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2022-03-03 11:22
(連載2)ウクライナ危機が問う積み残された問題
倉西 雅子
政治学者
クリミア・タタールは極端な事例としても、ロシア周辺諸国は、ロシア帝国並びにソ連邦の強引な移住政策の爪痕を残しており、一筋縄ではいかない複雑な民族問題を抱えています。そして、この混沌とした多民族混住状態こそが、プーチン大統領による拡張政策に格好の口実を与えたと言えましょう。ジョージアであれ、ウクライナであれ、ロシアと距離的に近い程にロシア系住民の比率は高くなります。かくしてロシアは、民族自決の原則を盾に自らの国境付近の地域に’独立国家’を建設すると共に、ロシア系住民が少数派の地域に対しても、ロシア系住民の保護を理由に軍事的な介入を繰り返しているのです。上述した「侵略の定義に関する条約」にあっても、第7条には民族自決権に関する例外条項が置かれています。
ユーラシア大陸の複雑な民族問題を考慮しますと、ロシアの時代錯誤の’帝国主義政策’を止めさせるためには、国境の侵犯を形式的に国際法違反として糾弾するのみでは抜本的な解決には至らないように思えます。結局は、国際社会は、ロシアによる既成事実化の前に立ち竦むこととなりかねず、将来的にも、ロシア周辺諸国にあっては同様の危機が繰り返されることになるからです。となりますと、今日、国際社会が取り組むべきは、国際法において明確な規定が設けられていない多民族混住地帯に対する平和的な解決のための行動規範の策定なのかもしれません。
国際法上の行動規範としては、最低限、(1)自国領域内に多民族混住地域が存在する国家、並びに、(2)他国に自国民と同系統の住民が居住する国家の双方の行動規範を含む必要がありましょう。例えば、(1)の国家に対しては、先制的な軍事力行使の禁止、各民族の権利尊重、全ての国民に対する平等な保護などが、そして、(2)の国家に対しては、民族自決並びに対人主権を口実とした軍事並びに政治的介入の禁止などが求められます。加えて、紛争地域に居住する各民族自身による自己解決の機会をも設ける必要もありましょう。ロシアもまた法の支配の価値を共有しない無法国家の一つですが、経済制裁といった実質的な損害を伴う制裁を科す一方で、国際法秩序の観点から問題提起することは、ロシアに対する心理的な圧力ともなるかもしれません。
何れにしましても、多民族混住地域における安定的な統治のあり方を見出さない限り、国際社会は、常にロシアによる拡張主義の脅威に晒され続けることとなりましょう。そして多民族混住のリスクは、世界各国におきまして中国系移民が増加しつつある中、ロシア周辺諸国のみに限られた問題ではないようにも思えてくるのです。(おわり)
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投稿履歴
(連載1)ウクライナ危機が問う積み残された問題
倉西 雅子 2022-03-02 21:01
(連載2)ウクライナ危機が問う積み残された問題
倉西 雅子 2022-03-03 11:22
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