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2019-01-24 17:28
(連載1)「植民地支配の慰謝料」請求は無理筋
倉西 雅子
政治学者
韓国最高裁判所が下した「徴用工判決」は、新日鉄住金に対して原告一人当たり凡そ1000万円の賠償を命じたことで、日本国内では落胆と怒りの感情が拡がっています。1965年に難航を極めた交渉の末に日本側の大幅譲歩によって決着を見た日韓請求権協定が、事実上、一方的に反故にされたのですから。同判決において、原告一人あたりの賠償額が実際の給与未払い分を越えて凡そ1000万円と算出された理由は、‘違法な植民地支配の慰謝料’が含まれているからだそうです。たとえ戦争末期に日本企業で働いていた朝鮮半島出身者に対する賃金の未払いが発生していたとしても、それは、命じられた賠償額に比べれば微々たるものであったことでしょう。しかしながら、韓国の最高裁判所は、本来の債権債務関係を越えた「慰謝料」という概念を持ち込み、日韓請求権協定の枠外に「慰謝料」という別枠の個人請求権を創設したいようです。果たして、この主張に正当性は認められるのでしょうか。
第一に問題とすべきは、日韓請求権協定の本来の目的が、韓国独立に際しての相互清算である点です。日韓交渉を義務付けたサンフランシスコ講和条約の第4条は、両国における国、並びに、国民間の財産及び請求権の相互清算を定めています。相互清算は、第一次世界大戦後のオーストリア・ハンガリー二重帝国からの東欧諸国の独立に際しての規定を踏襲しており、戦勝国による敗戦国に対する賠償請求を意味していません。あくまでも、独立に際して発生する両国間の財産や請求権に関する問題を解決するための一作業であって、そこには「慰謝料」という意味合いは含まれていないのです。また、サンフランシスコ講和条約において日本国が残した残置財産の処分権を認めたのは連合国の一員とされた中国のみですので、韓国には、在韓日本財産に対する処分権もありませんでした(もっとも、合衆国軍政府による処分権は認めている…)。なお、韓国の慰謝料要求が通用すれば、アジア・アフリカ諸国を植民地化した西欧諸国は、様々な名目で永遠に旧植民地から「逆搾取」を受け続けることになるかもしれません。
第二に指摘すべき点は、財産及び請求権を越えた「慰謝料」要求は、既に、実質的に日韓請求権協定の経済支援に含まれている点です。日韓請求権協定という簡略化した名称からは、契約等の法的な根拠を有する権利(実体的権利)に関する合意のようなイメージを受けますが、同協定の正式名称は「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」です。同協定は、経済協力を定める第1条と財産・請求権に関する第2条とによる二本立ての構成なのです。その理由は、同協定をめぐる交渉において、李相伴政権時に韓国側が「植民地支配」を根拠として日本国政府に対して莫大な額の支払いを要求したことによります。この時、日本国政府は韓国側の要求を拒絶したものの、その後、朝鮮戦争をバックとしたアメリカの仲介もあり、結局、多額の経済協力を供与することで妥結します。
つまり、この時、既に日本国政府は、「植民地支配」は認めないものの、アメリカの後押しの下で韓国側に譲歩し、実体的権利を遥かに越えた額を支払っているのです(法的根拠に基づく韓国側の請求額は最大限に見積もっても7000万ドルであったが、経済協力の名目で5億ドルが供与された…)。こうした経緯を踏まえますと、今般の韓国最高裁判所の判決は日本国側に二重払いを要求しているに等しく、今後、この問題が国際司法の法廷で争われることとなれば、両国間の交渉過程や合意事項は議事録等にも記録されていますので、韓国側の主張は否定されることになりましょう。(つづく)
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