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2020-01-18 04:34
(連載2)トランプからの警告
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
しかも13日の試験で燃焼試験が7分間にも及んだことを踏まえると、新型ICBMは1000キロ・グラム相当の重量の弾頭を搭載することが可能ではないかと推測されるに及んだ。このことから複数の核弾頭を装着可能なICBMの発射実験が強行されるのではないかとの見方が出てきたのである。トランプ政権はこのあたりから遠からず大規模な軍事挑発が強行される可能性があり、それがクリスマスプレゼントを意味するのではないか疑心暗鬼になりだした。同政権としてはいかなることがあっても大規模軍事挑発を阻止する必要から、連日のように警鐘を鳴らした。16日、トランプは金正恩指導部によるICBM発射実験の可能性を含む軍事挑発に対し警戒している旨の発言を行った。トランプいわく、「北朝鮮の多くの場所を厳重に監視している。何か起きれば処理するだろう。」トランプの発言を後押しするかのように、17日にブラウン米国太平洋空軍司令官は軍事的選択肢の発動の可能性を示唆した。ブラウンによると、「我々の役割は外交的努力を支援すること」とした上で、「もし外交的努力が崩れた場合、我々は準備ができていなければならない」と発言した。これにエスパー国防長官が続いた。20日にエスパーは「外交を通じた解決が最善の道である」と前置きし、その上で「必要となれば今夜にも戦い、勝利する準備はできていると確信している」と断言したのである。結局、何事もなくクリスマスは過ぎたが、その直後にトランプは「武力誇示オプション」を事前承認したとし、金正恩がいつ何時、どのような軍事行動に打って出たとしても、これに対処可能なように米軍は出動できる手続きをとったことを明らかにした。
こうした中で開催されたのが上述の12月末の朝鮮労働党中央委員会総会であった。その中で、金正恩が自ら大規模な軍事挑発を強行することを示唆したことは既述のとおりである。その数日後の1月3日にイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官がイラクのバグダッドで殺害されたとの衝撃的なニュースが世界を駆け巡った。これを端緒として、一時米国とイランの間で軍事衝突が勃発するのではないか危惧されたが、イラン側の弾道ミサイルによる報復があったものの、トランプは自制方針を打ち出し、事態はやや沈静化の方向に向かい出した。問題はソレイマニ司令官殺害が金正恩の心理に与えた影響である。トランプによるソレイマニの排除指示と金正恩は何ら直接な関連を持つものではないし、トランプが金正恩の物理的排除を念頭に指示した作戦でないにしても、金正恩に対する強烈な警告になったことは明らかであろう。実際に金正恩の動静は不明となった。12月末に四日間続いた会議の疲れを癒すための静養であるとも解釈できようが、斬首作戦を恐れた金正恩が雲隠れしたという見方もあながち見当はずれでもなさそうである。
その後、1月8日の金正恩に誕生日を祝う親書をトランプが送ったとされ、その中で非核化交渉の再開をトランプが示唆したのではないかと憶測された。硬軟織り交ぜて、金正恩による軍事挑発をトランプはなんとか思いとどまらせようとしている感がある。その事由はもしも上述の大規模軍事挑発が強行される事態となれば、トランプが自賛してきた最大の外交成果が台無しになるだけでなく、その結果として11月の大統領再選も覚束なくなりかねないと、トランプが感じているからであろう。ところが、トランプの親書に対し、大幅な譲歩を行う必要があると金正恩側が反駁した。すなわち、金桂冠(キム・ゲグァン)外務省顧問は11日に「国連制裁と国の中核的な核施設を丸ごと換えようと提案したベトナムでのような協商は二度とないであろう」とし、「今後、再び我々が米国にだまされてかつてのように時間を捨てることは絶対にない」と吐き捨てるように述べたのである。この意味するところは、これまでの経済制裁の解除要求から北朝鮮を核保有国として承認するよう要求のハードルを金正恩側がさらに高めようとしているのではないかということである。もしそうであるとすれば、もっとやっかいな事態になりかねない。と言うのは、一度核保有国の地位を承認することがあれば、それに続いて法外な要求が続きかねないからである。次に出てくるのが経済制裁の解除になる可能性がある。
と言うのは、核保有国として承認した以上、北朝鮮に経済制裁を科す根拠が失われかねないからである。続いて、朝鮮戦争の休戦協定に替わる平和条約の締結の要求へと歩を進めることが予想される。もし同条約が結ばれれば、その次は在韓米軍の撤収要求になりかねない。平和条約が結ばれれば、米朝はもはや敵同士ではない以上、在韓米軍に撤収していただきたいということになるであろう。これに米朝国交正常化の要求が続きかねない。これに関連して、膨大な経済支援が求められることになろう。トランプ側はこの手があることは知っているはずである。これにはトランプが乗らないことを踏まえると、この先、事態はもっと迷走するのではないかと推測される。トランプと金正恩の間でこうした綱引きが当分の間続くと推測されるが、金正恩の求めに応じ大幅な譲歩をトランプが行うとは考え難い。この結果、遠からず痺れを切らした金正恩が「衝撃的な行動」に打って出るのではないか案じられる。事態は重大な岐路に立たされている感がある。(おわり)
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(連載1)トランプからの警告
斎藤 直樹 2020-01-17 08:21
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斎藤 直樹 2020-01-18 04:34
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