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2026-03-21 19:12
トランプ大統領に踊らされている日本
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
高市首相が訪米した。SNSを見ると、国際政治学者の方々が言葉を尽くして高市首相を激賞している。テレビなどでも、学者や評論家が「素晴らしい成果だ」と最大限の賛辞を送っているという。選挙の前にも、こうした現象が見られた。しかし、現実の評価を度外視し、パフォーマンスのレベルで外交の成否を論じることには大きなリスクがある、と私は感じる。高市首相の訪米が成功だった理由は、「ホルムズ海峡に自衛隊を送れ」とトランプ大統領に怒鳴られるかと思ったが、怒られなかったからだ、という。自衛隊を送らないのに怒られなかったのだから、すごい成果だ、というわけである。
しかし、少し立ち止まって考えてみてほしい。現在、ホルムズ海峡に軍艦を送っている国は一つもない。送ると言っている国すらない。アメリカ自身ですら行っていない。イランの攻撃能力を考えれば、軍艦を送った程度でタンカーを守れるわけではない。そのような作戦は実施が極めて困難であるため、実際には誰も行っていないのである。しかもイランは、「イスラエル・アメリカ・その同盟国」の国籍の船舶の通行を認めないとしつつ、その他の国籍の船舶の通行は認めている。そのため、中国、インド、トルコ(NATO加盟国ではあるが)などの国籍の船舶がホルムズ海峡を通過していることが確認されている。もし現在、軍事行動を前提としてホルムズ海峡に軍艦を送り、イランとの交戦状態をこの海域に作り出せば、こうした非米国同盟国の船舶の通行まで妨げてしまうことになる。結果として、かえって海峡の交通量を減らしてしまう可能性が高い。
こうした客観的事情を無視して、「自衛隊をホルムズ海峡に送らないのにトランプ大統領に怒られなかったのはすごい」と評価するのは、トランプ大統領の恫喝型の「ディール」の術中にはまった見方だと言わざるを得ない。実行が困難な要求を、まず弱い立場の相手に強い口調で突きつける。そしてそれを取り下げ、あたかも譲歩したかのように振る舞う。これは、たとえば強盗が「100万円出せ」と言った後で、「まあ1万円で許してやってもいい」と言ってくれたので、ありがたく1万円を差し出す、というような話である。他の国々は、このような見え透いたディールの枠組みには簡単には乗らない。しかし日本では、トランプ大統領が恫喝的な要求を取り下げてくれたという理由で、むしろ安堵してしまった。そしてアラスカの原油の共同開発・備蓄や先行投資など、アメリカへの資金投入の話を大きく約束してきた。
もちろん日米同盟は重要である。しかし同時に、アメリカだけを見ていればすべてがうまくいく、という時代ではないこともまた明らかである。アメリカは国力を低下させるなかで、焦りから自ら管理できない戦争にのめり込み始めている。一方、日本もまた国力を低下させている。その焦りの中で、日本はアメリカ一辺倒の、視野の狭い外交の隘路に入り込みつつあるように見える。日本は第二次世界大戦後、長くアメリカに従属してきたとも言われる。しかし、ここまで疑問なく「アメリカ一辺倒の外交で全てうまくいく」と政治家、官僚、学者、評論家、ジャーナリストが思い込んでいる時代が、果たして過去にあっただろうか。私は、日本がこのような姿勢のままでこれからの時代を乗り切っていけるのだろうか、という疑問を強く抱いている。
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