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2017-01-31 10:52

トルコはアジアかヨーロッパか

川上 高司  拓殖大学教授
 2016年11月、トルコのエルドガン大統領はウズベキスタンからの帰国途上、「トルコは何が何でもEUというわけでは・・・SCO(上海協力機構)もあるし」 と記者団に漏らした。 この意味深な発言はこの先の大きな地殻変動を予言しているかもしれない。トルコは長年ヨーロッパとの関係を重視し、NATOに参加しEUにも加入しようと努力してきた。もっともEUには拒否されたが。そのトルコがどうやらアジアに目を向けるようになってきたのだ。

 上海協力機構とは、中国、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジクスタンの5カ国が発足させたユーラシアの経済協力機構である。現在はウズベキスタンが加入し、オブザーバーとしてモンゴル、イラン、ベラルーシ、アフガニスタン、インド、パキスタンが参加、2012年からはトルコが会議参加国となっている。いわばユーラシアを網羅する広汎な国際機構である。このSCOにトルコが正式加盟すれば、ヨーロッパからユーラシアにかけての地殻変動が起きる。

 トルコはEU加盟を実現するべく、国の民主化を進めイスラム色を薄めて世俗主義を採るなどの努力をしてきた。しかしそれが拒否されると次第にエルドガン大統領はイスラム色を強め独裁色を押し出すようになってきた。さらにヨーロッパの反イスラム傾向、反移民、反シリア難民などのナショナリズムの台頭で関係が悪化、トルコにとってヨーロッパの魅力は薄れてきたといえる。そこへロシアが外交攻勢を強め、関係の改善を進めた。シリア問題で対立しつつも爆撃機が撃墜されても、大使が殺害されても外交を荒立てず穏便にすませる一方、パイプラインやエネルギー問題で圧力をかけてトルコを取り込んでいった。

 ロシアの狙いはトルコをNATOから引きはがして安全保障上の不安を取り除き、パイプラインのハブとして自由に活用できるようにしイスラムテロとも共闘していくことにある。トルコはシリア問題でもロシアと妥協しアサド大統領の存続を認めるかもしれない。そうなればシリア内戦は一気に解決に向かう。ヨーロッパにとってはトルコのNATO離脱はイギリスのEU離脱よりも衝撃が大きいだろう。いままさに古代からのテーマ、トルコはアジアなのかヨーロッパなのか、というオセロゲームが始まろうとしている。
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