感じることができたようです。平和・環境・人権などをテーマの「神雅氣」の音楽は、すべての会場で熱気を持って受け入れられました。平和を歌い、自然と人間のハーモニーを求めるユニット神雅氣。灼熱のインドで、会場はさらなる熱気に包まれました。彼らの音楽の迫力と繊細さにコンサートごとにスタンディングオベーション。インドに新たな衝撃を与えたといえます。これからの展開に夢が繋がります。

 日本では音楽に平和や環境、人権などのメッセージ性を入れない方向が強くあります。恋愛などをテーマにして、できるだけ思想性を入れないような「文化」があります。しかし世界では音楽と思想性とはかなり強く結びついています。「神雅氣」がインドでこれほどに熱狂的に受け入れられたことは今後のこうした方向での可能性を感じさせます。日本の音楽、日本の文化をインドだけでなく、世界に広めるためにはどうすればいいのでしょうか。日本の思想、日本のスピリットをさらに入れ込み、世界の人に伝える展開が必要なのでしょう。インドは、経済だけでなく、文化での交流の大きな可能性を秘めています。新たな展開が期待されます。

農民の視点から考える中国の憲法修正   
投稿者:加藤 隆則 (非居住者中国・男性・汕頭大学長江新聞與伝播学院教授・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-18 20:46 [修正][削除]
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 中国で今、最も不幸な集団があるとすれば、それは農民である。中国共産党は農民を組織して天下を取ったにもかかわらず、豊かになったとたん、かつての貧しい人々を見捨て、自らの利益を追い求めることに汲汲としている。この現状に心底から憤慨する人たちがいるとすれば、革命世代の二代目、紅二代だ。親たちが築いた貴重な土台が危機にさらされている。その紅二代の危機感を背景に政権を引き継いだのが習近平である。中国では、土地を失い、食糧を奪われ、何一つ失うもののない「無一物」の農民たちが決起し、王朝を転覆させてきた歴史がある。毛沢東は、工業先進国で生まれた社会主義思想を農村に適用した。そして、腹を空かした農民を組織し、都市部のブルジョア資本を代弁する蒋介石政権を打破できたのは、独自の歴史に学んだ結果である。だからこそ、農民の不満には敏感だった。

 忘れてならないのは、約100年前に中国共産党を結成し、最後には天下を取った指導者たちや同志たちもまた、土地に縛り付けられた農民だったということだ。党が腐敗し、本来、最も多く成長の果実を分け与えられるべき農民たちが、逆に社会の底辺に追いやられ、汚染された土地と水の中で、成長の犠牲になっている。最低限の衣食が足りたとしても、出稼ぎ農民たちは、慣れない都市での生活で人間の尊厳を踏みにじられ、人並みの待遇を受けられない社会的貧困にさらされている。そして農村に取り残され、孤立した老人や婦女、子どもたちは、貧しさと不正義への不満をつのらせ、党幹部の腐敗に腹を据えかねている。毛沢東が、皆を国の主人公にすると約束したのはうそだったのか。「最初の話と違うじゃないか!」農村からの悲痛な叫びに耳を澄まし、納得のいく答えを出さなければ、中国共産党はその歴史的正統性を失って崩壊する。

 農民の怒りはもはや爆発寸前で、すでに小さな火種はあちこちに表出している。習近平自身が「このままでは党も国も滅ぶ」と強い危機感を公言せざるを得ない状況なのだ。今春の憲法修正も、あらゆる目的は党の存続につながっており、そのための選択として習近平政権の長期化が位置付けられている。単なる権力のゲームでは割り切れない深刻さがある。ある学生がこんなことを言っていた。「習近平が任期を超過するのはかまわないし、ふさわしい人がいなければそうするのが当然だと思う。ただ心配なのは、強力な指導者の後で、適格者が適切に政権を受け継がなければ、国内は混乱するのではないか」毛沢東後のことを想起すれば、至極まともな視点だ。当時は、鄧小平が華国鋒を追いやり、軍系統のほか、胡耀邦ら開明的な勢力を味方につけ、改革開放に舵を取った。毛沢東の権威を温存しつつ、それを巧みに利用しながら、党分裂の危機をなんとか乗り越えた。習近平は党の危機に際し、紅二代の強力なバックアップを土台に、反腐敗キャンペーンで権力基盤を固め、さらに憲法修正を通じ法治による正統性を求めている。

 習近平はまた、中華民族の偉大な復興、いわゆる「中国の夢」のスローガンによって人民を団結させ、民衆動員を通じ党の正統性を強化しようともくろむ。その壮大な目標の前で、憲法は、動員される舞台装置の一つとなる。習近平は「中国の夢」として、「二つの100年」目標を掲げている。共産党創設100年(2021年)にゆとりある社会(小康社会)を全面的に築き、建国100年(2049年)には富強で、民主的で、文明を備え、調和のとれた社社会主義近代化国家を建設する。つまり、半植民地化からの独立を願った孫文以来、歴代の指導者が夢見てきた念願の先進国入りを国家目標としている。後者の目標を達成すべき2049年、習近平は96歳である。親たちの遺志を受け継ぎ、民族復興の事業を完遂させた元老として天安門の楼城に立ち、党の事業を継承した功績に身を震わせる姿を想像しているに違いない。今春の修正で、憲法前文(序言)には「中華民族の偉大な復興を実現させる」「習近平新時代の中国の特色を持つ社会主義思想の指導」が書き加えられた。実際に実現されたときには、さらなる書き換えが必要となる文言である。習近平は次の憲法修正を見届けたいと思っているのだ。この国ではそのぐらいのスパンで物事をみないと、確かなことは何も見えてこない。

「財務」の本質を忘れてはならない   
投稿者:田村 秀男 (東京都・男性・ジャーナリスト・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-16 17:23 [修正][削除]
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3319/3327
 学校法人「森友学園」への国有地売却をめぐる公文書改竄や口裏合わせ工作の露呈に続く、セクハラ問題による福田淳一事務次官の更迭。相次ぐ不祥事でささくれだった財務省の外皮をはぎ取ってみると、国家と国民を豊かにする使命を果たさず自壊するいびつな構造が見える。財務省が日本経済に占める地位は絶大である。一般会計と特別会計の歳出純合計は平成28年度で363兆円、国内総生産(GDP)の67%を占める。このうち、国債借換償還額を除いても254兆円で47%である。国内で支出されるカネの7割近く、あるいは実体経済の5割近くを財務省が差配していることになる。カネは情報と一体になっているのだから、財務官僚は政財官学、さらにメディアにも強大な影響力を直接、間接に行使できる。首相も、国会議員も、財務官僚の協力がなければ無力だ。財務官僚がおごるのは無理もない。だからといって、「絶対的権力は絶対に腐敗する」という英国の格言を財務官僚に当てはめるつもりはない。一連の不祥事は「絶対的権力」者としてはあまりにもちまちましている。いじましいほど、つじつま合わせに奔走する小ざかしいだけの小物役人の作為であり、できそこないのドタバタ喜劇である。

