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2007-05-31 19:49
東アジア共同体構想は中国を利するだけか
村上正泰
日本国際フォーラム所長代行研究主幹
先月発売された森本敏氏と岡本行夫氏の対談集『日米同盟の危機-日本は孤立を回避できるか』を大変興味深く読んだ。岐路に立つ日米同盟が直面している問題点を鋭く指摘しておられ、同感する部分もかなり多い。しかしながら、その中でひとつだけ違和感を持ったのは、東アジア共同体構想について「中国を利するだけ」という点で両氏が一致している点である。
両氏の念頭には中国の台頭という東アジアの国際環境の変化に対する警戒感があり、伝統的なリアリズムの勢力均衡論の発想に立てば、こうした懸念が出てくるのも分らなくはない。しかしながら、現下の地域統合のうねりを単に中国の台頭にのみ結びつけ、「中国を利するだけ」だといって腰の引けた態度を取ることが適切であろうか。本掲示板の昨年12月18日付の投稿において指摘したように、「我が国が中途半端な態度でいることがアジアの失望を生み、逆に中国のイニシアティブを許している」という側面があることも無視すべきではない。「共同体」がいかなる形のものになるかは別として、それを目指して努力していこうとアジアが協力しているときに、中国の地域覇権ということばかりを問題にして、その輪の中で積極的な役割を果たそうとしなければ、かえって日本はアジアの中で孤立してしまうのではないだろうか。岡本氏は別の文脈の中で「アジアの中に日本の友達がいないと、アメリカにとっての日本の価値が低下してしまう」と述べておられるけれども、そうであれば、アジアでの孤立はむしろ日米関係にも否定的な影響を及ぼしかねない。
もちろん「共同体」といっても東アジアにおいてEUのようなものが今すぐにできると考えているひとはほとんどいないであろうし、その具体的あり方については論者によってさまざまなイメージの違いがある。にもかかわらず、一方的な決めつけのもとで議論を展開することは決して有益とはいえない。私自身は、当面の展開については、森本氏も述べておられるように「せいぜいアジア・太平洋における多国間協力の域にとどまる」という見方に賛成である。また、「アメリカの入らないアジアの枠組みは何であれ成功しない」という点についても、そこまで言い切れるかどうか疑問は残るが、米国の関与の仕方について特別な工夫が必要であり、それがひとつの大きな論点であることには間違いない。そうであればこそ、我が国として望ましいと考える地域協力のあり方を具体的に主張していく必要があろう。それなくして、「中国を利するだけ」と言って切って捨てることが我が国のとるべき道だとは思われない。
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