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2017-10-17 10:25
(連載1)臨界点を迎えようとしている朝鮮半島危機
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
9月19日に国連総会の一般討論演説の場で、「米国自身、もしくは米国の同盟国を守る必要に迫られた場合、北朝鮮を完全に破壊する以外の選択肢はなくなる」とトランプ大統領は金正恩を罵倒した。これに憤激した金正恩は「我々はそれに相応する史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮するであろう」と激しく反駁した。金正恩の声明を受ける形で、まもなく李容浩(リ・ヨンホ)北朝鮮外相は「史上最高の超強硬対応措置」とは「史上最高の水爆実験を太平洋上で実施するというものではないか」と発言したのは周知の通りである。李容浩が示唆した太平洋上での水爆実験は重大な懸念を喚起した。太平洋上で水爆実験を実施すると言うが、そうした実験は技術的に実行可能なのであろうか。李容浩の発言の趣旨はむしろ太平洋方向に向け核弾頭搭載のICBMを発射し、太平洋上で核爆発させることにあるのではないかと推測された。このことは形振り構わず対米ICBMの完成を目指す金正恩指導部が以前から企画してきた太平洋海域に向けたICBM発射実験であることを物語る。
対米ICBMを完成させるためには「ロフテッド軌道」と呼ばれるように、極端な高角度でICBMを打ち上げ日本近海に着水させるというのではなく、通常軌道でICBMを発射し米国本土付近の太平洋海域に撃ち込む必要があることを踏まえると、国連総会での金正恩に対するトランプによる罵倒を逆手によるかのように、李容浩が金正恩の目論む発射実験を示唆したことを意味した。しかも李容浩がほのめかしたのは、核弾頭搭載ICBMを太平洋方面に向け発射させ、太平洋上で核爆発させることにある通り、ICBM発射実験と核実験の両方を一度に断行することを物語ったのである。もしも李の言う実験に成功するようなことがあれば、金正恩が最終目標に据える対米ICBMは事実上、完成すると考えられる。
とは言え、対米ICBMの完成に向けた技術的な課題が解決されたわけではない。7月28日の「火星14」型ICBMの発射実験において潜在的な射程距離が一万キロ・メートルに及んだと推定されたとは言え、通常軌道での飛翔で太平洋方面に同等な飛距離を確保できるかどうか。またICBMの上部に搭載できるほどに核弾頭を小型化する技術を確立しているのか相変わらず不確実である。さらに核弾頭が大気圏に再突入する際に発生する猛烈な高熱と振動から弾頭を保護するだけでなく、確実に起爆させるという技術が確立されたかどうかについては一層の疑問が残る。こうしたことから、李容浩がほのめかしたのはむしろ金正恩が目指す最終段階の実験のことであり、同実験が直近に迫ったことを意味するわけではないであろう。上記の技術的な課題を解決するために幾つもの実験が繰り返し行われることが予想される。いずれにせよ、もし核弾頭搭載ICBMを発射し、太平洋上で核爆発させるようなことがあれば、米国に対する核ミサイル攻撃に向けたリハーサルとしかトランプの目には映らないであろう。そうした事実上の核ミサイル攻撃と思われる戦争行為をトランプが許容する余地は全くない。
発射実験の可能性を殊の外重大視したトランプはICBM発射実験を断固阻止すべく姿勢を硬化させている。八月のグアム包囲射撃計画を巡る米朝の恫喝の応酬においてマティス国防長官は米領グアム島に向けてミサイルが飛来することがあれば、ミサイルを迎撃すると明言した。これに対し、核弾頭搭載ICBMの発射実験の可能性に危機感を露にしたトランプはミサイル迎撃で対処するというよりも、発射準備態勢にあるICBMの破壊を目指すことを示唆している。すなわち、ICBMの発射の兆候を事前に掴み、ミサイルに核弾頭が実際に搭載されていると判断されれば、空爆により直ちにICBMを破壊する作戦行動にトランプは打って出るのではないかという推測が広がっている。そうした先制攻撃は米国内で賛否両論を呼んでいる。これは未だかつてないほどの一触即発の非常事態を招来させかねない。もしも金正恩が核弾頭搭載ICBMの発射実験に向けて動き出し、これに対し発射実験を断固阻止すべく先制攻撃にトランプが打って出ることがあれば、これまで米朝間で繰り広げられてきた激しい言葉の戦争は一気に現実の戦争に変貌しかねないからである。(つづく)
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