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2007-02-26 06:57
社会保障分野における地域協力の可能性
村上正泰
日本国際フォーラム研究主幹
アジアにおける地域協力がさまざまな分野で具体的に進展している中で、これまであまり注目されてこなかった分野として社会保障が挙げられる。日本国内に目を転じると、年金、医療といった社会保障制度のあり方は選挙の度に大きな争点となるなど、大変な注目を集めてきている。こうした状況は、他の欧米諸国でも同様である。というのも、社会保障制度は国民生活にとってなくてはならない基盤だからである。したがって、アジア諸国にとっても社会保障制度の整備は、経済社会システムの安定にとって不可欠な課題だと言える。
しかしながら、開発途上国においては、なかなか先進国並みの社会保障制度を構築することが難しいのも事実である。そこで、これらの国々においてどのようにして社会保障制度を整備していくかが課題となる訳であるが、そこに我が国によるノウハウ面を中心とした協力の可能性があるのではないだろうか。何故なら、我が国の年金制度及び医療保険制度の起源は戦前に遡るが、戦後の高度成長の過程で国民皆年金・国民皆保険を実現し、経済発展の中での社会的安定につなげることができたからである。とりわけ、国民年金・国民健康保険のような地域単位の仕組みは、開発途上国が農村等における制度整備を進めるに当たって参考になるであろう。
一昨日(2月24日)、当評議会有識者議員の進藤榮一筑波大学名誉教授が代表を務めておられる国際アジア共同体学会が、桜美林大学北東アジア総合研究所、島根県立大学北東アジア地域研究センターと共催したシンポジウムに出席したが、北京外国語大学の丁紅衛副教授が中国の格差問題について報告し、日本の経験も踏まえながら「今後中国における社会保障関連法律の完備および保障の充実が、格差を縮小させるための手段として期待され、喫緊な政策課題である」と述べていたが、同感である。実際、私は昨年夏までの2年間、厚生労働省において医療保険行政を担当していたが、我が国の医療保険制度を研究しようとする中国当局(地方政府を含む)の相次ぐ訪問を受けた。そうした経験の中で、社会保障制度を学ぼうとする熱意とニーズの高さを実感したことがある。
もちろん、我が国の社会保障制度も完璧ではない。少子高齢化に伴って制度の持続可能性が問われるとともに、財政的制約の中で効率化が不可欠となってきており、数多くの問題を抱えている。したがって、冒頭に述べたように、依然として社会保障問題は国内的な重要課題なのである。アジアの中でも韓国などは、社会保障制度がかなり整備されているが、他方で我が国と同様に改革の必要性に直面している。このように考えると、同じ地域協力と言っても、我が国の経験を伝えるものから、共通の課題に対してともに知恵を絞り合うようなものまで、さまざまな可能性があるであろう。いずれにしても、社会保障という分野でも地域協力を進めていく意義は高いように思われる。
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