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2016-07-02 12:50
アメリカ大統領選が教える民主的選挙制度の問題点
倉西 雅子
政治学者
民主的制度として普通選挙の最大の利点とは、国民によって、政治的能力に長けた優秀な人物を政治家に選出できるところにあります。世襲や権力闘争では、必ずしも国民の意向や利益に適った人物が政治家になるわけではありませんので、民主的選挙制度は大半の諸国で導入され、政権の正当性を支えています。ところが、最近、民主的制度における欠陥が目立つようになりました。今般のアメリカの大統領選挙を観察しておりますと、民主的選挙制度の問題点として指摘されてきた諸点が、あらゆる側面で顕在化しているように思えます。
第1に、有権者の選択の基準は、必ずしも候補者の「政治的優秀さ」ではなく、現状の不満解消への期待が投票基準となる。不満解消という集票の原動力を維持するために、しばしば過激な政策や非現実的な政策も公約として主張される。第2に、政党内部において、党内力学が働き、国民が望むような適切な候補者を擁立できない。第3に、多額の選挙資金を要するため、元からの富裕者か資金集めの能力に秀でた人物しか候補者になれない。選挙資金集めは、しばしば、隠れた外国からの支援を意味してしまう。第4に、知名度が重視され、マスメディアにおける登場回数の頻度が候補者選定の決定要因となる。何時の間にか、マスコミが、「キング・メーカー」となりかねない。第5に、特に二大政党制では、両政党とも適切な候補者を擁立できない場合、どちらを選んでも、最悪の事態を招きかねない。いわば、国民は、チェック・メートされた状態となり、「悪いうちでより悪くない方」を選ぶしかなくなる。
先に行われたロンドン市長選挙では、史上初めて、労働党の候補者であったイスラム教徒の市長が誕生しましたが、相手の保守党の候補者は、ユダヤ系富裕層に属するゴールドスミス氏であり、この選挙でも、全てではないにせよ、上記の諸問題が表面化しています。
こうした問題は、アメリカ大統領選挙のみならず、全ての民主主義国家に共通する問題となりつつあります。もちろん、日本国も例外ではありません。民主的選挙制度の利点を生かし、より良き政治を実現すべく、今後、各国とも、民主的選挙制度に内在する問題の是正に向けた取り組みを開始する必要があるのではないかと思うのです。
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