 早い話が福田氏のセクハラ問題調査に関する財務省声明(4月16日付)だ。「一方の当事者である福田事務次官からの聴取だけでは、事実関係の解明は困難」とし、被害者とされる女性記者の「協力」を求めた。これには「二次被害が出る」と与党からも反発が出るほどだったが、矢野康治官房長らは通常のトラブル並みに双方の言い分を聞くのが当然と信じきっていた。セクハラ事件で配慮すべき社会的要因は頭の中にはない。財務省主流の主計局などで予算の歳出と歳入のバランスにこだわり続けているうちに、まずはきちんとつじつまが合わないと落ち着かない性分になったのだろう。森友文書改竄問題はどうか。佐川宣寿前国税庁長官の国会答弁と矛盾しないように決裁文書を書き換えた。国有地売却価格を約8億円値引きした理由をもっともらしくみせるために、ゴミ撤去の口裏合わせをよりにもよって森友学園側に依頼した。最高学府の法学部出身者が多数を占める財務官僚がルールを踏みにじる。帳尻合わせに執念を燃やす企業の経理オタクのようである。筆者の知り合いの元財務省幹部は「後輩たちは経理屋か」と嘆く。

 確かに、財務官僚式財政学は経理的思考方法そのものである。歳出削減と増税によってこそ、財政は均衡、つまり健全化すると信じてやまない。足し算、引き算を基本に、帳尻を合わせる家計簿に似ている。財務省のホームページでは、国の財政を家計に例え、一家計のローン残高5397万円に相当すると堂々と論じている。国民は金融機関経由で政府債務の国債という資産を持ち、運用している。それを国民の借金だと言い張り、緊縮財政や増税への賛同を求める。賃上げ幅が物価上昇率に追いつかないとデフレ経済になり、GDPの6割を占める家計消費が減る。なのに財務省は消費税増税によって物価を無理やり押し上げる。アベノミクスによって回復しかけた家計消費は消費税増税によって、しぼんだままだ。国家財政を経理屋が担うから、日本はいつまでたってもデフレから抜け出せないのだ。

 財務は資産と負債のバランスで成り立ち、債務が増えないと資産は増えない対称的な関係にある。企業なら株式発行や借り入れによって資金調達して負債を増やし、設備投資や企業買収によって資産を増やす。財務とは、成長を考え、実現するための中枢機能である。国家経済は貸し手と借り手で成り立つ。借り手がいないと国は成長できない。国民は豊かになれない。資本主義なら、企業負債が家計の資産を先導する。企業は負債側にあるが、株式を除くと昨年末で616兆円の純資産を持っている。家計と同じく貸し手側だ。となると、家計が豊かになるためには政府に貸すしかない。政府が借金を減らすなら、貸し手の家計は為替リスクのある海外に貸すしかない。財務官僚は増税で家計から所得を奪うことしか頭にない。財務官僚は「財務」を忘れてしまった。

北朝鮮情勢に関する見方   
投稿者:鈴木 馨佑 (東京都・男性・衆議院議員(自由民主党)・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-14 17:14 [修正][削除]
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3318/3327
 4月30日から同僚議員とともに日米韓の国会議員によるシンポジウムに出席するため、ワシントンに出張しています。議論の中心はちょうど南北の会談があった直後ということもあり、北朝鮮をめぐる問題が中心でした。私からは、日本の懸念として(1)米朝首脳会談で金正恩の演技に騙され「悪い」合意をしてしまうこと、(2)北朝鮮は当面の危機であり東アジアにとっての真の脅威は中国であること、(3)アメリカがどのくらい真剣にアジアに関与し続けるかをアジア各国が注目しており、TPPからの離脱は明らかに誤ったメッセージを送っており、中国の圧力を考えれば、アメリカが東アジアにコミットすることをアジア各国に行動で明確に示さなければ中国に各国が寄らざるを得なくなってしまいかねないこと、を基本のラインとして主張し続けたところです。

 実際様々な意見交換や会議での議論を通じて感じたことは、ワシントンにおいて、あるいは韓国の野党の発言によればソウルにおいても、日本ほど北朝鮮の核放棄に楽観的ではないことでした。その一方で北朝鮮が既に核を持ってしまっている以上、核放棄を交渉によってさせることは事実上困難であるとの認識をアメリカの当局関係者すら持っていることに正直衝撃を受けたところです。

 金正恩が交渉のテーブルにつこうとしていることについては、アメリカの武力攻撃の可能性、経済制裁、核開発が完了したこと等がその背景にあるとの認識は共通したものでしたが、金正恩に核放棄をする合理性が無い状況の中で、武力攻撃なしに北朝鮮が核放棄を具体的にすることが現実問題可能なのか、正直まだその可能性を想像できないというのが正直な感覚です。少なくとも、アメリカによる武力攻撃の可能性が無くなれば、北朝鮮が核放棄に動く可能性は皆無となります。武力行使の可能性も含めた圧力を北朝鮮が完全な核放棄をしたことを確認できるまでかけ続けることは当然不可欠ですし、北朝鮮に対して不可逆的な状況を確証する具体的な要求を期限を明示して明確な検証プロセスとともに受け入れさせることができるか、米朝首脳会談に向けたプロセスがまさにこれから正念場です。

 引き続き状況を楽観を排し、しっかりと注視していきたいと思います。ちなみに、滞在中のワシントンのホテルでは、何とChina Daily、つまり中国共産党の機関紙である人民日報の英語版が、無料の新聞として、ワシントンポストと並んで積まれていました。現地の人によれば、週一回程度はワシントンポストに無料で挟まれて配達されているとも。中国のアメリカの世論工作の一端を垣間みた気がします。日本としてもしっかりとした対策が必要です。

「為替条項」は日米通商を壊す愚かな選択   
投稿者:田村 秀男 (東京都・男性・ジャーナリスト・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-11 13:07 [修正][削除]
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3317/3327
 4月の日米首脳会談で両国は、通商問題についての新しい対話開始で合意した。トランプ政権側の狙いは為替条項付きの日米自由貿易協定(FTA)の締結にある。為替条項によって、日本側は通貨・金融政策で大きな制約を受けるばかりではない。2国間の貿易不均衡を是正できないし、日本経済を停滞させかねない。日米の貿易収支を円ベースの日本側統計とドルベースの米側統計の両面で追い、円の対ドル相場と対比させてみた。対米黒字のトレンドは円ベースとドルベースではかなり違う。黒字額は円ベースの場合、円安に連動して黒字が増え、円高とともに減る。その点では、米側の主張通り、為替条項は不均衡是正には有効と見えるが、虚像である。

 トランプ政権が目指す貿易赤字の縮小は、もちろん米側統計のドルベースのほうである。ドルベースの対米黒字は円ドル相場に反応しないのだ。統計学でいう円ドル相場とドルベースの貿易黒字の相関係数(完全な相関関係は1)は0・1と相関関係はなきに等しい。円ベースの場合、為替相場との相関係数は0・86と極めて高い。円高ドル安になっても、逆に円安ドル高でも対日赤字水準はほとんど変わらない。円高ドル安でも米国にとって対日赤字は減らないのだ。

