政策本会議

第107回政策本会議
「2025年前半期の韓国政治の「混乱」とその帰結:
李在明(イジェミョン)・進歩政権の成立と展望」
メモ

2025年8月8日
東アジア共同体評議会(CEAC)事務局


報告のようす

第107回政策本会議は、木宮正史東京大学名誉教授を報告者に迎え、「2025年前半期の韓国政治の「混乱」とその帰結:李在明(イジェミョン)・進歩政権の成立と展望」と題して、下記1.~6.の要領で開催された。


  1. 日 時:2025年8月8日(月)15時30分より17時まで
  2. 開催方法:日本国際フォーラム会議にて対面およびZOOMウェビナーによる併用
  3. テーマ:「2025年前半期の韓国政治の「混乱」とその帰結:李在明(イジェミョン)・進歩政権の成立と展望」
  4. 報告者:木宮 正史 東京大学名誉教授
  5. 出席者:36名
  6. 審議概要

(1)韓国民主主義の脆弱性と強靭性

2025年前半期の韓国政治は、民主主義の脆弱性と同時に強靭性を示した時期であった。尹錫悦大統領は、国会多数を占める野党との対立の中で非常戒厳令を発動したが、これは違憲・違法とされ、最終的に弾劾訴追が成立した。憲法裁判所による全員一致の判決によって罷免に至ったことは、制度的欠陥を抱えつつも民主主義的メカニズムが機能したことを示している。韓国大統領制は「権力の総取り」による対立を制度的に内包しており、ねじれ国会や大統領の単任制が政治的混乱を生み出す構造的要因となっている。

(2)保守と進歩の対立軸

韓国政治は保守と進歩の二極化が特徴であるが、政策距離は必ずしも大きくない。主要な対立軸は以下の通りである。 第一に対北朝鮮政策であり、保守は抑止重視、進歩は関与重視の姿勢をとる。第二に経済政策であり、保守は市場重視、進歩は分配や政府介入を重視する。第三に歴史認識に関して、保守は1948年建国を正統とするのに対し、進歩は1919年の臨時政府を起源とする。第四に法秩序と市民運動に関して、保守は秩序維持を優先し、進歩は市民運動を民主主義活性化の要素として評価する。第五に米中関係では、保守は価値同盟を重視し、進歩は戦略的曖昧性を志向する。第六に対日政策であり、保守は日米韓安保協力を推進し、進歩は歴史問題を重視するが、双方とも日韓関係の重要性自体は認識している。したがって、対立は政策的距離よりも制度的に激化せざるを得ない性質を持つ。

(3)尹錫悦政権の失墜

尹錫悦大統領は検事総長出身として反腐敗の象徴であったが、政治経験の欠如と大統領夫人をめぐる多数の疑惑が政権の失墜を招いた。検察人脈の登用や経済軽視、医療改革をめぐる混乱は世論の反発を招き、2024年国会選挙で与党は惨敗した。その後、選挙結果を「不正」と断じ、非常戒厳令に踏み切ったことが弾劾の直接的契機となった。尹大統領は内乱罪で現職大統領として逮捕・拘束され、韓国政治史に前例のない事態となった。

(4)李在明政権の成立と特徴

李在明は極貧の出自から弁護士、知事を経て大統領に就任した。政権は「国民主権政府」を掲げ、「実用主義」を強調する。準備期間なしで発足したため、与党議員を多数起用する「議院内閣制的」人事が特徴である。政策面では、短期的には消費クーポン支給による民生回復、中長期的にはAI関連投資の強化を掲げる。不動産市場の是正や株式投資の促進も重視している。支持率は6割台を維持しているが、与党内には対野党強硬派が台頭しており、国会運営は容易ではない。

(5)外交政策と課題

外交において李在明政権は「実用主義外交」を掲げる。北朝鮮政策では宣伝放送の中止など一部で関与を再開したが、平壌の反応は冷淡である。米中関係に関しては「インド太平洋」という地域概念は使用するが、戦略概念としての採用は避けている。台湾有事への関与も限定的であり、在韓米軍の存在意義を強調しつつ、中国との経済関係を考慮した慎重な姿勢をとっている。日韓関係については、徴用工判決に関する第三者弁済の継承に見られるように、実用的な国益重視の外交を展開している。

(6)結論

2025年前半期の韓国政治は、民主主義の脆弱性を露呈しつつも弾劾と政権交代が機能した点で制度の強靭性を示した。李在明政権は「実用主義」を掲げ、政治安定化と経済再建を図っているが、与党内外の対立や米中対立、トランプ政権下の不確定要素など難題を抱える。今後の韓国政治の展望は、国際環境の制約を受けつつ、いかに国内政治を安定させ、日米韓関係を軸に現実的な外交を展開できるかにかかっている。

以上
文責:事務局