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2020-10-09 10:44
(連載2)コロナ禍に対する習近平の言い分
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
要するに、中国は新型コロナウイルスによる未曾有の感染症と闘い、中国国民の生命と健康を守ると共に、同ウイルスの各国への拡大の阻止に寄与したと習近平は自賛したかったのであろう。他方、各国に甚大な感染症の災害を招いた責任について習近平は一言も触れなかったし、謝罪の一言もなかった。コロナ禍を引き起こした国家の最高指導者が謝罪するどころか、世界に向けて公然と自画自賛したのは常軌を逸した話にしか聞こえなかった。続いて、習近平は9月22日の第75回国連総会一般討論演説において中国の立場を改めて示した。その中で、「問題を政治化したり、汚名を着せたりする試みは避けられなければならない」と習近平は論じた。コロナ禍を巡る中国に対する各国の痛烈な非難は「問題を政治化し、汚名を着せたり」しているように習近平指導部の目に映るのであろうか。しかしこうした未曾有の感染症を引き起こし、各国に甚大な損害を与えていることに謝罪の一言もないことから、批判され追及されるのでないであろうか。「新型コロナウイルスは、われわれが共通の利害関係を持つ相互に連結したグローバルな共同体に存していることを想起させる」と習近平は語ったが、このことはグローバル化した世界ではウイルスの拡散は多かれ少なかれ不可避であったとの自己弁護のように聞こえる。しかしウイルス発生が確認された初期に初動対応が的確に行われていたのであれば、発生源である武漢市で、あるいは湖北省で、少なくとも中国内で感染拡大は封じ込められたはずである。莫大な数の旅行者の海外渡航が招きかねない感染拡大のリスクに対しあまりに無頓着であったことが未曽有のパンデミックを引き起こしたのである。この点はトランプ大統領によって幾度となく指摘されてきた点である。
「他国を締め出すためにブロックを構築する試みを拒否し、ゼロ・サムアプローチに反対する必要がある」と習近平は力説した。このことはトランプ政権が中国通信機器企業のファーウェイなどを市場からの締め出そうとしている動きに対し非難しているのであろう。しかしポンペオ国務長官が7月23日に行った演説で、これまで中国は実に巧妙に自由主義世界に入り込み先端IT技術の機密や技術を盗み出してきたと指弾した。そうした認識の下で、中国が長年にわたり行ってきたこうした行為をトランプ政権はもはや看過できないとしてファーウェイなどの締出しを行っている。「われわれはお互いを同じ大家族の一員と見なし、双方に利益をもたらす協力を追求し、イデオロギー論争を乗り越え、「文明の衝突」の罠に陥らないようにしなければならない」と習近平は訴えた。習近平指導部は2012年に「中国の夢」として「中華民族の偉大なる復興」を掲げ、2049年までに世界大国を実現するという遠大な国家戦略に向け、がむしゃらに突き進んでいる感がある。これに対し、そうした中国の動きを既存の国際秩序を切り崩す行動として看過できないとし、トランプ政権は中国からの輸入品目に対する高額関税に代表される対抗措置を講じてきた結果、米中対立が激しさを増したのであり、このことは「文明の衝突」と何の関係もないことである。
さらに習近平は「われわれは覇権、膨張、勢力圏を決して求めない。冷戦や熱戦をどの国とも戦うつもりはない」と力説した。「覇権、膨張、勢力圏を決して求めない」と習近平は言うが、同指導部が追い求めているのはまさしく「覇権、膨張、勢力圏」そのものでないのか疑問に思えてならない。中国による南シナ海ほぼ全域への領有権の主張、とりわけ南沙諸島の「軍事拠点化」に向けた動き、香港の自治の事実上の剥奪、台湾を独立勢力と決めつけ軍事併合も辞さずと軍事圧力をかける様、わが国の尖閣諸島周辺海域への中国公船による頻繁な侵入と同諸島への実効支配の機会を窺う様、さらに自らの勢力圏の建設に向け「一帯一路」構想を猛進させる様など、「覇権、膨張、勢力圏」の追求以外の何物でもない。また「冷戦や熱戦をどの国とも戦うつもりはない」と習近平は強調した。しかし各国がコロナ対策に追われ後手、後手に回っている現在、習近平指導部によるこうした露骨かつ横暴な動きに拍車が掛かっている感がある。そうした動きに対し、中国の近隣諸国だけでなく米国は警戒心を高めている。中国による脅威の増大を前にして各国が自国の安全確保のために対抗策を講ずるのは当然のことである。このようにみると、冷戦の方向に向かいかねない根本的な原因を作っているのは習近平指導部でないかと疑いたくなる。
習近平は5月18日のWHO年次総会に続き、9月22日の国連総会一般討論演説においてもウイルス感染拡大を巡る責任の所在をうやむやにし、未曾有の災禍を招いたことに対する一言の謝罪も行わなかった。国際社会のあるべき未来について習近平は論じたつもりであったかもしれないが、都合の良い言葉を並べただけである。しかも演説の中で習近平が持ち出した論点の一つ一つが事実に相反しているのではないか疑いたくなる。要するに、習近平の演説は責任回避に終始しただけでなく、詭弁と強弁の域を出ていないと言わざるを得ない。これに対し、同じく国連総会一般討論演説において「われわれは世界にこの疫病をばらまいた国の責任を問わなければならない。中国である」と、未曾有の災禍を世界各地にまき散らした責任を厳しく追及するとトランプから猛反駁に会ったのは当然のことであろう。(おわり)
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(連載1)コロナ禍に対する習近平の言い分
斎藤 直樹 2020-10-08 23:35
(連載2)コロナ禍に対する習近平の言い分
斎藤 直樹 2020-10-09 10:44
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