 円ベースで動く日本経済のほうは、円ドル相場に翻弄される。1ドル=80円未満の超円高だった2012年前半、日本の対米黒字は年間4兆円台だったが、同年末のアベノミクス開始後の円安傾向とともに円ベースの黒字額は膨らみ、14年以降は6兆~7兆円台に達した。この黒字増加額は国内総生産(GDP)の0・4~0・6%に相当する。経済成長率がゼロ・コンマ%台の日本の命運はまさに円ドル相場で左右される。為替条項によって、日本が半ば強制的に円高ドル安政策をとるハメになれば、景気はマイナス成長に落ち込み、円相場に連動する株価も下落する。日本経済はデフレ圧力とともに沈む。だからといって、米国経済が対日赤字削減で浮揚するわけではない。日本の需要が減退すれば米国の対日輸出も減る。為替条項は日米双方にとって何の成果ももたらさないどころか、日米通商を破壊しかねない不毛の選択だ。

 為替条項は日銀の金融政策を制約するばかりでなく、急激な円高局面での円売りドル買いの為替市場介入も米側の厳しいチェックにさらされる。これら日銀や財務省にとっての不都合さをタテに為替条項に反対したところで、トランプ政権は引き下がるはずはない。むしろ、日本側が為替条項をいやがるのは、意図的な円安をもくろんでいるからだとする疑いを強めるだけだろう。安倍政権としては上記のように、為替条項は日米の経済にとって不毛な結果しか生まないと、粘り強くトランプ政権を説得すべきなのだ。

(連載2)政治的演出に終わった南北首脳会談 ← (連載1)政治的演出に終わった南北首脳会談  ツリー表示
投稿者:斎藤 直樹 (神奈川県・男性・山梨県立大学教授・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-10 19:41 [修正][削除]
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3316/3327
 それ以降、金正日は虎の威を借る狐のごとく先代の「朝鮮半島の非核化」を吹聴し、さらに金正恩までも二人の先代が遺した同様の文言を繰り返しているのである。こうした経緯を踏まえたとき、「完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島」という文言は実に警戒を要する文言であろう。韓国内の在韓米軍基地に配備された核兵器は1991年までに撤去されたことにより、韓国に核兵器は存在しないとされることから、「完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島」はすなわち、北朝鮮の非核化を指すことになろう。ところが、これを北朝鮮の非核化と同義であるとみるのは少し楽観的な解釈であると言わざるをえない。「完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島」としたところに金正恩の深い拘りがあることを勘案すると、何故、北朝鮮の非核化が「完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島」に摺り替わったのか考える必要があろう。

 「完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島」に金正恩が言外に含みを持たせたと言えるではなかろうか。その含みとは何なのか。韓国内には核兵器は存在しないとは言え、韓国は米国による拡大抑止、すなわち「核の傘」の提供を受けている。「核の傘」の論理に従えば、もし北朝鮮が韓国に対し核攻撃を仕掛けることがあれば、米国は北朝鮮に対し壊滅的な核報復を断行するという意思を明確にすることにより、北朝鮮が韓国への核攻撃を思い止まらせる内容である。「完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島」という文言を踏まえと、もしも北朝鮮の非核化をトランプが強く求めるならば、韓国は米国による「核の傘」から離脱しなければならないと金正恩が反駁するという論理に発展しかねない。すなわち、金正恩にとってみれば、「完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島」を実現するためには米国による「核の傘」の提供もまた破棄されなければならないことになるのではないか。言葉を変えると、韓国が今後も米国による「核の傘」の提供を受ける限りにおいて、北朝鮮の最小限の核攻撃能力は核抑止力として保持されなければならないという論理につながりかねない。この結果、対韓核攻撃能力は温存されるという帰結を導きかねないのである。

 さらに北朝鮮の核関連施設の多くが未だに特定されていないことから、非核化の実施にあたりトランプが核関連施設の特定とそうした施設への厳格な査察を要求することになろう。これへの対抗要求として金正恩が撤去された核兵器の有無を確認するとして在韓米軍基地への査察を求める可能性もないわけではない。さらに北朝鮮に核の脅威を及ぼすとして米領グアム島に展開する米軍の核関連施設の査察についても金正恩は言い出しかねない。そうなれば、非核化を巡る取組みはどこまでも拡大し複雑化しかねない結果、途方もなく時間と労力を要する可能性がある。また北朝鮮の非核化を論ずる際には非核化が完了する時期だけでなく非核化対象となる施設の所在置、核分裂性物質の種類と分量、核弾頭数などが明示されないと、非核化は曖昧かつ不透明なままである。しかし板門店宣言では非核化の具体的な内容には言及がなかった。この結果、金正恩による非核化への取組みが本当であるかは依然として不明確である。政治的な演出に惑わされないよう現実に生起している事柄を注視し精査しなければならない。2018年3月上旬以降、金正恩はトランプに非核化の意思表示を幾度となく行いながら、現実はそれとは相容れない経過を辿っているからである。

 4月20日の朝鮮労働党中央委員会総会での決定書「経済建設と核武力建設並進路線の偉大な勝利を宣言することについて」の採択は重大な意味を持つ。その中で2013年3月に同総会で採択された「経済建設と核武力建設の並進路線」の完遂を宣言し、今後「経済建設に総力集中する新路線」を踏襲することを明らかにした。また金正恩は核実験やICBM発射実験の中止と核実験場の廃棄を謳ったとは言え、金正恩が言及した「核兵器兵器化の完結が検証された」という文言は非核化に向けてどころか逆に核ミサイルの実戦配備を通じ核攻撃能力を完成したことを滲ませる内容であった。すなわち、対米核攻撃能力を放棄する用意はある反面、対韓・対日核攻撃能力を堅持すると印象付けようとした感を受ける。4月20日に総会で採択された決定書と言い、4月27日に合意された板門店宣言と言い、非核化を巡る曖昧さと不透明さは一層増したことになろう。文在演は米朝首脳会談への橋渡しを行ったと自負しているであろうが、実際には非核化を曖昧かつ不透明にしたままトランプに下駄を預けたと表現できるであろう。トランプは南北首脳会談の成果を高く評価したとは言え、北朝鮮による非核化への取組みについて何ら煮詰まらなかった結果、非核化を巡る決着は天王山と言うべき米朝首脳会談に委ねられることになったのである。(おわり)

実質的には何も変わっていない北朝鮮情勢   
投稿者:鈴木 馨祐 (東京都・男性・衆議院議員(自由民主党)・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-09 13:24 [修正][削除]
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3315/3327
 南北首脳会談が行われ「板門店宣言」に署名がされました。今後米朝首脳会談も予定され、様々な可能性が予測されています。メディアなどでは特に日本国内にあっては一気に楽観ムードに転じているようなきらいがあります。そのような中、我々には日本の政治家として日本国民の安全を守る責務がある。日本の安全保障の観点から、楽観を排し、正確な分析の下であらゆる事態を想定していかねばなりません。一つ表面的な楽観に違和感を覚える一つの理由として、金正恩が核放棄する可能性を、ニュートラルに見すぎているのではないかという点は指摘しておかねばなりません。

