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2011-01-20 07:19
日本人の葛藤:「義理と人情」から「真理と共感」へ
四条 秀雄
不動産業
表題の「真理と共感」というのは、伝統的な「義理と人情」に置き換わる、日本人の新しい葛藤の形だと、私が考えるものです。私は、長い間自分の母語である日本語について考えてきたのですが、「義理と人情」というのは、まさに「漢字」と「てにをは」という日本語の二大特徴を反映したものだと思います。義理というのは漢字の伝統的な世界観です。漢字は数千のイメージで成り立っていますが、中国人はそれらを体系づける論理構築と格闘してきました。最終的には統治に都合の良い体系化である儒教が勝利を収めたのですが、これが「義理」の指し示すものだと思います。「人情」は、少し説明が必要だと思います。「てにをは」の世界は余りにも身近かで、直感的で、身体的であるので、言葉・テキストとして日本人が自覚して切り出すのは難しいからです。それを分かり易く説明するための私のモデルは、「プラネタリウムのような言語」というものです。「てにをは」はプラネタリウムの中心である投影機の光にあたります。そして星座は「漢字」が支配しています。また、英語との対比において重要なことは、観客がいるということです。
日本語というのは「主体が無い」というか、「プライバシーの無い」言語であり、観客が「我々は同じものを見て、感じている」と感じていること、これが「人情」の本質だと思います。「プライバシーの無い」言語であるがゆえに、公の場では大勢の観客が不快感を抱かないように、怒りや苦しみや否定的な言葉や表現が禁忌されています。俳句や日本家屋の構造もプラネタリウムの構造と同じものだと思います。
伝統的な日本においては、この「義理」と「人情」が、儒教の視点である立場の違いと日本語の特徴である視点の共有とを両立させようと、葛藤を起こしていたわけです。しかし現代の日本においては、儒教的な世界観である「義理」の論理は、もはや「漢字」を支配する論理ではありません。明治維新以降の大翻訳時代に西洋の論理で「漢字」の配列を書き換えしてしまったからです。しかし、それは力まかせの翻訳であったために、同じ単語が学問分野ごとに違う訳語を当てられるなど、混乱を極めたものでした。特に哲学は、西洋の論理体系そのものを対象としたものだったために、混乱と難解を極めたものとなりました。このときに、それまでの儒教に代わって日本の「漢字」を支配し始めたのが、西洋の論理、すなわち「真理」です。
「真理」の解釈は様々ありますが、「真理」とは「時を超えて再現が安定している内容を持つテキスト・言葉」であると私は考えます。哲学とは、真理を導くためのテキスト処理の技術開発を分野とする学問といえるでしょう。明治維新以降は「真理」が「義理」にとって代わり始めたのです。「漢字」という星座の解釈を「真理」が支配するようになって、日本は、圧倒的にスムーズな、効率的な、安定した社会になりました。「真理」とは、再現性が安定していることですから、当然だと言えます。しかし「何かが足りない」「失われた」と多くの日本人は感じています。これは何故でしょうか?私は、これが、新しい見えない葛藤の正体である「共感の消失」のためだと考えています。日本語をプラネタリウムのような言語だとした比喩で言うと、「観客が私しか居ない状態」だということです。西洋の文明に傾倒してしまった知識人が「主体性を持て」とか、「自立せよ」とか、「一人で考えろ」とかと囃し立てたことにも、ある程度の原因があります。しかし、本質的には「真理」そのものが葛藤の原因を作り出しているのではないか、と私は考えています。
もう一度言いますと、真理とは「時を超えて再現が安定している内容を持つテキスト・言葉」です。問題は、「時を超えて」、「永遠」ということにあります。人間がこれに従うと、社会が崩壊してしまうのです。何故かと言うと、人間は限られた時間だけを生きられる存在であり、その限られた時間を繋ぐために、社会や文化が存在しているからです。これを生理的、感情的に繋いでいるのが「共感」ではないでしょうか?私は、以前「子供の成長は親に幸福を与える」と書きましたが、これも「共感」の作用だと思います。今日の政治的リーダーシップの欠如も、戦前日本が持っていた旧制高校のようなエリートの共同生活期間が失われたことが原因ではないか、と考えてもいます。「真理」も「共感」も再現の安定性を目的としますが、ただ時間の一点においては異なっています。例えば子育ては、「真理」に従えばマニュアル化するでしょう。「共感」に従えば三世代家族が核になるでしょう。日本人はどちらを選択するのでしょうか?あるいは、どのように両立させていくのでしょうか?
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