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2006-10-28 02:06
言語に導かれた自然な外交を
四条秀雄
不動産業
イギリス外交の歴史や米国の最近のイラク戦争を見ても分かるように「海洋開放型国家は大陸に深入りしてはいけない」という経験則があります。米国もこのことは承知のはずで、なぜ鉄則を破ってイラク駐留を続けるのか、深い意図を訝しく思うところです。この経験則は日本の歴史を見ても分かります。白村江の戦いの前後も大化の改新や壬申の乱など日本国内は相当に荒れましたし、平家は中国貿易に溺れて滅亡し、元寇で鎌倉幕府も短命に終わりましたし、室町幕府中後期の荒廃も、中国貿易を巡る利権争いが一因です。そして、戦前の大日本帝国の崩壊も、日韓併合から始まる大陸進出が原因だといえるでしょう。大陸の影響力に関して、身近な例では、NHKのニュースの時間に、中国要人の発言がどのくらいの長さで編集されているかストップウォッチで計ってみてはどうでしょうか?最近はなくなりましたが、以前は北朝鮮のことを朝鮮民主主義人民共和国と言っていたのと同じ現象が起きていることに気づかれることでしょう。これに対して日本の政治家の発言は手際よくカット編集されています。是非、計ってみてください。もし日韓併合をしなければ、善悪の次元で無く、戦略的次元で今の日本とは全く違ったもうひとつの日本がありえたはずです。おそらく、地理的な必然性から、紆余曲折を経ながらも、米軍基地の無い日米(英)同盟の状態に落ち着いていたことでしょう。
よく論じられることに、日本は米中の間に立って仲介役をという話がありますが、これは、三カ国間関係について米中は独立的に動けるのに対して、日本は従属的立場にある以上、無意味な議論ではないかと思います。米中は日本を無視してどういう関係でも築けるわけです。日本にできることは、どちらかに一方的に自分を偏らせることだけです。よく思い出してほしいのは、日米貿易摩擦の際と沖縄少女暴行事件の際の米国の対応の際立った違いです。前者では躊躇無く日本を叩きましたが、後者ではかなり狼狽して大慌ての対応をしました。このことから分かるように、改めて言うのも馬鹿馬鹿しいほど、米国にとっては日本に基地を維持することが根本的に重要なのです。それを犯さない限り、中国がどれほど日本を経済的に利用しようとしても、米国はこれを黙認します。ですから、経済面では日本は自主的に立ち回らないといけません。日米関係は日米同盟に規定されているために、日本は対中経済関係にしか自由度をもっていないわけです。つまり、日米中三カ国間関係に関して、日本に操作可能な変数は、中国に経済的に接近するか、離れるかのレバーしかないのです。今では、日米同盟は外交問題を論じる時の枕詞のように形骸化してしまっていますが。「日米同盟が最重要だ、その上で東アジア共同体は・・・・」という使われ方が現在の日米同盟です。しかし、日本人は日米同盟についてもっと真剣に考えてみるべきことでしょう。今の東アジア共同体路線は、戦前の二の舞に必ずなります。現代の経済人が行うべきは、変化の是認と時間のコントロールです。東アジア共同体は、現在のアジア諸国の格差が大きいために、構想の射程が長すぎる故に全く無意味です。そこに大量の人的資源を投じるのは間違っているし、それによって失われる機会費用が高すぎます。東アジア共同体構想に費やす資源ロスで、本来やるべきであることをできなかったために新たな危機を招きかねません。
そして、最初にあげた「大陸に深く関わるべきでない」という経験則を用いるならば、まったくイギリスと同様の行動を、日本は極東において行うしかないのです。そういうわけで、日米中三カ国関係を論じると言う不毛な話は終わりにして、もっと実りのある外交について考えたいと思います。日米中関係以外の外交は、日本にとって非常に豊かな可能性をもっています。非常に多様な自由度が日本には与えられています。ラテン・アメリカやアフリカや中東や中央アジアにおいて、日本は宗教的にも経済的にも歴史的にも制約を受けません。さらに、従来はラテン・アメリカは米国、アフリカは欧州、中央アジアはロシアの裏庭とされてきましたが、今日ではグローバリズムと中国の浸透のためにそれが崩れてしまっています。特に、推奨したいのは、言語的近接性に基づいた中央アジアやモンゴルや南アジアへのアプローチです。これらの地域の人々は、北海道方言や九州方言を話す日本人の外側に位置する人々です。彼らの習得した日本語会話の流暢さは驚くほどです。中国人で日本語がうまいのは、もともとは朝鮮族の人々で漢民族ではありません。
さらに、長期間日本にいると意識の上でかなり同化してしまうのもこれらの人々です。中小企業に中国人を入れるとジョブ・ホッピングして逃げてしまうか、技術を盗まれてしまうかですが、これらの人々は職人意識に近いものがあり、奇妙な安心感があります。引退される団塊世代の技術者が自分の技術を伝承させたいと思うときに、彼らに託せば比較的裏切られることが少ないことでしょう。インド人は、イギリス人がいなくなった後もアッサム鉄道を保守し続けたそうです。こういう人々が、中国の周りをぐるりと取り囲んでいます。日本が海に囲まれ東の端に位置していたために、今まで気づかなかったのです。私は、言語的な近接性から、これらの地域との外交関係は継続して努力するほど同質化が進んで、実り多いものになるだろうと予想しています。日韓併合の誤りを犯すことなく、韓国政府の民族主義には不干渉であるべきです。但し、韓国人には門戸を開いておくべきです。モンゴルとの関係も予想したとおりです。自分のことを日本人だと思い込んでいる多くの在日バングラディシュ人がいます。日本は、アフガン難民にもっと手を差し伸べるべきです。インドや中央アジア諸国との外交にも継続性を保つべきですし、人的交流をもっと進めるべきです。研修生、実習生の割り当ては、中国人よりも、これらの国の人たちに与えた方が遥かに好ましい結果をもたらすだろうと予想しています。
言語の問題は真の意味で国力と大きな関係があります。ロシアや中国が大国であるのは、非常に長い期間に渡って移民が周辺地域に浸透して行ったからです。言語は母国人の移動と共に拡散しました。これとは反対に、英語は人の移動に先立って他国人に選択されることで拡散しました。米国や英国に入国するための資格として意識されていたからです。日本語は国際語になることはありませんが、英語をはじめとする欧米諸語や中国語と異なったグループに属する特別な言語です。日本語は、会話するだけでなら、それほど難しい言語ではありません。記述文字については確かに難しい言語ですが、逆に考えると、3000字ほどの漢字を覚えれば、知識世界の1万部の1の地図を手に入れたことと等しくなります。学者として専門にやるなら、100分の1、10分の1の地図を持たなければいけないかもしれませんが、大雑把な地図でも、求める方向には進むことができます。普通の人が生きるのに必要な知識は、3000字に満たない漢字を覚えることでアクセスが可能になるのです。従って、取り立てて優秀でもない普通の外国人にとっても漢字学習は損にはならないはずです。日本語の属する語族の多くは、ほとんどが途上国であり、紛争が多く現代の歴史から取り残されたグループに属します。日本語だけが、おそらくは漢字の働きによって、生活語彙の激変に適応して耐えることができたのでしょう。日本語は、たぶん、世界観が崩壊してしまっているこれらの諸言語が時代に押し流されないように錨にならなければいけないように思います。そして、このような対象の言語へのリハビリ補助行動が、そのまま外交になるだろうと私は予想しています。
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