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2022-08-05 15:28
ウクライナ戦争によって再認させられるトルコの重要性
古村 治彦
愛知大学国際問題研究所客員研究員
ロシアによるウクライナ戦争によって存在感を高めているのがトルコである。トルコはEU(ヨーロッパ連合)の加盟候補国であり、NATO(北大西洋条約機構)の加盟国である。トルコは長年にわたりEUの加盟候補国の地位にとどめられている。ヨーロッパとトルコは一部友好的な、そしてところどころぎくしゃくした関係となっている。トルコはヨーロッパと中東をつなぐ位置にあり、重要な国家である。地図を見てみればわかる通り、地中海と黒海をつなぐダーダネルス海峡とボスポラス海峡を抑えている。トルコの許可がなければこの2つの海峡を通って黒海に入ることはできない。今回のウクライナ戦争でトルコの重要性が再認識されることになった。
アメリカとトルコの関係はぎくしゃくしていた。トルコにおける人権弾圧やクルド人問題、民主政治体制の後退などは、欧米諸国の批判の対象となった。レジェップ・エルドアン大統領については、アメリカ国内で多くの批判的な評価がなされた。また、トルコはロシアとの関係の深化も対米外交と同時並行的に行っており、それがアメリカを苛立たせていた。例えば、トルコはロシアから武器システムを導入しているが、これまで米国製の兵器体系も受け入れてきたこともあり、アメリカを刺激している。ジョー・バイデン大統領時代になってトルコとの関係がぎくしゃくしたようにみえるが、これはアメリカだけのことではなく、西側諸国全体でそうであった。
しかし、ウクライナ戦争が勃発し、小アジアともいわれる重要地域に位置するトルコの存在は重要性を増した。前述したように、黒海の入り口をトルコが抑えており門番のような存在である。ウクライナ南部は黒海に面しており、ウクライナの物流、海運に取って黒海は死活的に重要で、ロシア黒海艦隊が黒海を抑えていることが、ウクライナの物流の大きな支障となっている。ウクライナの貿易が滞った際に、ウクライナ産穀物の海上輸送の再開にあたってはトルコがウクライナとロシアの交渉において重要な役割を果たし存在感を示した。このようにトルコは対ロシア制裁にも積極的に参加していない。こうした存在であるトルコが黒海の入り口を抑えているというのは、西側諸国にとってなんとも厄介なことである。
アメリカにしてみれば、トルコ国内の人権状況や民主政治体制の後退よりも今は機嫌を取って、西側に引き付けておかねばならないということになる。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟において、トルコが有利な条件を西側に受け入れさせることができるのはその存在の重要性のためである。
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