政策本会議

第88回政策本会議
「台湾をめぐる日米中の最新動向」メモ

2021年8月6日
東アジア共同体評議会(CEAC)事務局


報告のようす

第88回政策本会議は、小笠原欣幸・東京外国語大学教授を報告者に迎え、「台湾をめぐる日米中の最新動向」と題して、下記1.~5.の要領で開催された。


  1. 1.日 時:2021年8月6日(金)14時より15時30分まで
  2. 2.開催方法:オンライン形式(Zoomウェビナー)
  3. 3.テーマ:「台湾をめぐる日米中の最新動向」
  4. 4.報告者:小笠原 欣幸 東京外国語大学教授
  5. 5.出席者:33名
  6. 6.審議概要

小笠原欣幸・東京外国語大学教授から、次のとおり基調報告があった。

(1)中台関係の緊張と習近平の対台湾政策

台湾の蔡英文総統は、2016年5月の就任演説で中国にある程度柔軟な姿勢を示したが、所謂「92年コンセンサス」について直接の言及を行わなかった。これを受けて中国は、蔡政権が「一つの中国」を認めていないとして、政府間接触はおろか窓口機関同士の接触も拒否し、中台間のあらゆる対話メカニズムを停止した。蔡総統は中国に対話を呼びかけたが、中国側は「一つの中国」を認めなければならないという立場に固執し、中台関係は膠着状態から緊張状態へと進んでいった。

習近平国家主席による中国の台湾政策は、2019年1月の習近平による台湾政策に関する演説から読み解くことができる。すなわち、同演説で語られた「両岸同胞はみな中国人」、「台湾を統一してこそ『中華民族の偉大な復興』の実現」、「次の代に先送りできない」、「武力を使用しないという約束はできない」、「『一国二制度』による統一」、ということである。このように習近平の台湾政策の特徴は、一歩でも統一を前に進めたいという強い意志に尽きる。そしてそれを進めるために、ハードおよびソフトの両パワーを使った抑え込みと取り込みの台湾政策がとられている。

まずハード・パワーにおいては、外交面で、台湾と外交関係を持つ国の切り崩しを行い、蔡政権発足後から今まで7ヵ国を台湾と断交させ、中国と国交を樹立させた。現在、台湾と国交を樹立しているのは過去最少の15ヵ国になっている。また、国交がない国への圧力も強化し、さらにRCEP、AIIBなど、あらゆる地域機構に台湾が加盟することも妨害している。軍事面では、空母「遼寧」を台湾周辺で航行させるなど、2020年後半から軍事的圧力をエスカレートさせている。他方経済面では、中台間の経済は密接に結びついており、特に中国にとって半導体など台湾の先端技術はなくてはならないものであり、中台貿易を削減する手段はとっていない。変わりに、台湾の農家と蔡政権に打撃を与えるべく、台湾産パイナップルの輸入禁止措置をとった。ただ、この措置に対して、日本で台湾を助けようとの動きが起こり、これまで台湾が中国に輸出していた年間量の半分近くを日本で消費した。台湾社会でも支援購入の動きが広がり、台湾の農家は最悪の事態を逃れ、中国の目論見が外れることになった。

ソフト・パワーにおいては、台湾人が中国国民と同じ待遇・権利を得られるようにする同等待遇を進め、先の共産党第19回全国代表大会の代表に、高雄出身で中国に渡った台湾人を選ぶなど、中国公職に台湾人を登用するなどの政策をとっている。また、機会の提供として、「中国の夢を共に手を携えて実現しよう」と「一帯一路」のビジネスチャンスを台湾企業にアピールし、取り込もうとしている。台湾の一部の企業は、こうした中国側の取り込みに加わっているが、全体的にみると、中国側からの機会の提供に参加しなければ台湾の未来はない、というような雰囲気は醸成されていない。2010年代の半ばにはそうした雰囲気があったが、それは10年代末にはしぼんでしまった。他に中国は、台湾内で影響力を行使しようと、共産党の指令で動く組織として「中華統一促進党」というグループを養成し、さらにメディアやネットで中国情報を発信し、情報操作なども行っている。こうした行動により、中国側の台湾への影響が非常に大きくなっているのは確かだが、いまひとつ決め手を欠いているのが事実である。