 金正恩がある程度政治的に成熟した社会制度のもとでのリーダーであれば、そのような分析は適切かもしれません。しかし、三代世襲で独裁国家、さらには粛正を繰り返し恐怖政治を国内で行っている現状を考えれば、金正恩が果たして本気で核廃棄する可能性があるのか、正確な分析・検証が必要であろうと思われます。まず、金正恩がサダム・フセイン元イラク大統領、リビアのカダフィ元大佐の事例を詳細に検証していることは想像に難くありません。アメリカのプレッシャーの中で「丸裸」になったために殺害されたという事例を。金正恩のような独裁者にとって、自らの命をどう守るかが極めて優先順位の高い命題である可能性は極めて高い。いくらアメリカが体制の保障、命の保障をしたところで、そんなものを信じるはずが無く、それを易々と信じてホイホイ交渉のテーブルにつくとは考えづらいところです。金正恩には核を放棄する合理性がどこにも存在しない。むしろ、金正恩が核を放棄するという選択は存在しないと考えるのが自然です。

 唯一可能性があるとすれば、中国がアメリカとの緩衝地帯としての北朝鮮という国家の存在を死活的に重要なものと考えていることがあるとすればあります。中国が北朝鮮の崩壊を断固として阻止する可能性は高く、中国は現在の世界で唯一(ロシアに関してはいろいろな見方があるが経済力など国の総合力から判断して唯一。)アメリカの意向を押し返せる軍事的な能力と意志を持つ国だからです。しかし、問題はその中国も必要としているのは、自らの意向に添う北朝鮮という国であって、金正恩ではない、という現実です。金正恩のような予測不可能なリーダーを中国が望むとは逆に考えられません。金正恩に、自らの命の安全と引き換えに得たいものがあるとは到底考えられず、客観的に見れば、今の融和ムードは表面的な一瞬のものにすぎないのではないかと思われます。

 金正恩とすれば、アメリカの攻撃圧力の前で、認識をある程度共有する文韓国大統領と気脈を通じて派手な和平への演出を行い、不確実性が囁かれるトランプ大統領に徹底的に気に入られるような演技を米朝首脳会談で行うことで、当面の時間稼ぎをする、というのが一番合理的な行動です。まさにアメリカを騙すための演出を徹底的にすることが、米朝首脳会談前に全知全能を傾けて行うべきこと、そしてそこでなるべく曖昧なところで手を握れれば、あとはのらりくらりとやっていける、というのが金正恩にとっての最も可能性の高い合理的な行動です。詳細に分析すると、非核化に関して何ら新しいことが書かれず、具体的なものも何も書かれていないという、今回の「板門店宣言」の内容そのものが、こうした金正恩の思惑・シナリオを何よりも雄弁に語っているとも言えます。今後の数ヶ月間、将に予断を許さない状況です。政府与党の一員として、表面的な事象に踊らされず、楽観的でない的確な分析・検証により、日本の国益と安全を守り抜けるよう、全力で努力していきたいと思います。

(連載1)政治的演出に終わった南北首脳会談  ツリー表示
投稿者:斎藤 直樹 (神奈川県・男性・山梨県立大学教授・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-09 01:41  
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3314/3327
 2018年4月27日に南北首脳会談が、南北を分ける軍事境界線上の板門店の「平和の家」で開催された。テレビ中継された映像から、文在演韓国大統領が金正恩朝鮮労働党委員長と真摯かつ真剣に語り合った様子がうかがえた。金正恩は南北首脳会談に向けて盛り上がった雰囲気を損ねるような言動を慎み、終始笑顔を絶やさず文在演との融和ムードを演出しようと振舞った印象を与えた。その意味で、韓国民だけでなく世界の人々がここ数年抱いてきた金正恩への警戒心を解くことに大分寄与したかもしれない。首脳会談後の韓国民の多くの反応は金正恩に親近感を覚えたという好意的なものであった。他方、文在演も金正恩に誠心誠意、接したとの印象を与えた。その意味で、政治的な演出は想像以上に見事であった反面、懸案の非核化を巡る前進はあったであろうか。南北首脳会談において取り上げる主な議題は非核化、平和体制の構築、南北関係の発展の三点とされた。事前の折衝において平和体制の構築や南北関係の発展ではかなり前進をみた一方、非核化での溝は埋まらないまま首脳会談を迎えた。文在寅と金正恩の両首脳は「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」に調印した。その骨子を引用すると次の通りであった。

 「・南と北は民族経済の均衡的な発展と共同繁栄を実現するために、『10.4宣言』で合意した事業を積極的に推進【する】・・」。南北関係の発展について南北共同事業を再開し経済協力を大々的に推進することが謳われた。南北共同事業を再び活性化し韓国から多額の資金を呼び込むことにより、徐々に制裁網を空洞化したい金正恩にとって願ったり叶ったりの文言であろう。経済協力の推進が現在北朝鮮に対し科されている厳しい経済制裁に穴をあけかねないことが懸念される。「・南と北は停戦協定締結から65年になる今年に、終戦を宣言し、停戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制の構築のための南北米3者、南北米中4者会談の開催を積極的に推進していくことにした」。平和体制の構築として南北、米国、中国の会談の開催に向けて尽力することになった。1953年7月の朝鮮戦争休戦協定の調印から65年経つことを踏まえ、2018年中に朝鮮戦争の終戦を正式に宣言することが謳われた。また休戦協定を平和協定に転換することも考慮されたとは言え、平和協定の締結は必ずしもよいことばかりではない。平和協定の締結により米朝がもはや敵対関係にないことになれば、何故に在韓米軍が韓国に駐留する必要があるのかその存在理由が問われてもおかしくはない。その結果、遅かれ早かれ在韓米軍の撤収が叫ばれるといった事態に発展しかねない。

 「・南と北は、完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した」。北朝鮮が核を廃棄して初めて見返りを与えるというトランプの考える非核化への取組みと、金正恩の持論とされる段階的かつ同時並行的な非核化の取組みはその実施手順が著しく異なっており、また文在演が非核化についてどっちつかずの捉え方をしていることもあり、事前の折衝では折り合いがつかないまま首脳会談を迎えることになった。結局、上記の文言で落着した通り、非核化はあくまで玉虫色の曖昧かつ不透明なものとなった。北朝鮮の非核化へ向けた取組みが言及されないままに終わったことは文在演が金正恩に擦り寄ったとみるべきであろう。「完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島を実現する」とはどのようにも解釈される文言である。この文言の元になったのは2018年3月26日の中朝首脳会談で金正恩が習近平を前にして「祖父の金日成主席と父の金正日総書記の遺訓に基づき、朝鮮半島非核化の実現に力を注ぐのは我々の終始一貫した立場である」と言明したことである。

