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2025-05-12 22:30
(連載2)第二次世界大戦から80年:歴史を味方につける戦い
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
日本でも、トランプ政権発足直後の一時期は、停戦交渉に走るトランプ政権を見限り、徹底抗戦するウクライナを支え続ける欧州諸国と、日欧同盟を結ぼう、といった威勢のいい発言も見られた。だがそれも「トランプ関税」とそれに伴う減税騒ぎで下火になっている印象はある。ロシアは手ごわい国である。屈従する必要はなく、信用し過ぎるのは危険なら警戒すべきだが、甘く見るのは、禁物である。欧米諸国が本格的に「制裁」を加えているのを見て、ロシアは崩壊したも同然だ、と言ったことを語る方々がいたが、それはもちろんだいぶ前に消えていらっしゃるかと思う。
私自身は、ウクライナの自衛権行使は正当で降伏の必要はない、という文章を書いたのを橋下徹氏に見てもらったことから、思わぬ形で有名になったが、「均衡」論者である。別にロシアにおもねる必要はないが、ロシアを破壊することなど、できるはずがない。だからこそウクライナの正当かつ計算した自衛権行使が重要であった。「均衡」以外に、戦争を終わりにする方法はない。ロシアの大祖国戦争式典に出席した世界の指導者の国々のリストを見てみよう。首脳級は29カ国を数え、大きな外交の場ともなった。アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンは、旧ソ連構成諸国だ。ウクライナに加えて、そもそもソ連の併合は違法だったという立場をとり、現在はEU/NATO内の対ロシア急進派のバルト三国に、モルドバとジョージアというロシアと距離をとる諸国が参加しなかったが、それら以外の旧ソ連構成諸国はそろった。近隣では、スラブ系住民を持つボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビアのバルカン半島組に、モンゴルが、同じ戦争を戦った同志のような位置づけで、順当な参加である。スロバキアは、スラブ系ではないが、ナチス・ドイツに加担した国としての歴史と赤軍に解放してもらった国としての二つの位置づけを持つ。
第二次世界大戦の記憶を同じ側から共有する国と言ってもいいのが、超大国・中国だ。別格の厚遇を受け、存在感を見せつけると同時に、ロシアとの親密な関係をアピールした。なお抗日戦争の歴史観に立つと、ベトナムも中国と同じような歴史観の立ち位置だ。それに準ずるのがラオスだろう。微妙だが、ミャンマーも同じ系統ではある。なお北朝鮮は、金正恩氏が訪ロを見送ったため、最高議会議長が出席したと見られている。もし北朝鮮を含めると、外国首脳は30カ国となる。
さらにはロシアとの良好な関係から出席したと言ってもいいと思われるのが、欧州・アジアの域外からの参加である。目立つのが、アフリカ勢だ。ブルキナファソ、コンゴ、エジプト、赤道ギニア、エチオピア、ギニアビサウ、ジンバブエの七カ国だ。中東からは、エジプトを重なって数えてもいいのを除けば、パレスチナ自治政府の参加だけにとどまった。ラテンアメリカからブラジル、キューバ、ベネズエラだ。30カ国という数字は、あるいは際立って多いわけではないかもしれない。しかし欧州諸国が、支援国のグループを欧州域外に広げるのに苦心していることと比べれば、堅調であると言える。ロシアの外交力も、軽視することはできない。(おわり)
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篠田 英朗 2025-05-11 22:21
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篠田 英朗 2025-05-12 22:30
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