政策本会議

緊急報告(第83回政策本会議)
「新興感染症に対するアジア地域協力のあり方」

東アジア共同体評議会事務局
2020年4月30日撮影


新型コロナ・ウイルス蔓延のなか、世界各国で渡航制限や医療品の輸出制限措置がとられ、アジアの政治・経済は大きな影響を受けています。こうしたなか、ポスト・コロナも見据えながら、新興感染症に対しアジアでどのような地域協力をすすめるべきでしょうか。
 第83回政策本会議は、東アジア・東南アジアの国際関係史や公衆衛生を専門にする鬼丸武士・九州大学教授/共創学部副学部長より、「新興感染症に対するアジア地域協力のあり方」と題してご講話をいただきました。


1.報告動画



2.概要メモ

 (緊急報告)第83回政策本会議は、鬼丸武士九州大学教授・共創学部副学部長より、「新興感染症に対するアジア地域協力のあり方」と題し報告を受けた。なお、新型コロナ・ウイルスの影響のため、本政策本会議は、下記の要領にて報告者の報告を収録し、東アジア共同体評議会ホームページにおいて議員限定で動画配信した。

  1. 1.日 時:2020年4月30日(木)14時より撮影
  2. 2.場 所:九州大学研究室
  3. 3.テーマ:「新興感染症に対するアジア地域協力のあり方」
  4. 4.報告者:鬼丸武士九州大学教授・共創学部副学部長
  5. 5.報告概要

鬼丸武士九州大学教授・共創学部副学部長から、次のとおり報告があった。

(イ)新型コロナ・ウイルス感染症の現状

本報告では、新型コロナ・ウイルス感染症に対して、アジア地域としてどのように地域協力体制を築いていくべきなのか、特にポスト・コロナの段階になった際に、日本として域内の新興国や途上国に対してどのような支援を行っていくべきか、について述べていきたい。

新型コロナ・ウイルスは、4月30日の時点で、世界で感染者が300万人、死者が20万人におよび、パンデミックを引き起こしている。この感染症は、見えない敵であり、今のところ治療薬も開発されていないため、日本では外出自粛要請による行動制限、各国ではそれより強い都市封鎖などの措置が取られているところである。ただ今後は、途上国における影響もより検討していく必要があるだろう。4月30日現在の世界的な感染者の割合をみると、欧州、米国、ロシア、中国で拡大しているが、それに比べ東南アジアではまだ感染が広がっていない。私は、日本国際フォーラムで2016年度に実施した 調査・研究事業「グローバル・ヘルス・ガバナンスと日本外交」のメンバーであったが、同事業で現在「新型コロナ・ウイルス感染症対策専門家会議」構成員の押谷仁教授より、新興感染症が拡大する際に、国内の実態がわからないかつ医療体制が不十分であるために最も被害を受ける可能性があるのが途上国であるとの旨の報告を受けた。今回のコロナ・ウイルスにおいても、例えばインドネシアではコロナ・ウイルス感染者をデング熱感染者と取り違えていたという事例があるように、途上国では、医療インフラの不足などによって、感染者の発見、治療などが十分におこなわれていない。今後、途上国を中心に大きな被害がでてくる可能性がある。


(ロ)アジアの地域協力のあり方

こうしたなかで、日本は国内の感染制御がまず大事なことではあるが、その後の事態として、地域諸国に対して、経済支援のほか、医療支援が重要となる。ただこうした支援はあくまでも短期的なものになると考えられる。短期的ではなく、中長期の視点から感染症の問題を考えた時に重要となるのは、人材育成である。

今回の新型コロナ・ウイルス感染症に限らず、新型感染症は今後も出現するものであり、またコレラやペストなどこれまでにあった感染症が再流行する可能性もある。その際にどうしても必要となるのが、医療従事者による医学的な対応だけでなく、社会的な対応である。今回の新型コロナ・ウイルスに対する専門家からの注意喚起がメディアで頻繁に報道されているが、その内容が専門的で普通の人にとって理解が難しい場合があり、一般の人々の意識、行動を変えるには必ずしも十分ではない。そのため、なぜ今こうした行動をとらなければならないのか、専門家の注意喚起を人々にわかりやすく伝える社会的な対応ができる人材が必要である。

また、感染症への対応において、医学・疫学が目指すことと社会・経済が必要とすることがバッティングする可能性がある。例えば、日本の新型コロナ・ウイルス対応において、経済を第一に考えると行動制限などの措置は経済機能を停滞させることになりとるべきではない。反対に医療を第一に考えるのであれば、現状の行動制限でも不十分ということになる。このような双方の対策にとって相反するケースは、感染症に限らず災害などの危機時においても生じるものであり、特定分野の専門家だけに対応策を依存していては効果的ではない。そのため、こうした専門家と専門家を繋ぐ「危機管理型人材」、「課題解決型人材」とでも呼ぶような人材が必要である。これまでの日本の大学教育は専門家の養成を目的としてきており、残念ながらこうした危機管理型人材の育成はほとんどなされていない。従来の専門家の要請も大学の重要な任務であるが、変化する時代状況に合わせて今後、こうした危機管理型人材の育成にも注力すべきである。

また、それを地域のレベルでもこういった人材の育成を進める必要がある。東アジア、東南アジア地域は感染症だけではなく、台風や地震、火山の噴火などの自然災害に多く見舞われる地域である。こうした新興・再興感染症対策や自然災害対策においても、危機管理型人材は有用である。また具体的な対策を立案する場面では地域の実情、各国の実情に合わせた対策を考えることが不可欠である。このような現場の実情に即した危機管理対策をおこなう人材の育成は、一朝一夕で行えるものではなく、時間がかかる。今後のアジアの地域協力の柱の一つとして、そうした人材育成への支援およびそうした人材の地域的ネットワークの構築を行うべきである。それによって、例えば各国の特殊事情への理解にもつながり、一層の地域協力の進展にもつながるであろう。

以上
文責:事務局