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2006-08-15 00:14
中国の連衡策に対する日本の合従策
四条秀雄
不動産業
東アジア共同体という願望が生まれてきたのは97年のアジア危機が直接の原因だと思います。このアジア危機というのは、以前にも書いたように、戦前日本が経験した金解禁デフレと同じものです。一般的に言われているのは、94年の人民元の切り下げと危機直前の円安傾向が、アジア新興国通貨を金解禁と同じ通貨高状態に置き、その直後の急激な資金流出に伴って金利が引き上がり、デフレ恐慌に突入したというパターンだったということです。しかし幸いなことに、孤立無援の戦前日本とは異なり、今回のアジア諸国には日本や台湾などの対外投資志向国家が存在し、これらの海外からの投資が回復するにしたがって経済が立ち直ることができました。
しかし、それでも反IMF・反米の感情や恐怖心は残りました。また、回復期には各国とも特異な政治家がリーダーとなりました。韓国のノムヒョン大統領やタイのタクシン首相などです。手負いの国民感情を反映してどの人物も非常にアグレッシブです。中国は、当時人民元を引き下げずに踏ん張ったと自慢していますが、これは本末転倒の言い分であって、94年に先に引き下げたことが、アジア危機の一因になっているのです。さて、戦前のグローバリズムの経験で言うと、現在のアジア諸国の心理的状態は戦前日本と似たような局面にあります。そこにイメージの操作が上手な中国が介入すると、また惨憺たる状況が生まれかねない、と私は思うわけです。これが歴史から導かれる教訓です。
さて、表題についてですが、私は、東アジア共同体というのは、中国にとって、先進諸国連合や日米同盟等に対抗するためのいわゆる連衡策であると思うわけです。また、中国がしきりに推進するFTAも、先進諸国から市場国認定をもらえないことへの連衡策であると思うわけです。日本人は東アジア共同体にアジア主義的浪漫を感じているようですが、中国の意図と言うのは、こういう連衡思考だと思います。これに対して、日本がなすべきことは、日米同盟を堅持しながら、アジア諸国やインド・モンゴル・中央アジアと合従策を採ることです。中国封じ込めのためではありません。日本周辺のルール履行性と予測可能性を引き上げるためです。アジア諸国やインドとの合従は、日米同盟のためです。そして、モンゴルや中央アジアとの合従は、日露対話のためです。この合従策の肝は、日露対話です。
前にもお話しましたが、日本人とロシア人は、中国人よりもメンタリティーが近いのです。日本人やロシア人にとって、中国人は隣人として抜け目が無い存在ですが、日本人とロシア人は時間とともに馴染む存在です。現在のロシアは、乗っ取りが横行するどうしようもない経済で、少子高齢化の日本が投資するには不適格な国ですが、おそらくロシアでは、法律ではなく、日常性で馴染むことで、予測可能性を引き上げることが期待できます。これは例えば、日本の派閥根回し、族議員政治システムはロシアに移植可能であって、それによって、ロシアにおける政治経済的な予測可能性を引き上げられるということです。現在のロシアは、また投資対象として望ましい状態ではありませんが、日本の中央アジア・モンゴル外交を媒介にして、ロシアと政治対話することが可能になります(実際、日本の中央アジアへの接近で、ロシアは日本に情報交換の場を要求してきています)。そういう場で、日本の政治的経験をモデル化して提案してみることです。このことによって、日本とロシアはかなり近い存在であり、また、日本人の社会システム一般が非常に予測可能性が高く、ロシア人とその経済社会にとって好ましい環境であることが理解されることになるでしょう。このように、海のアジアの側では、米国流の方法でルール性と予測可能性を高め、内陸のアジアの側では、日本のやり方を提案しながら、必ずしも法に依らない方法で予測可能性を高め、日本にとって望ましい環境を形成すべきです。こうすることで、中国の成長により生じる不確実性を減らすことになると考えます。
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