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2021-05-20 14:10
(連載2)米国の尖閣と台湾防衛の本気度
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
日米共同声明の中で尖閣諸島について「・・米国はまた、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認した。日米両国は共に、尖閣諸島に対する日本の施政を損おうとするいかなる一方的な行動にも反対する」と定めた。これによりこれまでの曖昧な米政府の姿勢から一段と踏み込み、中国が尖閣諸島の実効支配を目論もうとすることがあれば、米国は日本と連携し尖閣の実効支配を阻止すべく行動する姿勢を明確に打ち出したと言える。続いて同共同声明の最大の力点は台湾についてであった。台湾について共同声明は「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記した。やや曖昧な表現であるとは言え、「台湾海峡の平和と安定」の文言が入ったことに加え、「平和的解決を促す」として習近平指導部が目論む軍事侵攻の可能性に釘を刺したと言える。日米共同声明を通じ習近平指導部の膨張的かつ覇権主義的な動きに日米が共通して認識している懸念などを明確にしたと言える。
2020年6月の終わりの香港国家安全維持法の制定を通じ香港の自治が骨抜きとなった今、次に矛先を向けられるのは間違いなく台湾であり、蔡英文政権は中国の脅威に日々怯えていると言えよう。したがって、日米共同声明が「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と言及したことに、台湾外交部が直ちに「心からの歓迎と感謝を表す」としたのは十分に理解できよう。しかも同外交部が「台湾は第1列島線の要に位置し、地域の安定と繁栄の鍵であり続けるが、このところ地域の国々が直面しているのと同様の圧力や侵略の脅威を感じている」と窮状を述べた。このことは中国本土と真正面から対峙する格好で最前線に立たされている台湾こそが中国による膨張と覇権主義の矢面に立たされていると苦境を述べたものである。実際に今後、台湾が軍事併合されるような事態が現実になるようなことがあれば、東シナ海での現状が根底から崩されかねないことを意味する。「中国の夢」として「中華民族の偉大な復興」を掲げる習近平にとって、台湾は帝国主義支配に苛まれた最後の植民地主義の残滓に映るであろう。したがって、台湾の回復なくして中国の再統一もなくまた「中華民族の偉大な復興」もないであろう。しかも習近平指導部からみて、台湾には喉から手が出るほど欲しい世界を代表する半導体技術や先端的技術が大量にある。
他方、わが国にとってみれば、台湾の近接海域は死活的重要な海上交通路の役割を果たしてきた。習近平指導部が台湾を軍事支配下に置くことがあれば、南シナ海に続いて東シナ海も中国の支配下に置かれることを意味する。これらの海域を通過して莫大な数の貨物船や石油タンカーなどわが国に入港していることを踏まえると、わが国の海上交通路の要衝が日々中国に脅かされるという事態に発展しかねない。この結果、東シナ海の現状は根本から変えかねない。こうした状況の下で米国にとってもわが国にとっても台湾の防衛は重大事であると言える。バイデン政権が日米共同声明を通じ「台湾」について言及したのは、習近平指導部が遠からず台湾の軍事併合に乗り出す可能性を排除できないとし、そうした事態は断固阻止しなければならないとの認識を表したと理解できよう。2021年3月9日にインド太平洋軍のデイビッドソン(Philip Davidson)司令官が上院軍事委員会の公聴会において向こう6年以内に台湾への軍事侵攻が十分に起こりうるとする重大な問題提起を行った。同司令官は「・・中国は米国とルールに従った国際秩序におけるわが国のリーダーとしての役割に取って代わろうという野心を強めていると私は憂慮している。2050年までにである。・・その前に、台湾がその野心の目標の一つであることは間違いない。その脅威は向こう10年、実際には今後6年で明らかになると思う」と語った。
これに対し、日米共同声明に対し習近平指導部は予想通り真っ向から猛反駁した。駐米中国大使館は、「台湾と香港、新疆ウイグル自治区に関わる問題は中国の内政であり、東シナ海と南シナ海は中国の領土と主権、海洋権益に関わるもので、干渉することは許さない。われわれは強い不満と断固とした反対を表明する。中国は国家の主権と安全、発展の利益を断固として守る」と断言した。日米共同声明後、中国がまもなく挑発的な動きに打って出たことは危惧される。遼寧を中心とする中国の空母編隊が尖閣諸島の近接海域を4月の終わりに航行し、偵察活動を行った。尖閣諸島の近接海域に中国海警局船舶だけでなく空母編隊を差し向けたのは明らかにわが国を揺さぶろうとする習近平指導部の脅しである。これに対し、日米両国も明確なシグナルを送る必要があるのではなかろうか。今後、習近平指導部は武力による現状の変更を全くいとわず膨張政策を続けることが予想される。これに対し、バイデン政権が尖閣諸島と台湾の断固たる防衛に向けてより具体的かつ実効力を持つ政策を踏襲する意思があるのか否か注視されるのである。(おわり)
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斎藤 直樹 2021-05-19 14:05
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斎藤 直樹 2021-05-20 14:10
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