(2)蔡英文政権の対応

2016年の総統就任後から今日まで5年の間、蔡英文政権が何をしてきたのか。まず対中政策としては、中国を挑発せず、慎重・抑制的に振舞うが、「一つの中国」は認めず中国には屈しない、という強い姿勢を示してきた。日本のメディアでは、「対中強硬路線の蔡英文政権」と言及しているが、台湾側から中国に攻勢をかけている事実はなく、この表現は適切ではない。正しくは「中国の圧力に屈しない蔡英文政権」と表現すべきであろう。次に国内政策としては、「台湾アイデンティティ」の強化を目指した。具体的には、その基礎となる国内の経済および社会を強化しつつ、「民主化・台湾化した中華民国の現状維持」を進めた。ここでいう現状維持とは、民主化した台湾の維持であり、中国が呼び掛ける統一には応じないということである。そしてこの上で、中国への依存の低減を目指して、東南アジア、インド、オセアニアなどとの連携を深める「新南向政策」、また米日との連携強化を進めた。この米日との連携強化に対して、中国側は激しく反発をしている。だが、決定的な表現は避けつつ、蔡政権の動きを「隠れた台湾独立」と呼んで非難している。

中国、習近平側の台湾政策は、現時点でうまくいっておらず、習が共産党トップに就任して9年になるが統一は一歩も進んでいない。昨年の台湾総統選挙で、一国二制度の拒否を掲げる蔡英文が、台湾の選挙史上最大の得票数を得て再選したことがその最たる根拠である。台湾の民意は、中国から離れて日米に傾いており、またこうなるように仕向けたのは習近平の政策である。ただし厄介なのは、こうした現状を中国側は国内で巧妙に情報操作して、中国の力が圧倒的なので、いずれ台湾は膝まずいてくるとのロジックを展開していることである。中国としては、例えば次の党大会などの際に、「統一が進んでいない」などと海外メディアから報道されると不都合なことになるため、今後、統一への強い意志を見せつけるために台湾への圧力を強化してくることが予想される。


(3)バイデン政権の対台湾政策

続いて、バイデン政権の対台湾政策について述べていく。バイデン政権の台湾政策は、国務省による「我々の台湾へのコミットメントは岩のように堅い」という1月の声明の発表から始まった。選挙期間中、バイデンは、トランプよりも対中政策が弱いのではないかと言われていたが、大統領就任後、トランプ政権の台湾重視政策をすべて継承し、さらに外交面で同盟国と歩調を合わせて着実な台湾支援態勢を整えている。一方で、「一つの中国政策」や米台関係が「非公式関係」であることを繰り返し表明している。ただし、オバマ政権の時に「一つの中国」と表明するのは実質的な台湾冷遇であったのに対し、バイデン政権からの同表明は「護身札」のようなもので、これを表明しておけば中国が過激な反応をしないからと見切って行っているようであり、実際には米台関係を強化し、軍事的に中国に隙を与えない周到な政策をとっている。これらから、米国の対台湾政策は、新たな段階に入ったと言うことができるのではないか。この新たな段階は、後になってからでなければわからないが、72年のニクソン訪中などによって形成された「72年体制」(台湾に関する国際的アレンジメント)に代わり、「2021年体制」と呼ばれることになるような変化が起きていると見ている。


(4)日米共同声明とワクチン支援

さる4月16日の日米首脳会談による日米共同声明では、「台湾」が明記された。首脳会談では、中国が台湾統一に動くという危機感を日米で共有し、日米共同による抑止の具体的な対応を検討していくことが確認されたと見られる。そしてそれを実施していくために、日本は安保法制に基づき、米軍を後方支援していく準備をしていくのではないか。ただ、日本が軍事的にできることが限られているため、日本国内では日本の役割に疑問をみせる意見も目立つ。しかし、日本の役割を軍事だけにみるのは狭小である。日本は、民間レベルで幅広くかつ深い交流を台湾と行ってきた。民主化後の台湾にとって、今日まで30年の間、日本との間で進められてきた経済、社会、地方など様々なレベルによる交流は、中国によって孤立させられてきた台湾の人々を力づけ、民主化した台湾の現状を維持させることに役立ってきた。ここまでの市民レベルの交流は米国にもできておらず、日本が台湾に対し果たすことができる大きな役割ということができる。日米首脳会談後の「日経新聞」の世論調査をみても、「台湾海峡の安定への日本の関与」という問いに対して、74%の人が賛成と回答した。このように、日本社会の台湾への好感度は高く、日本は、中国への抑止を念頭に、今後も台湾との交流を深化させていくべきであろう。