 この中で金正恩が金正日の遺訓としたのは金正日が2005年6月に訪朝した鄭東泳(チョン・ドンヨン)韓国統一相に対し「朝鮮半島の非核化は先代の遺訓であり、依然、有効である」と述べた文言である。しかし実際に起きたことは2006年10月の第1回核実験であった。さらにその金正日が金日成の遺訓としたのは、1991年12月に合意された「朝鮮半島非核化共同宣言に関する最終合意」であった。当時、ブッシュ大統領が91年9月に戦術核撤去宣言を行うと、これに呼応して盧泰愚(ノ・テウ)大統領が同年12月に韓国領内の「核不在宣言」を行うに至った。これを受ける形で、金日成は「われわれには核兵器を作る意思も能力もありません」と事ある度に言明した。「朝鮮半島の非核化」は金日成にとって実に都合のよい文言であったことが理解できよう。この文言を通じ韓国展開の核兵器の撤去を確実にすると共に、自らは核兵器開発を本格化させる契機となった。すなわち、「朝鮮半島の非核化」という文言は金日成にとって韓国の非核化と北朝鮮の核兵器開発を実現させた、いわば一石二鳥の魔法の言葉であったのである。(つづく)

北朝鮮は核を放棄しない   
投稿者:加藤 成一 (兵庫県・男性・元弁護士・70-79歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-08 11:00 [修正][削除]
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3313/3327
 4月27日軍事境界線のある板門店で韓国文在寅大統領と北朝鮮金正恩労働党委員長との間で「南北首脳会談」が行われ、両首脳は、「完全な非核化を通じて核のない朝鮮半島を実現する共同の目標を確認した」とする「板門店宣言」に署名した。しかし、この「宣言」によって朝鮮半島の「非核化」が実現する保証はない。1991年12月には南北間で「南北非核化共同宣言」がなされ、さらに、2005年9月には6か国協議で「朝鮮半島非核化共同声明」が合意されたが、「非核化」は実現していない。金正恩委員長は、3月5日北朝鮮を訪問した韓国大統領特使団に対し朝鮮半島非核化の意思を示し、「北朝鮮への軍事的脅威が解消され、体制の安全が保証されれば、核を保有する理由がない」旨述べたとされるが、すべて条件付きの「非核化」であるうえ、その条件である「軍事的脅威の解消」や「体制の保証」は、北朝鮮側の一方的な判断如何にかかっている。

 北朝鮮側は、「非核化」のための「軍事的脅威の解消」や「体制の保証」の条件として、早晩アメリカに対して、米朝平和友好条約締結、米韓合同軍事演習の廃止、在韓米軍の全面撤退、高高度防衛ミサイル(THAAD)の撤去、米韓相互防衛条約の解消、さらには朝鮮半島統一の実現などの諸条件を要求してくる可能性がある。すなわち、彼らのいう、アメリカによる一切の北朝鮮敵視政策の撤廃である。「非核化」のための「軍事的脅威の解消」や「体制の保証」の条件が実現したかどうかがすべて北朝鮮側の一方的な判断如何に依存している以上、いまだ諸条件が実現していないと主張して「非核化」を拒否することも可能である。そのうえ、北朝鮮が核を保有する真の目的が、単にアメリカに対する「体制の保証」だけではなく、朝鮮半島の軍事的統一、韓国及び日本に対する核による軍事的優位性の確保、中国に対する独立性の確保、国際社会に対する発言力の確保、国内統治上の必要性などをも含むとすれば、なおさら北朝鮮による「非核化」の可能性はない。

 国内統治上の必要性については、北朝鮮は2012年4月の憲法修正で自らを「核保有国」と憲法上明記しているから、北朝鮮が「核保有国」であり続けることは、金正恩委員長にとっては国内統治の正統性の根拠であり、「非核化」はその根拠を失うことを意味する。したがって、この点からしても「非核化」の可能性はない。仮に、米朝首脳会談において、金正恩委員長がトランプ大統領から期限を切った「非核化」を迫られた場合は、共同声明では「非核化」を約束しても、実際にはその履行を引き延ばしたり、あとから条件を付けて約束を反故にするなど、「偽装非核化」の合意をする可能性がある。

 北朝鮮にとっては、核・ミサイル開発の完成は、金日成、金正日の時代から長年にわたって、経済制裁などあらゆる犠牲を払い邁進してきた最優先の国策であり国家目標である。北朝鮮にとっての核は、6回に及ぶ核実験と多数回のミサイル発射実験の結果、今やアメリカにも脅威を与え得るいわば「伝家の宝刀」でもある。だからこそ憲法を修正し「核保有国」である旨を憲法上明記したのである。このように、北朝鮮がようやく獲得した「核保有国」としての地位をたやすく放棄することは到底あり得ないのであり、アメリカを含む6か国協議による「朝鮮半島非核化共同声明」の合意さえ反故にしてきた過去の経緯を考えれば、今回の金正恩委員長のいう朝鮮半島の「非核化」に限ってこれを信用すべき特段の理由はない、と言えよう。

(連載2)明らかになった金正恩の非核化の意味 ← (連載1)明らかになった金正恩の非核化の意味  ツリー表示
投稿者:斎藤 直樹 (神奈川県・男性・山梨県立大学教授・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-04 06:57 [修正][削除]
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3312/3327
 金正恩が今回、核実験やICBM発射実験を停止することを公にした主な事由は、既述の通り、もしも今後米国を著しく挑発する軍事挑発行為を強行することがあれば、トランプ政権は核・ミサイル関連施設へ空爆を断行する可能性が高いことを踏まえてのことであろう。他方、核実験場の廃棄という発言は初めてであるが、その背景には豊渓里の核実験場はこれ以上使用できない状況にあるとの判断があろう。と言うのは、これまで6回に及ぶ核実験は総て豊渓里の核実験場で行われた。2017年9月3日に強行された第6回核実験が事実上、初めての水爆実験であり、その爆発威力は広島型原爆の10倍以上に及ぶ160キロ・トン以上に達したことを防衛省は確認した。また中朝国境から遠くない豊渓里の核実験場は習近平指導部が中国東北地方への環境汚染の観点から問題視している施設である。

 ところで、総会での決定書は対米核攻撃能力が完成したことをトランプ政権に印象付けようしたものである。トランプ政権は2017年11月29日未明の「火星15」型ICBM発射実験において最難関技術とされる「再突入技術」が確立されていないと結論づけている。とは言え、ミサイル専門家は一年以内に技術的な課題が解決され、米西海岸を射程内に収めるICBMが完成するであろうと推察している。そうした警鐘を鳴らす推察に立てば、今後核実験やICBM発射実験を停止するということは、対米ICBMの完成に何よりも神経を尖らせているトランプ政権からみればその完成が先延ばしになることからひとまず安心ということになる。この結果、対米ICBMの完成を待たないまま、いわば未完成の対米ICBMの実戦配備に金正恩指導部が踏み切る可能性がある。対米ICBMを実戦配備した「核強国」との想定の下でトランプとの米朝首脳会談に臨む姿勢を明らかにしたことを物語る。金正恩とすれば、米国にも劣らぬ「核強国」である北朝鮮が自らその対米核攻撃能力を放棄する代わりに十分な見返りを米国は提供しなければならないと、要求を著しく高めようとしている腹積もりが透けて見える。

