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2026-09-10 16:16

(連載2)アパレル産業のサプライチェーンと南北問題

福居 莉音 早稲田大学国際教養学部学生
 2013年4月24日、衣料品工場が多く集まるバングラデシュの首都ダッカで起きた「ラナ・プラザ崩落事故」は、その悲惨な例の一つである。ラナ・プラザは、アパレル最大手Inditexを含む多くの大企業の衣料品を製造する縫製工場などが入居する、8階建ての商業ビルであった。事故前から建物の構造的な欠陥や亀裂が報告されていたにもかかわらず、ビルのオーナーは労働者を働かせ続け、結果としてビルは崩落し、1,134人が死亡、2,500人以上が負傷する惨事となった。この事故を機に、多くの工場で安全監視体制の強化や労働環境の改善が図られたが、搾取的な構造は今なお残存している。
 
 国境を跨ぐ複雑なサプライチェーンは素材や完成した衣料品の絶え間ない輸送を必要とするため、そのカーボンフットプリントは甚大である。労働搾取だけでなく、農業・繊維原料の採取、繊維加工、輸送などで環境の面でもグローバルサウスに不平等な負荷を与えている。例えば、綿花栽培に使用される農薬に含まれる化学物質が水路に流出し、周辺地域社会において神経系や生殖機能に関わる健康被害を引き起こすこともある。また、原材料の加工・紡績やテキスタイル製造における温室効果ガス排出量も著しく高い。今年8月にネパール・中国の国境で発生した土石流もその一例であるように、悪化し続ける気候変動による災害は、それに対処するためのインフラや財政力を欠く国々と人々に、最も過酷な被害をもたらしている。
 
 環境への影響は製造過程だけにとどまらず、消費後の段階、すなわちポストコンシューマの段階にまで及んでいる。慈善団体への古着寄付やブランド店舗の回収ボックス、自治体によるリサイクルの多くは、実際にはその国内で再販されることなく、その半数以上が「再利用」の名目でグローバルサウス諸国へと輸出されているのが現状である。例えば、ガーナのカントマント市場には週に1,000トン以上の古着が輸入されているが、そのうち半分ほどは結局廃棄されるに至る。そこから毎日およそ100トンの衣類が廃棄されており、その全てを処理しきれないため、湿地や川、ラグーン、海などに捨てられている。EU諸国などは環境問題、CO2排出の可視化・削減メカニズムに力を入れているが、このように廃棄物を国外へと輸出することによって、表面的には国内のCO2排出量を減らしているように見えているだけだ。このため、グローバルノースが謳う「持続可能性」は、実際には廃棄物の輸出に依存して成り立っているのである。グローバルノースで大量に消費された衣料品が最終的にグローバルサウスへと廃棄される、この構造はまさに「waste colonialism(廃棄物植民地主義)」と呼ぶべき事態である。
 
 アパレル産業ではグローバルノースの利便性と低コストの追求が、グローバルサウスへの負荷の転嫁によって成立している。本稿で論じてきた地政学リスクへの対応、労働搾取、そして廃棄物問題は、いずれも権力を握るグローバルノースの大企業が、安価かつ迅速な大量生産を追求してきた結果であり、その追求はグローバルサウスにおける労働と環境の搾取に依存することで初めて成り立ってきた。こうした搾取の構造は、サプライチェーンを不可視化・分散化することによって延命されてきた可能性が高く、法的拘束力を伴う国際的な規制が実現しない限り、この南北間の構造的問題は今後も続いていくだろう。トレーサビリティの確保、フェアトレードの推進、そして拡大生産者責任(EPR)制度などの導入を、国際的な法的枠組みによって、世界共通の基準として整備すべきではないだろうか。アパレル産業に限らず、環境ガバナンスにおいて国家間の協力と世界共通の意思が形成されない限り、グローバルサウスは今後も搾取され続けることになる。(おわり)
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