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2025-07-27 08:45

(連載2)石破首相の‘私とトランプ大統領発言’の問題

倉西 雅子 政治学者
 第二に、首相の発言は、通商協定とは、それを締結した政府のトップのみによって効力が保証されるのか、という問題を提起しています。ここから、今般の日米関税協定の適用期間は、何時から何時までを予定しているのか、という疑問も沸いてきます(報道によりますと、15%の関税率の適用は8月1日からとも・・・)。通常の通商条約や協定では、有効期間や見直しに関する条項を置くものなのですが、今般の日米関税合意については、何らかの合意文書に署名したとしか報じられていないのです。同合意文書は、日米両国とも、条約や協定締結に際して定められた公式の手続きを踏んでいませんので、法的効力の継続性が不透明なのです。
 
 仮に、両国ともに‘政権の存続期間’のみと想定されているならば、日本国の場合、石破首相の退陣によって短期間で終了するとも考えられますし(あるいは、自公政権存続期間・・・)、アメリカの場合には、トランプ大統領の任期が終わるまでの3年半ということになりましょう。この場合、80兆円の対米投資や100機ともされる航空機の購入も、極めて短期間で実施されなければならず、日本経済への負担は甚大となります。
 
 その一方で、無期限ともなりますと、極端な場合には、対米投資は年間で0でも1ドルでも構わなくなりますし、航空機等の購入等も先送りすることができます。もっとも、ベッセント米財務長官は、「四半期ごとに評価し、大統領が不満を持つようなら、自動車を含む製品すべてに、25%の関税率をブーメランのように適用する」と脅しをかけていますので、アメリカ側が、短期間での‘成果’を期待していることだけは確かなことです(あるいは、同合意の背景にはグローバリストの意向が働いており、両国のトップに対して合意内容の確実な実行を求めているのかもしれない・・・)。
 
 そして、日本国の政府系金融機関が提供する凡そ80兆円の対米投資による収益の9割がアメリカの取り分となり、しかも、アメリカ大統領が自らの裁量で自由に使うことができる‘大統領予算’になるとしますと、15%の関税率が維持される限り、日本国がアメリカに対して永続的に同予算の財源を拠出する体制が固定化します。対米貿易黒字は年間凡そ9兆円ですが、今後は15%関税と米製品の輸入拡大によってさらに黒字幅は縮小することでしょう。長期的には、日本国のアメリカに対する奇妙で不平等な‘上納制度’のみが残ってしまうリスクも否定はできないのです(本来は、日本国の国庫に入るべき歳入のはず・・・)。以上に二点ほど主要な問題点を述べましたが、今般の石破首相の発言は、通商政策にあって燻ってきた様々な問題を浮かび上がらせています。そして、これらの問題は、グローバリズムに邁進するばかりに追い込まれてしまった隘路からの脱出なくして解決しないのではないかと思うのです。(おわり)
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(連載1)石破首相の‘私とトランプ大統領発言’の問題 倉西 雅子 2025-07-26 08:40
(連載2)石破首相の‘私とトランプ大統領発言’の問題 倉西 雅子 2025-07-27 08:45
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