 とは言え、今回の決定書で非核化の意思表示が入っていないことはどのように解釈できようか。確かに米国本土を射程内に捉える対米核攻撃能力は放棄する可能性はある一方、韓国や日本を射程内に捉える核攻撃能力は堅持する意思に変更はないとも解釈できよう。言葉を変えると、対米核攻撃能力は放棄する用意はあるが、対韓・対日核攻撃能力は堅持するぞと言う意味合いがある。このことは決定書において核実験は中止するが、核兵器の生産は中止すると言及していないことから窺がえる。兵器級プルトニウムや高濃縮ウランなど核分裂性物質や核弾頭は今後も生産すると解釈できよう。これが今後踏襲される朝鮮労働党の新戦略路線となったのであるから、わが国の安全保障にとって穏やかな話ではない。すなわち、米朝首脳会談でのトランプとの取引において対米核攻撃能力の放棄の見返りに最大限の補償を求める意図を鮮明にしたものであると表現できよう。その意味で、採択された新戦略路線においても非核化そのものの意思表示にはつながらなかったと解釈できる。ここで想起されるのが2016年1月8日付の『朝鮮中央通信』が伝えた金正恩指導部の核保有への拘りである。

 同報道を引用すると、「・・イラクのサダム・フセイン体制やリビアのカダフィ体制はそれらの体制転換に夢中になった米国と西欧の圧力に屈し、核開発のための基盤を奪われ、核計画を自発的に放棄した後に破滅の運命を免れることができなかった。・・」このことはイラクやリビアが核兵器を保有していなかったがために体制崩壊という末路を余儀なくされたと金正恩が確信していることを物語る。少なくとも体制存続のためには米国の同盟国である韓国や日本を確実に叩くことができる最小限の核攻撃能力が不可欠であると金正恩の目に映る。韓国や日本に対する核攻撃能力があれば、米国は北朝鮮に対し核攻撃を控えざるをえないと、金正恩が読んでいるのである。これにより、自らの体制は安泰であると金正恩は高を括っている節がある。この点から、金正恩の言わんとするところの非核化とは対米核攻撃能力の放棄に限定されたものであり、対韓・対日核攻撃能力を放棄する意図も意思もないことを暗示させるのである。他方、トランプ政権は素早く政権の立場を4月23日に明らかにした。金正恩の言う核実験やICBM発射実験の停止などでは不十分であり、核の廃棄が不可欠であると断言し、しかも核の廃棄が実現するまで経済制裁の解除、大規模な経済支援、国交正常化など見返りの提供は一切ないとトランプ政権はその基本姿勢を改めて言明したのである。これに対し、金正恩はどう出てくるか注視される。(おわり)

(連載1)明らかになった金正恩の非核化の意味  ツリー表示
投稿者:斎藤 直樹 (神奈川県・男性・山梨県立大学教授・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-03 14:56  
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 今後、北朝鮮の非核化を巡る米朝間のやり取りを展望することは容易ではない。「私はすばやく立ち去るかもしれないし、あるいは対話の席に着いて世界にとって最も素晴らしい取引ができるかもしれない」とは3月10日にトランプ大統領が語った言葉である。すなわち、米朝首脳会談で歴史的な合意に達することもあるし、会談が決裂することもあるという重要な示唆をトランプは与えた。トランプの言う「世界にとって最も素晴らしい取引」とは金正恩朝鮮労働党委員長が「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄(CVID)」を受け入れることであると考えて間違いないであろう。しかし金正恩が「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」を受け入れるということは、完成に向けて近づいているとされる対米核攻撃能力を自ら手放すことを意味する。これまでの経緯を踏まえるまでもなく金正恩が「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」に真摯に応じることは考え難いことである。北朝鮮の核・ミサイル開発が対米核攻撃能力の完成に向けて2割、3割の水準であるとすれば、非核化を受入れ体制保証を願い出るというのも理解できよう。

 しかし、弾道ミサイル上部に搭載された核弾頭が大気圏への再突入時に発生する摂氏7000度を超えるとされる猛烈な高温と振動から弾頭を保護する「再突入技術」の確立などの技術的な課題が残っているものの、対米ICBMの完成に向けて最終段階に近い水準にあることを踏まえると、その真偽は疑わしい。確かに2017年の終りまで金正恩指導部が猛進していた対米核攻撃能力の完成を最終目標に据えた核武力建設路線は功を奏さなかったし、このまま緊迫した危機的状況が続くことになれば遠からず北朝鮮の核・ミサイル関連施設への米軍による大規模空爆がありうることを金正恩が肌で感じたであろう。また2017年を通じ採択された国連安保理事会決議に基づき科された経済制裁が殊の外、効き始めていることも金正恩が表向き上、非核化に向けて大きく舵を切ることにつながったと言える。とは言え、2017年の終りまで「国家核戦力の完成」という文言を借り対米核攻撃能力を完成させたとしてトランプを度々脅してきた金正恩が、180度方向転換するかのように非核化、非核化と吹聴していることを本当に信じている政治指導者や専門家はどれだけいるであろうか。

 2018年4月27日の南北首脳会談が迫る中、4月20日に朝鮮労働党中央委員会総会において決定書「経済建設と核武力建設並進路線の偉大な勝利を宣言することについて」が採択された。金正恩によると、「・・核兵器兵器化の完結が検証された条件で、もう我々にはいかなる核試験、中長距離・大陸間弾道ロケット試験発射も必要なくなり、したがって北部の核試験場も使命を終えた」とのことである。核実験やICBM発射実験の停止と、豊渓里(プンゲリ)にある核実験場の廃棄が決定したとは言え、「核兵器兵器化の完結が検証された」という表現は非核化に向けた宣言と捉えられるよりもむしろ逆に核ミサイルの実戦配備に移るという核攻撃能力の獲得を改めて宣言したとの印象を与えるものである。それでは具体的措置として核実験やICBM発射実験の停止と核実験場の廃棄を行うということはどういう意味を持つであろうか。

 核実験やICBM発射実験の停止は以前に金正恩からトランプへ伝えられていたことから目新しいものではない。3月11日にポンペオCIA長官(当時)はトランプが米朝首脳会談の開催を即断した背景に、「四つの譲歩」を金正恩が示唆したことをあげた。ポンペオによると、「四つの譲歩」とは、(1)非核化の意思表示、(2)核実験の停止、(3)弾道ミサイル発射の停止、(4)米韓合同軍事演習の容認などであった。今回、決定書に盛り込まれた事項は金正恩の「四つの譲歩」の内の二つである。これらは総て米国からの見返りを前提として北朝鮮が実施する用意のある措置を意味するものであり、朝鮮労働党中央委員会総会の決定書として採択されたのである。ただしこの中で弾道ミサイル発射の停止が何故か、米国本土に脅威を与える射程距離が長いICBM発射実験の停止に限定された。言葉を変えると、この中にはスカッド・ミサイルなど韓国を射程内に捉える短距離ミサイルやノドン・ミサイルなどわが国を射程内に捉える中距離ミサイルなどが入っていない。(つづく)