日米共同声明後の5月、それまでコロナを抑えてきた台湾で、突然感染爆発が起こった。台湾は、それまでコロナを抑えていたので、AZやモデルナのワクチンメーカーと契約したが納入を後回しにされていた。そのためドイツのビオンテック社のワクチン(販売代理権は中国企業)を本社から直接購入しようとしたが、中国の妨害により購入できなかった。5月末の段階で台湾のワクチン接種率は1%未満であり、在庫もほとんどなかった。中国側からは中国製ワクチン提供の申し出を受けたが、蔡政権はこれを拒否した。しかし、台湾内から蔡政権のワクチン調達遅れへの批判の声が強まり、蔡政権は危機に陥った。こうしたなかで日本は非常に早く動き出し、まず6月4日に100万回分のワクチンを空輸した。台湾では、ワクチンを積んだ日航機が成田空港を飛び立つところからTVで放映され、感謝の渦が広がった。その後、日米共同で台湾に大量のワクチンを空輸し、日本からは334万回分、米国は250万回分で、日米合計584万回分を提供した。これは、7月末時点で台湾が調達できたワクチン950万回分の実に約61%を占める。そして、台湾では7月中旬に新規感染をほぼ抑え込むことに成功した。

一連のワクチン騒動のなか、改めて、台湾は中国側からの揺さぶりに対して、「揺さぶられやすい社会」であるということがあらわになった。ただ、だからと言って、中国による台湾統一が近いということではない。例えば、台湾有事の勃発を指摘する声があるが、その可能性は低い。日本では、中国が台湾に軍事進攻し、それに合わせて台湾内の新中派がクーデターを起こすといったシナリオを展開している記事や書籍を目にする。これは、現状の中国では、米国や国際社会も動くなか、台湾にスムーズに上陸し占領するだけの軍事力を備えておらず、そのため台湾内で内乱が起こらなければシナリオが成立しないということなのである。また、台湾で統一支持の候補者が総統に就任する可能性も低い。「台湾アイデンティティ」は定着しており、民主体制は安定している。現在の蔡英文の「反共親米」は、実は蒋介石の路線の継承であり、台湾内部の深いところまで支持を固めている。他方、台湾では、歴史的な経験から、一つの勢力に権力を集中するのを避けようとするする傾向にある。そのため台湾では、民進党が巨大になりすぎるのを警戒し、反民進党も一定の票がある。次の2022年の統一地方選挙では国民党が健闘する可能性が高い。ただし、台湾の将来を決める2024年の総統選挙では、「92年コンセンサス」を重視する国民党の支持は高くならず、民進党が勝利することになるだろう。よって、こうした中で大事なことは、2022年の選挙で国民党が躍進した場合、国際社会が台湾のそうした特殊性を理解せずに、台湾の将来を懸念したメディア報道などを展開して、不安感を引き起こさないことである。


(5)中国の狙い

中国共産党が考える理想的な台湾の統一は、日米から手を引かせ、中国の犠牲とコストを最小限にして実現することである。特に、台湾の人々が、人民解放軍が台湾に入るのを喜んで迎える画像が欲しいのである。それによって、中国国内で共産党が如何に素晴らしいかを宣伝し、今後も共産党による一党独裁政治を維持していくためのイデオロギーを確立させたいのである。こうした統一観からすると、台湾に上陸作戦を敢行し台湾を焼け野原にして統一しても、「同胞」である台湾の人々を大量に死傷させ、中国軍もかなりの損害を出し、国際的にも中国のイメージは地に落ちることになり、中国国内では一時的に高揚しても共産党への疑問が芽生えてくるであろう。現状、中国は2000発のミサイルを台湾に向け配備しており、台湾を完全に破壊してよいのであれば統一はいつでもできるかもしれないが、そのような理由から実行していないのである。結果的に中国のこの統一観によって、台湾の武力統一のハードルが上がっているという側面もある。こうした中で日米台に必要なことは、まずは中国の台湾への全面進行作戦に備えることである。前述のハードルはあろうと、抑止がなされていなければ中国は何かしら動いてくるだろう。日米台は更に、中国がグレーゾーンを活用して台湾を揺さぶってくることにも備えなければならない。

