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2020-08-11 06:11
(連載2)中国による尖閣の実効支配を許してはならない
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
これに対し、わが国はどのように対処するかについてほとんど伝えられていない。河野防衛相は8月4日に「自衛隊としても海上保安庁と連携し、必要な場合にはしっかり行動したい」と述べた。河野は余裕ある表情で「手の内は明かさない」と発言したが、わが国にこれといった「手の内」があるのか心配である。河野の発言はこれまでの海上保安庁だけの対処でなく必要に応じ自衛隊の出動があることを明らかにしたものであるが、自衛隊が掲げる島嶼防衛がいよいよ試される局面が近づいていると言えよう。河野の発言が中国側に対しはたして牽制になったであろうか。河野の発言を支えているのは在日米軍のシュナイダー司令官の発言でなかろうか。シュナイダーは7月29日に極めて重大と思われる発言を行った。同氏によると、「私たちは尖閣で米軍・自衛隊の軍事活動を続けている。私たちは尖閣周辺での飛行、運航を行い、今後も日本との相互協力および安全保障条約の一環としてこれを行う。」シュナイダーの発言に不明確なところがあるとはいえ、尖閣諸島やその領海周辺で重大な事態が発生することがあれば、在日米軍は自衛隊への支援を行うことを明らかにしたと受け止めることができる。
これまで日本政府は中国との対立を回避するため意識的に尖閣諸島の実効支配に乗り出すことを回避してきた。そうしたわが国の受け身の対応を踏まえ、日本側は何もできないであろうと、中国側は高を括っているのではないか。したがって、もし大量の中国漁船や中国公船が尖閣諸島領海に侵入すれば、誤解のない断固たる対応をわが国が講ずることを中国側に明白な形で示す必要があろう。このためには海上保安庁、自衛隊、必要に応じ在日米軍からなる幾重にも重なった防衛態勢を準備しておかなければならない。もしも尖閣諸島周辺海域で防衛に躓くことがあれば、続いてわが国の南西諸島全域が狙われかねない。今回、コロナ禍の間隙を突く習近平指導部による尖閣諸島周辺海域への執拗な侵入は同諸島の実効支配への布石であると捉えることが可能である。実際に尖閣諸島領海に多数の中国漁船や中国公船が押し寄せ、挙句の果てに上陸されるという事態が危惧される。これに首尾よく対処するためには、尖閣諸島に日本側が上陸し中国側による不法上陸に備えるという態勢を講じる必要があろう。先に中国側に不法上陸を許すことは何としても回避しなければならない。
しかも中国海警局の公船が尖閣諸島領海に侵入する際、背後に中国海軍のミサイル艇が控えていることが伝えられている。この結果、事と次第では自衛隊と中国海軍が一触即発の状況になりかねないことも想定される。習近平指導部はわが国の防衛態勢を大したことはないと高を括っているであろうが、在日米軍による防衛支援が確保されることになれば状況は全く違ってくる。事実、習近平指導部は在日米軍による支援をことさら嫌っている節がある。その意味で、尖閣諸島の防衛に向けた自衛隊と在日米軍の協力は鍵となると考えられる。もし中国側が尖閣諸島の実効支配に乗り出そうとしても、在日米軍の支援が確保できるのであれば、習近平指導部の狙いが外れかねない。後方支援として米軍が控えるというだけで中国側に対する強力な牽制になろう。加えて、尖閣諸島周辺海域、台湾海峡、南シナ海の南沙諸島海域での中国の強引かつ露骨な海洋活動は連動していると捉える必要がある。したがって、尖閣諸島の防衛のために米軍が何らかの形で出動することがあれば、習近平指導部が今後、台湾への軍事侵攻を強行しようとする場合、米軍が台湾の防衛を掲げ出動する可能性が現実的になると考えられる。
さらに南沙諸島の中で中国が実効支配する幾つもの「人工島」に対する米軍による空爆の可能性が排除できなくなるであろう。そうした空爆ほど習近平指導部を震撼させるものはない。このようにみると、尖閣諸島、台湾海峡、南沙諸島問題は連動しているだけでなく、その重大な焦点となっているのは尖閣諸島の防衛であることが理解できる。習近平が何よりも恐れているのは米軍の出動であることに間違いはない。尖閣諸島周辺海域で起こりかねないことは今後、台湾海峡や南沙諸島で起こりかねないことを暗示させるものでもある。大量の中国漁船団が尖閣諸島領海に群がろうとしている8月16日は迫っている。事態は風雲急を告げようとしているのである。(おわり)
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(連載1)中国による尖閣の実効支配を許してはならない
斎藤 直樹 2020-08-10 22:38
(連載2)中国による尖閣の実効支配を許してはならない
斎藤 直樹 2020-08-11 06:11
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