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2026-09-09 16:12

(連載1)アパレル産業のサプライチェーンと南北問題

福居 莉音 早稲田大学国際教養学部学生
 アパレル産業は、原料調達から紡績、縫製、物流、販売に至るまで国境をまたいで分業化された、複雑かつ地理的に分散したサプライチェーンに依存している。その主な理由は生産コストの大幅な削減にある。この複雑さゆえに、米中対立や関税政策、中東情勢といった地政学的事象に極めて脆弱であるだけでなく、サプライチェーン全体の透明性・トレーサビリティ(追跡可能性)も著しく低い。こうした構造は、デザイン・ブランディング・消費を担うグローバルノースと、原料・労働、そして最終的な廃棄処理を担わされるグローバルサウスという、ポストコロニアルな分業構造を再生産しており、経済的・地政学的に最も脆弱な国々における資源と労働力の搾取を今なお存続させている。
 
 アパレル産業が推進する地政学的リスク分散策(生産拠点の多極化・ローカル化など)は、サプライチェーンの構造的問題そのものの解決ではなく、その地理的な転嫁に過ぎない。この転嫁を可能にしているのは、植民地時代の分業構造をそのまま引き継いだ南北問題の残存であり、グローバルノースはリスクとコストの低減という恩恵を受ける一方で、環境汚染、劣悪な労働環境、そして消費後廃棄物という負荷は、グローバルサウスへと押し付けられ続けているのである。
 
 1960〜70年代から欧米の大企業らはオフショアリングを行ってきている。オフショアリング先の国々は欧米と比べ、非常に低賃金・低規制・低コストであるため、競争力を維持するために行われてきている。また、オフショアリング先の国々にとっても、雇用率を向上させることができるというメリットがある。近年、米中対立・関税・コロナ・中東情勢等により、コスト最適化だけでなくリスク分散も企業戦略に加わった。中国にある拠点に加えて少なくとももう1カ国追加する「チャイナ・プラスワン」のようなサプライチェーン戦略などで、地政学的リスクに対するレジリエンスを向上させるためだ。近年、ホルムズ海峡封鎖問題などが浮き彫りにしたように、世界中の産業やサプライチェーンは国際情勢に多大な影響を受けている。もちろん、アパレル産業も例外ではない。
 
 実際に「チャイナ・プラスワン」戦略の移転先として選ばれているのは、ベトナム、バングラデシュ、カンボジア、ミャンマーといった国々であり、その選定基準は結局のところ、中国から移転する以前とまったく変わらない。すなわち、地政学的レジリエンスという名目が掲げられていても、実際に重視されているのは低賃金労働力の確保と環境・労働規制の緩さである。つまり「リスク分散」とは、既存の搾取的な生産構造を温存したまま、その拠点をグローバルサウス内の別の国へと移動させているに過ぎない。こうした状況の中で、近年はエシカルファッションやサステナビリティを掲げる企業も増加している。しかし、その多くは「グリーンウォッシュ」と呼ばれるような表面的な訴求にとどまり、実際には価格競争力を維持するためにオフショアリングそのものを継続している。
 
 グローバルサウスとは、冷戦時代に「第三世界」と呼ばれていた南半球に多く位置する新興国・途上国を指す。経済的に豊かな国々を指すグローバルノースとグローバルサウスを区別する南北問題、南北格差はアパレル産業でも明らかだ。グローバルノースを拠点とする多国籍ブランドの多くは、グローバルサウスへオフショアリングされたサプライチェーンに依存している。とりわけファストファッションブランドは、多種多様なデザインを常に大量生産しており、その個々のパーツが世界各地で分散して製造されるため、サプライチェーンに関わる利害関係者の数は極めて膨大なものとなる。その結果、サプライチェーンの末端は不透明になり、グローバルサウスに置かれた工場における低賃金・長時間労働・安全基準の欠如といった実態は、十分に監視・確認されないまま繰り返されているのが現状である。(つづく)
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