好材料がない日中関係改善への違和感   
投稿者:倉西 雅子 (東京都・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-04-27 23:08 [修正][削除]
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 8年ぶりとされる日中経済対話の再開に対するマスメディアの一般的な風潮は歓迎ムードです。しかしながら、4月17日付の日経新聞朝刊に掲載された幾つかの記事を読み合わせますと、日中関係の危うさの方が逆に浮かび上がってきます。その危うさとは、政経両面に及ぶ深刻なものです。中国が日本国に急接近してきた背景には、深刻さを増す米中対立があることは既に多くの識者が指摘しております。仮に、アメリカの保護貿易主義によって中国が自国製品の輸出市場や投資先を失うとしますと、中国は、その損失を世界第3位の日本国との関係強化で埋め合わせようとすることでしょう。しかしながら、日中経済対話で日本国側が改善を要請したように(第1面と3面)、日本国もまた、アメリカと同様に対中貿易では赤字国であり、自由貿易を無条件に礼賛できる立場には最早ありません。同会談では、両国は自由貿易の堅持で一致したとされていますが、日本国が立場を共有しているのは、むしろ、アメリカの方です。

 一方、第1面のメイン記事として掲載されたのは、“資本関係見直し検討 日産・ルノー22年めど”です。行き過ぎた自由貿易、あるいは、グローバリズムの観点から、日本国の将来を暗示しているのは、日産・ルノー関係の見直しです。日産自動車と仏ルノーの会長を兼任しているカルロス・ゴーン氏は、自らの退任後も両者の関係が維持されるよう、経営統合計画を検討しているそうです。その背景には、フランスのマクロン政権の意向が働いているとされており、いわば、政府主導型での統合計画と言えます。日仏両国とも自由主義国ですので日産・ルノー関係では政府の存在はそれ程強くは意識されていませんが、こうしたケースは、中国企業との間でもあり得ます。中国企業は、中国共産党のコントロール下にあり、日本経済は、企業支配を介して中華経済圏、否、中国共産党の政治的支配網に絡め捕られる可能性は否定できないのです。

 そして、同紙第9面では、“米、海外企業の投資制限”と題する記事を読むことができます。同記事は、アメリカでは、中国による米企業の支配や中国への技術流出を警戒し、対外外国投資委員会が(CFIUS)が少額出資や合併等にも審査の対象を広げたことを伝えています。トランプ政権の発足当初は、中国による対米投資を歓迎しておりましたが、中国の覇権主義的行動と米中関係の冷却化が相まって、今に至り、海外からの投資を厳格化する方向に政策転換を見せているのです。この記事は、米国から締め出されたチャイナ・マネーが日本企業のM&Aに向かう可能性を示すとともに、日本国政府の中国に対する無警戒ぶりが際立ちます。

 以上に述べたように、日本国は、経済的立場においてアメリカと共通部分が多いにも拘わらず、何故か、中国に靡くという極めて不自然、かつ、非合理的な行動を見せています。今では、日本国の経団連や企業経営者でさえ、中国が必然的に勝者として君臨するような自由貿易主義にはもろ手を挙げて賛成してはいないのではないでしょうか。中国が日本国に期待しているのは、先端技術の中国への移転、一帯一路構想への財政的貢献、中国製品の輸出市場並びにチャイナ・マネーの投資先、自国に有利となる自由貿易体制堅持のための対米共闘(政治的には日米離反…)、中国共産党ネットワークの対日拡大、及び、失業対策としての中国移民の受け入れ等であり、互恵とは程遠く、自国のために日本国を利用、あるいは、支配しようとしているに過ぎないように思えます。しかも、中国が軍事大国としてその牙を露わにしている以上、日中間で相互依存関係を進化させることは安全保障において危険でさえあります。シリア空爆や北朝鮮危機に際しての中国の態度を考慮すれば、日中間には関係を敢えて改善させる好材料は皆無に等しく、日本国政府は、両国間の関係については抜本的な見直しこそ図るべきではないかと思うのです。

(連載2)文在演の譲歩と南北首脳会談への一抹の不安 ← (連載1)文在演の譲歩と南北首脳会談への一抹の不安  ツリー表示
投稿者:斎藤 直樹 (神奈川県・男性・山梨県立大学教授・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-04-26 07:09 [修正][削除]
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3309/3327
 しかも南北首脳会談において1953年7月の朝鮮戦争停戦協定に取って代わる和平協定の締結を議論する話がまことしやかに流れている。首脳会談では終戦宣言が発表される可能性も伝えられている。同停戦協定の締結は北朝鮮、中国、米国の間で調印されたが、それに代わる和平協定の締結ともなれば、南北に加え米国と中国の同意が必要である。まして和平協定の締結は敵対行為の禁止を意味するという象徴的な次元では止まらず、北朝鮮の体制を保証することにつながろう。その延長にあるのは膨大な経済支援の提供である。加えて、和平協定が締結されれば、米朝はもはや敵ではないのであるから、在韓米軍の存在理由が失われかねない。在韓米軍の撤収を金正恩は要求しないとみられるが、遅かれ早かれ在韓米軍の撤収という問題に発展しかねない。文在演はこの点についてどれだけ自覚しているのか。

 南北首脳会談に向けてメディアが大々的に伝えることにより、南北融和に向け韓国は熱気に溢れているのが伝わってくる。こうした中で、南北首脳会談が世界に向けて生中継されることで合意をみた。南北融和を世界に向けて発信することは重要であるとしても、それは政治的な演出以外の何物でもない。振り返れば、2000年6月に開催された第1回南北首脳会談のため平壌を訪問した金大中が金正日と抱擁し合い蜜月ぶりをアピールし、帰国した金大中はその成果を韓国民に訴えた。韓国民の多くは金大中の訪朝と南北共同宣言を熱烈に歓迎し、南北共同事業は大々的に展開された。1990年代の後半には崩壊の危機が囁かれた金正日体制は大いに潤うことができた。しかししばらくすると何も変わっていないという冷めた現実に韓国民は気づき始めた。その後、2002年10月に金正日指導部が高濃縮ウラン計画を極秘に進めているとブッシュ政権が暴露すると、米朝関係は一気に緊張すると共に南北関係もぐらつき始めた。それでも金大中の後を継いだ盧武鉉は金大中の太陽政策に習い平和・繁栄政策を堅持し南北関係の融和に向けて努力したものの、前述の第1回核実験は南北関係を震撼させた。平和・繁栄政策は足元をすくわれた格好になったのである。

