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2020-07-07 23:45
(連載1)コロナ禍で揺れる「一帯一路」と「債務の罠」
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
習近平中国共産党総書記は2012年に「中国の夢」について語った。その「中国の夢」とは「中華民族の偉大なる復興」を意味する。より具体的には1949年の中華人民共和国の建国から百周年を迎える2049年までに世界一の国家を目指すという遠大な国家戦略であると言える。この国家戦略の実現に向けて習近平指導部は邁進している感があるが、同戦略は幾つかの重要な柱から構成されていると考えられる。そうした国家戦略の代表的な柱の一つは「一帯一路」構想の推進である。「一帯一路」とは中国を起点として西方に向けて陸路と海路からなる巨大な経済圏の建設を目指す目論見である。陸路とは「シルクロード経済ベルト」と呼ばれ、中国西部から中央アジアを経てヨーロッパに至るルートである。海路とは「21世紀海上シルクロード」とも呼ばれ、中国沿岸地域を起点として東南アジア、南アジア、アラビア半島沿岸地域、さらにはアフリカの東海岸をつなぐルートである。この「シルクロード経済ベルト」と「海上シルクロード」の二大地域をつなぎ合わせ巨大な経済圏を建設するという、途方もなく遠大な挑戦に習近平指導部は2013年に乗り出した。
そもそも「一帯一路」構想の背景には、国家の経済発展にとって鉄道、道路、港湾施設、通信網などインフラ整備が礎になるという確信があるとされる。同構想はインフラを大々的に整備したことにより持続的な経済発展につながったという中国の経験に基礎を置く。しかし実際にはそれだけではなく、習近平指導部の強かな経済戦略でもある。同構想の根底には持続的な経済成長を続けてきた中国の成長が頭打ちになり始めたことを踏まえ、これに対処するために途上国のインフラ整備に向け莫大な額の融資を行い、途上国の経済成長を促し中国が投下した融資を回収しようとする狙いがあると考えられる。習近平指導部が同構想を発進させるにあたり、参加加盟国を募り参加国への莫大な資金の提供を約束した。それを可能にせしめたのはいかなる国にも追随を許さない潤沢な資金であった。同構想のためにアジアインフラ投資銀行(AIIB)を創設し、多数国に膨大な額に及ぶ資金を中国は拠出してきた。
中国が「一帯一路」構想の下で参加国に貸し付けた総額は約4610億ドルに達するとされる。この結果、百以上の加盟国で数百のプロジェクトが推進されているとされるが、必ずしも良いことばかりではない。と言うのは、莫大な額の資金の提供といっても援助ではなくあくまで融資であると言える。資金の提供を受けた加盟国は遅かれ早かれ債務の返済に迫られるわけであり、少なからずの国々が債務の返済に苦しんでいるとされる。中国の近隣ではモンゴル、キルギス、タジキスタン、ラオス、パキスタン、モルディブ、欧州ではモンテネグロ、アフリカではジブチなどがしばしばあげられる。この最たる事例は債務不履行として烙印を押され中国企業に向こう99年にわたり差し押さえ処分となったスリランカのハンバントタ港湾施設の事例である。こうしたことから、「債務の罠」という有り難くない呼称をいただいているわけである。とは言え、習近平指導部が最初から資産の収奪を狙い資金を貸し付けているわけではないであろう。と言うのは、資産の差押えという事例は他の加盟国に与える印象が誠に悪く、国際的な信用を著しく損ねることになりかねない。まさしく悪徳高利貸しの印象を自らに与えかねない。
ところが、留意すべき報告も行われている。「一帯一路」構想の下で推進されているプロジェクトと世界銀行が貸付けを行っているプロジェクトについて、融資条件の視点から比較すると、「一帯一路」の融資条件が世界銀行の融資条件よりも厳格であるとされる。実際に「一帯一路」のプロジェクトの融資の償還期間や猶予期間が短期であり、金利も低くないことが指摘されている。「一帯一路」のプロジェクトでは融資の金利が3%以上である契約が増えているとされる。これとは逆に、途上国に低金利で融資を行う事例もあるとされる。しかしそうした場合、往々にしてからくりがあり、債務の返済が滞った場合に備え、途上国の天然資源などが担保になっている場合があるとされる。これではスリランカの港湾施設の二の舞となりかねない。 (つづく)
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(連載1)コロナ禍で揺れる「一帯一路」と「債務の罠」
斎藤 直樹 2020-07-07 23:45
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