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2019-10-31 17:19
(連載2)中距離核戦力の韓国配備と文在寅の板挟み
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
前述の通り、「三不約束」を結びTHAADの追加配備は行わないと明言したが、THAAD配備がよほど頭にきているのか、その後も文在寅に対する習近平の冷淡な姿勢に変わりがなかったばかりか、米国との安全保障協力に対し文在寅に習近平は事あるごとに警告をしてきた。こうした中で、文在寅は自分が深刻な板挟みに陥っていることを感じざるをえなかった。一方で、日米韓三国安全保障協力体制に韓国を組み込みたいトランプによる要望をむげに拒めない一方、「三不約束」を突きつけられ習近平にも頭が上がらないという板挟みである。実際、文在寅は習近平による報復を恐れ戦々恐々となっている。それ以降、今日まで習近平は冷淡な姿勢を文在寅に続けている。今後、もしもTHAADの撤廃、在韓米軍の縮小さらにはその撤収、米韓同盟の破棄を文在寅が決断することがあれば、初めて文在寅への対応を習近平は改めるのではないかと映る。これに対し、そうした習近平の胸の内を察しており、できることならばそうしたいと文在寅は考えているのでなかろうか。このことはこれまた文在寅に冷淡な姿勢を続けている金正恩の胸中も同様であり、文在寅が米国との一切の安全保障協力を破棄する行動をとることを金正恩も願っているのではなかろうか。その文在寅が米国のMDに一層加わるような姿勢を示すことがあれば、習近平だけでなく金正恩が猛反駁することは想像に難くない。
中朝による核軍拡への抑止力の確保を見据えて、将来、中距離核戦力をアジア・太平洋地域の同盟諸国に米国が持ち込もうとすれば、配備候補先の一つと目されかねないのが韓国である。上述のとおり、朴槿恵政権がTHAADの配備を決断した際に習近平指導部が猛反発に転じた経緯に照らし、中距離核戦力の韓国配備ともなれば、これまでにない形で中国は反発するのが必至であり、北朝鮮も猛反発することが確実視されよう。加えて、猛烈な反対運動が国内で起きることは不可避であろう。前述のとおり、韓国のTHAAD導入について習近平指導部を激怒させた事由の一つはTHAAD迎撃ミサイルによる迎撃能力だけでなくTHAADの高性能レーダーにあったとされる。米国の中距離核戦力の韓国導入ともなれば、習近平指導部の怒りは頂点に達しかねないと想定される。このことは、中国の心臓部を射程内に捉える弾道ミサイルもさることながら、最新型のレーダーの前進配備により中国の弾道ミサイルの発射が一層確実に監視できることになるからである。これに対し、中国はこれ以上ない形の経済報復を韓国に対し断行することが予想される。韓国は中国による激烈な経済報復を覚悟しなければならないだろう。
こうした中で相変わらず身動きがとれない文在寅がトランプ政権との間で難題を抱えているのは明らかである。GSOMIAの破棄決定で信頼を失った文在寅は今後の米韓安全保障協力の課題を乗り切れるであろうか。その真っ先の懸案事項は昨年に続き在韓米軍駐留経費負担への韓国側の拠出問題であろう。韓国側の経費負担に著しく不満なトランプは文在寅に対し相応の経費負担増を求めるであろうが、これに文在寅が快く応じないとすれば、在韓米軍の縮小やその撤収さえ議論の俎上に載りかねない。トランプ政権に対し常々即答を避け、検討するとの文言で事ある度にお茶を濁してきた文在寅であるが、今後、韓国の安全保障・防衛に直結する懸案事項でお茶を濁すことはできないであろう。しかも在韓米軍駐留経費負担問題と並行する形で、対中対抗策としてトランプ政権は中距離核戦力の韓国導入について打診したいところであろうとみられる。これに対し、文在寅はどのように対応するのか。文在寅が米国の中距離核戦力の導入受入れに前向きな姿勢を示唆することはありえないとしても、またしても検討させていただきたいと回答するようでは、トランプ政権の不信感はこれまで以上に募ることになろう。
文在寅政権の発足以来、大統領として文在寅は確固たる安全保障・防衛上の対策を講じていない。北朝鮮の非核化が遅々として進まないばかりか、2019年を通じ韓国に対する北朝鮮の核の脅威が日々増大しているにもかからわず、南北経済協力や将来の南北統一の夢ばかりを語っている印象を文在寅から受ける。これでは韓国民を到底安心させることはできないであろう。外部からの脅威に対し国家と国民の安全を確保するという努力が残念ながら文在寅に欠如していると言わざるをえない。日々増大する北朝鮮や中国の核の脅威に対し毅然と対処する必要があるのは言うまでもない。国民の生命と財産の確保は政府にとって最低限の責任であり、外部からの脅威に対し国民の生命と財産を守ることができないのであれば、政府としての体をなしていないことは明らかであろう。文在寅に愛想を尽かした感のある米国政府としては、時間が多少かかろうが文在寅退陣後の韓国政権が中距離核戦力の導入受入れを決断することを期待しているのではないであろうか。こうした状況推移の下で、文在寅後の韓国政権は重大な選択に迫られることになりかねない。米国を選ぶのか、中国を選ぶのかの選択であろう。(おわり)
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(連載1)中距離核戦力の韓国配備と文在寅の板挟み
斎藤 直樹 2019-10-30 21:49
(連載2)中距離核戦力の韓国配備と文在寅の板挟み
斎藤 直樹 2019-10-31 17:19
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