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2026-06-02 15:46

(連載1)防衛費増額は本当に絶対正義か

篠田 英朗 東京外国語大学大学院教授
 米国のヘグセス長官が、シンガポールで開かれた「アジア安全保障会議(シャングリラ会合)」で、同盟国に国防費の増額を要求した。アジアの同盟国及びパートナー国が国防費を国内総生産(GDP)の3.5%に増やすことを期待する、と述べたのである。「GDP比3.5%の国防費」は、すでに欧州の同盟諸国が受け入れているものと同じだ。アメリカは、「GDP比3.5%」という数値目標を、あたかもそれが具体的で明確な目標なので普遍的な基準になりうる、といわんばかりに、所かまわず振り回しているわけである。

 我々は、すっかりこの光景を見慣れたものだと感じるようになってしまった。しかし、この慣行は、それほど古いものではない。かつてのアメリカは、駐留経費負担、装備購入、兵力整備などの具体性のある内容で、同盟諸国に対する防衛負担向上の要請していた。この傾向が変わり始めたのは、ほんの10年ほど前だ。ロシアのクリミア併合が起こった2014年のNATO首脳会議で、加盟国の防衛費をGDP比2%以上に近づける、という目標が採択された。ただ当初は、10年ほどかけて達成したい長期的な努力目標でしかなかった。この目標の早期達成を、欧州諸国に強く要請するようになったのは、2017年に成立した第一次トランプ政権だった。

 難色を示していた欧州諸国が、「GDP比2.0%」を早期に達成するようになったのは、2022年のロシアのウクライナ全面侵攻のためである。日本のその流れにそって「GDP比2%」を5年で実現することにした。ところが欧州諸国・日本がその目標が達成すると、第二次トランプ政権のアメリカは、「GDP比3.5%」の数値目標が要請するようになった。おそらく、この目標が達成されたら、「GDP比5.0%」の目標が導入されるはずである。アメリカは世界最高の軍需産業を持っている。同盟諸国が防衛費を拡大させれば、まず潤うのは、アメリカの軍需産業だ。トランプ政権の姿勢の背景に、そうした経済的利益の計算があることは、言うまでもないことである。

 だがよく考えてみると、アメリカの態度は、かなり乱暴である。NATO構成諸国のように、ロシアという共通の仮想敵に対して、組織的な対応を図る諸国であれば、共通の数値目標には、負担の公平配分という観点から、妥当性があるかもしれない。しかしアジアにはロシアという共通の仮想敵は存在しておらず、そもそもNATOのような軍事組織も存在しない。それなのに全く同じ数値目標での防衛費の増額を要求するというのは、必ずしも論理的な議論に基づく態度であるとは言えないように思われる。(つづく)
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