 凍り付いた南北関係を融和に転ずるべく政治的演出は重要であるとは言え、非核化という本質的問題が置き去りになってはならない。また文在演が安易に南北共同事業の再開などに理解を示すことが案じられる。金正恩がほほ笑み外交よろしく平和攻勢を掛けているのは日々厳しさを増す感のある経済制裁に音を上げているからである。ところが、文在演政権が経済支援を再開することにより経済制裁を緩めることにつながるとすれば、まさしく金正恩にとって願ったり叶ったりであろう。南北首脳会談に向けて南北首脳が融和関係を演出していることは理解できるものの、非核化という現実の問題は何一つ動いていないことに留意しなければならない。米朝首脳会談への橋渡しとして意味を持つはずの南北首脳会談で文在演が安易な譲歩や妥協を行う結果、米朝首脳会談でのハードルが逆に高くなることが案じられるのである。しかも今も金正恩指導部は韓国を武力制圧するための短距離核ミサイルの完成やソウル首都圏に照準を合わせた無数の長距離砲の整備に余念がないことを文在演は忘れるべきではない。そして非核化への取組みの本質に迫った瞬間、金正恩が豹変する可能性があることも忘れるべきではない。

 そうした危険性があることを理解した上での政治的演出であると割り切り、南北首脳会談に文在演が臨むのであれば、それなりに評価できよう。他方、金正恩による非核化への取組みが真摯かつ真剣であると錯覚して会談に文在演が臨むことがあれば、会談はただの政治的演出で終わるであろう。そればかりではなく非核化が空約束であったとわかったときの跳ね返りには計り知れないほど大きなものがあろう。上記した通り、会談成功を優先するがあまり非核化という肝心の争点を文在演が意図的か否か曖昧にして、金正恩に擦り寄るようなことが憂慮される。非核化への取組みの違いは決して細部の違いではない。非核化を巡る本質的な違いがぼかされているような気がする。文在演が融和ムードの中で安易に金正恩のいう非核化に理解を示すことが何よりも懸念されるのである。南北首脳会談は南北間の問題であり、その意味でわが国は当事者でない。しかし非核化が曖昧なままに取り上げられ、米朝首脳会談での重大な課題となるようなことがあればわが国の安全保障にも重大な影響を及ぼしかねない。そうした事態は回避されなければならない。(おわり)

(連載1)文在演の譲歩と南北首脳会談への一抹の不安  ツリー表示
投稿者:斎藤 直樹 (神奈川県・男性・山梨県立大学教授・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-04-25 22:02  
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3308/3327
 3月下旬に急遽開催された中朝首脳会談は、それまで凍り付いた中朝関係を一気に改善に向ける格好の機会になった。3月26日に金正恩朝鮮労働党委員長が習近平国家主席に「祖父の金日成主席と父の金正日総書記の遺訓に基づき、朝鮮半島非核化の実現に力を注ぐのは我々の終始一貫した立場」であると明言した。これを受け、習近平と金正恩は段階的かつ同時並行的な非核化への取組みであるところの「漸進的・同時的措置」に合意したとはいえ、非核化の完遂の実現可能性を習近平はどれだけあるとみているであろうか。4月27日に開催される南北首脳会談は、これまた凍り付いた南北関係の雪解けに向けた政治的演出になろう。問題の所在が金正恩指導部による非核化の完遂にあることを文在演は認識しているとは言え、非核化への取組みに向けて金正恩がどの程度本気なのか文在演の目にどのように映っているであろうか。非核化の完遂は極めて難しい課題であると文在演は本音では感じているであろう。とは言え、融和ムードを文在演は最優先させ、南北融和をひたすら進ませようとしている。この結果、非核化という本質的問題が置き去りになったまま南北融和が一人歩きしている感がある。

 金正恩に非核化を完遂する意思が本当にあるのか。非核化について北朝鮮と米韓の間で大差はないと文在演は考えているようである。4月18日付の『中央日報』報道によると、文在演政権は「非核化の定義について米国と協議した結果、我々と北、米国が構想する案に大きな違いはないと考える。・・非核化目標をどのように達成すべきかについては細部に差があるため協議が必要だ」と述べている。しかし現実は文在演政権の発言ほど単純なものではない。非核化という文言が曖昧なため如何様にも解釈されかねないが、非核化を巡る米朝間の差は細部の差ではなく本質的な差である。トランプ大統領の言う非核化とは、まず金正恩が「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄(CVID)」を実施して初めて相応の見返りを付与するというものである。金正恩が先に非核化して初めて見返りを与えるとトランプは繰り返して示唆している。これに対し、金正恩は段階的かつ同時並行的な非核化の取組みをほのめかしているものの、前述の中朝首脳会談では習近平の前で米国が先に見返りを与えて初めて非核化に応じると言及したことが伝えられている。

 これでは非核化への取組みは細部の違いでは決してない。非核化が先か見返りが先かという時系列的な問題もさることながら、同様に重大な問題は非核化の対象施設であろう。寧辺(ニョンビョン)に集中する核関連施設や豊渓里(プンゲリ)の核実験場に非核化の対象を限定するのであれば、非核化の完遂は難しくはないであろう。しかし今も核開発が黙々と行われているとされる地下施設の非核化はどうなるであろうか。米国の情報機関さえ、北朝鮮の地下施設での核関連活動の実態を必ずしも把握していないのが現状である。そうした状況の下で金正恩指導部が特定されていない核関連施設を誠実かつ真摯に申告し、それ受けトランプ政権が関連施設で十分な査察を行い、その上で金正恩指導部が関連施設の非核化作業を完遂することができるであろうか。特定されていない核関連施設が放置されることがあれば、非核化は実際には完遂することにはならない。この点でブッシュ政権時代の6ヵ国協議が教訓として重くのしかかる。2003年8月に同協議に臨むにあたりブッシュ政権は当初、北朝鮮の総ての核兵器開発計画の放棄を掲げ核の放棄を先に行えれば見返りを与えると金正日指導部に要求し、同指導部と厳しく対立した。

 ところが、これに憤激した金正日が膠着状況を打開すべく2005年2月に核保有宣言を行うと、それまで強硬一辺倒であったブッシュは一転、譲歩し始めた。しかも2006年10月に金正日指導部が第1回核実験を強行するとブッシュは一時期、核関連施設への空爆も検討したが、その直後の中間選挙で思わぬ大敗を喫し米国内での支持が急落すると妥協を行い、寧辺の核関連施設の無能力化を目指した。しかもこれさえも完遂されないまま2008年12月までに同協議は事実上、頓挫した。これに失望したボルトン(現、安全保障担当大統領補佐官)は政権を離れた経緯がある。まさしくブッシュ政権時代の6ヵ国協議は「竜頭蛇尾」と揶揄されるおぞましい結果に終わった。しかも核兵器開発を野放しにする格好になったことが、今日の金正恩指導部による核攻撃能力の獲得に直結している。金正日がブッシュを相手取って行ったことを非核化の名の下で行えば功を奏するであろうと金正恩は高を括っているであろう。非核化を巡る問題が細部の差であると文在演政権が考えているとすれば、この細部の差がどれだけ重大であることを同政権は認識しているであろうか。(つづく)

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