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2012-07-16 07:20

(連載)アジアにおけるヨーロッパの役割(3)

河村 洋  外交評論家
 フランスもアジアで目立った動きをしている。福島原発危機からほどなく、フランスは日本を救済するために原子炉の専門家を派遣した。インドへの武器輸出では、ダッソー社のラファール戦闘機がF35とタイフーンを押しのけてしまった。フランスのアジアに対するアプローチは理念よりもリアリズムに基づいている。これはフランスにはイギリスのような自由帝国主義の伝統がないことも一因であろうし、ディエン・ビエン・フーの戦いで屈辱的な敗北を喫してベトナムから撤退したことも一因かも知れない。

 ドイツの場合は事情が異なる。この国は世界第2位の貿易輸出国でありながら、二度の世界大戦での敗戦のトラウマによって大国として行動することを躊躇うようになっている。三大国の中では最もポスト・モダンなドイツは自らをヨーロッパ連合と一体化する傾向が強まっている。しかしドイツはEUを基盤とした共通の外交政策でリーダーシップをとることには及び腰である。ドイツは他の大国との政治的なバードン・シェアリングよりも通商重視の外交を好む。よってドイツが「遠く離れた」アジアで大きな影響力を発揮することを望んでいるとは考えにくい。

 それぞれの主権国家はアジアに対してその国ならではの国益を持っている。非常に重要なことに、ほとんどの専門家が「太平洋の時代がアジアによる世界支配を意味せず、域外の国々にも経済成長の機会をより多くもらす」という見解で一致している。そうした専門家達は、ヨーロッパはアジアの勃興と西欧の衰退を恐れる必要はないと言う。ヨーロッパはアジアで第一級のアクターにはならないかも知れないが、ブリュッセルのシンクタンクFRIDEのダニエル・コヘイン所長は「マラッカの支配者はベネチアの喉元を押さえる」という古い格言を引用している。

 緊密な欧亜関係は域外の他のアクターにも波及効果をもたらす。そうした例にはBRICSの一角を占める南アフリカが挙げられる。地理的な観点だけでなく歴史、人種、文化の観点からも南アフリカはヨーロッパとアジアを結ぶ位置にある。クリストファー・コロンブスとバスコ・ダ・ガマの子孫達がアメリカによる悪意なき無関心と西欧の衰退を恐れることは有益とは言えない。ヨーロッパはアメリカと日本と共に行動し、アジアン・ドリームを追求すべきである。(おわり)
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