中国軍は、台湾の防空識別圏(ADIZ)である台湾本島と東沙諸島の間に偵察機や戦闘爆撃機を飛行させて、台湾を威嚇している。昨年10月から毎月中国軍機が侵入した日数を計算すると、今年の1月と4月の数が多かった。特に1月はほぼ毎日侵入していたが、これはバイデン政権のスタートに圧力をかけたのであろう。4月は日米首脳会議への牽制だったとみられる。こうした動きに対して、バイデン政権は月1回ミサイル駆逐艦を台湾海峡で航行させるなどしている。さらに、6~7月にかけて、台北松山空港に、初めて米軍機を着陸させた。これは、上院議員3名の訪問また荷物の受け渡しなどを理由にしたものである。これまで中国の『環球時報』は、「米軍機が台湾の領空を飛行したり台湾に降り立ったら戦争になる」と述べていたが、現在これらの米軍機の動きに対して黙っている状況で、中国側も簡単には動けない状況にあるのであろう。実際、この6月と7月は、それまでの月よりも、中国軍機の侵入が減少した。


(6)台湾の半導体・ソフトパワー

台湾の総輸出に占める中国向け輸出の割合は、馬英九時代から4割程度を維持していたが、昨年は44%まで跳ね上がった。これには、コロナからいち早く回復したのが中国と台湾であったこと、昨年から台湾のIT部品、半導体を中国が買い漁っていること、などが影響している。現在、台湾の半導体メーカーのTSMCは、世界で圧倒的な存在になっている。5nmの半導体を製造できるのはTSMCと韓国のサムスンだけだが、大量製造という点ではTSMCが先行している。さらにTSMCは、近く世界で唯一の3nmの半導体を製造開始する予定になっている。中国のSMICは14nmの半導体製造がやっとで、大量製造では28nmの製品しか製造できなく、TSMCからは1~2世代も遅れている。こうした中で、中国は台湾の半導体企業の買収、技術者の引き抜きなどを行おうとしたがうまくいってない。TSMCは、トランプ政権の要請で米のアリゾナに工場を新設し、また中国でも生産拡大を行っている。この間の米中対立を捉えて、TSMCが米中の板挟みになっているのではないかとみる向きもあるが、TSMCは、アリゾナの工場では5nm、中国では28nmを主に製造し、最先端の半導体はすべて台湾内で製造している。そして米国と中国で主に製造する半導体の水準が5nmと28nmとかなりの差がでていることからわかるように、台湾は板挟みになっているのではなく、明らかに米国にシフトしている。この状況は、中国にとって極めて不愉快な状況であるが、米中対立の中でTSMCの半導体は絶対に必要であり、強硬な対応をとることができないでいる。半導体は、台湾にとっての大きなソフト・パワーになっているのである。

また、昨年のコロナ対策の成功により、台湾に対する国際的な関心が高まった。台湾は、コロナを抑えたことで各国にマスク支援を行い、米国やEUの政府関係者、セレブなどの著名人が台湾に対してお礼を述べ、それが世界的に広まった。また中国と異なり、台湾は「民主主義の台湾」であるという関心・共感がかつてないほど世界に広がり、前述した台湾でワクチンが不足した際に、リトアニア、チェコ、スロバキアが台湾にワクチンを提供し、特にリトアニアは中国の横やりを受けながらも台湾との間で代表処の相互開設で合意した。こうした台湾への新たな共感も、ソフト・パワーになっている。


(7)結論

以上述べてきたことをもとに、今後の台湾海峡情勢がどうなるのかについて述べる。まず、今後も中台関係の緊張は続いていく。ただ、台湾では「台湾アイデンティティ」が定着しており、習近平が呼び掛ける統一になびくことはなく、2024年の総統選挙で国民党が復活することは考えにくい。よって話し合いによる平和的統一ということは起こりえないということになるだろう。そこで中国は武力による威嚇を強めることが予想されるが、その能力などの問題も含めて、当面軍事侵攻することはないだろう。台湾海峡は「戦争には至らない軍事的緊張+経済では密接な関係」という状況が続き、場合によってはこのまま一定の秩序が形成されることになるかもしれない。ただいずれにしても、そこでは日米による中国への抑止が絶えず存在し続けることが前提であり、今後も日米台が中国に揺さぶられないこと、分断されないこと、が重要になるだろう。


以上
文責:事務局