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2018-12-02 23:01
(連載1)プーチン大統領の北方領土戦利品論の不正義
倉西 雅子
政治学者
東方経済フォーラムにおける首脳会議の席で、突如、日本国との条件なしでの平和条約締結を言い出したロシアのプーチン大統領。この時、日本国の安倍晋三首相は、一旦は同提案を拒絶しましたが、今に至り、56年の日ソ共同宣言を基礎として対ロ交渉を加速させる動きを見せています。北方領土問題については、かねてよりプーチン政権は、北方領土は第二次世界大戦において獲得した‘戦利品’とする持論をロシア政府の公式見解としています。この見解、レーニンが不拡大主義を唱えたこともあって、‘戦利品’と言い切るまでには至らなかったソ連邦時代と比較しても過激であり、いわば、‘開き直り’宣言とも受け止められます。しかしながら、この主張、法のみならず、歴史的な事実に鑑みても不当としか言いようがないのです。
ロシア側は、戦利品論の正当性を主張するために、第二次世界大戦において自国が払った犠牲の甚大さをしばしば強調しています。‘ロシア人の血は北方領土を以って贖われたと…’。しかしながら、ソ連参戦に至る歴史の経緯を顧みれば、ソ連邦は、日本国との戦闘においては殆ど人的、並びに、物的な被害や損害を受けていません。戦時にあって、極東に位置する日本国は、ドイツ、並びに、イタリアとの三国同盟の下で軍事同盟関係にはありましたが、ヨーロッパにおいて隣接する独伊のように共同で軍事作戦を採ることはありませんでした。
しかも、戦時期は日ソ中立条約の有効期間にあり、日本国は、同条約を遵守しソ連邦との国境地帯は僅かな兵力しか置いていません。ソ連邦が闘った主敵はあくまでもドイツであって、日本国に対するソ連邦の戦いとは、日本国の敗戦を見越した一方的な侵攻と破壊、そして、民間人に対する非道な殺戮なのです。上記のプーチン大統領の言い分は、ドイツに対しては当てはまるかもしれませんが、日本国に対しては、全く通用しないのです(この点、ドイツは、旧同盟国である日本国の北方領土問題についてどのように考えているのでしょうか…)。
ここに、軍事同盟関係に基づいて参戦して勝利した国は、その勝利を以って敗戦国に対する領土割譲の正当な根拠となし得るのか、という問題が提起されます(因みに、大西洋憲章では連合国の原則として不拡大主義が約されている…)。この問題を考えるに当たって、国連憲章の第55条において認められている集団的自衛権は参考になります。軍事同盟を構築する権利は、あくまでも自衛を目的とした権利であり、攻撃や侵略を目的としている場合には許されてはいません。なお、国連憲章の発効日は1945年10月24日ですが、その署名日はソ連邦が対日参戦を宣言した8月8月を一ヶ月以上も遡る6月26日です(もっとも、同憲章における‘敵国条項’は、ソ連邦の対日参戦を念頭に置いていたかもしれない…)。(つづき)
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倉西 雅子 2018-12-03 08:14
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