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2011-03-11 10:28
エジプト政変が中国に及ぼす影響
岡崎研究所
シンクタンク
『ファイナンシャル・タイムズ』紙の2月12日付で、中国出身で米 Claremont McKenna College 教授の Minxin Pei が、エジプト情勢に関連して「中国も民主化を急がねばならない」と言っています。すなわち「最近のエジプト情勢は中国指導部を驚愕させており、当局は厳しい報道管制をしいている。エジプトと違い、中国は経済的に繁栄しているが、成長に伴う様々な問題は山積しており、繁栄の持続は決して保証されていない。しかも、中国社会もエジプト社会のように、抑圧、腐敗、不正、格差がひどい。従って、経済が悪くなれば、エジプトと同様のことが起こりかねない。それを防ぐには、テクノクラートによる政策的解決策だけではだめで、国民の政治参加を許し、中国共産党に説明責任を持たせ、新たな正統性の基盤を創るような政治改革も行う必要がある」と言っています。
在米の中国人知識人はよく「中国の民主化」を唱えますが、オバマ政権はイラクやアフガン、そして経済回復に集中しており、中国に民主化を声高に迫ることにはならないと思われます。一方、エジプト政変は、中国のみならず、ロシア、コーカサス諸国、中央アジア諸国にも広がって不思議はないのですが、今のところその動きがないのは、ロシアでは市民の間に90年代の大混乱の記憶があり、また、中央アジア諸国では知識層は既得権益層と同一で、エジプト情勢はむしろ恐怖の対象であり、大衆は権利意識を持っていないからでしょう。そうした中で、中国はまさにその経済成長とそれがもたらした歪みの故に、エジプト情勢の波及を最も恐れなければならない国かもしれません。
これまで中国の知識層、学生は「社会の民主化よりも、自分が豊かになること」、「民主化すると『貧民たちが騒ぎ出して』混乱するから反対」という立場でした。ところが、経済成長に伴って大学生数が大幅に増えたあおりで、現在年間600万人の新卒者の2割は就職できない、また就職できても、多くは結婚できる財力を持てず、大都市郊外の住宅を集団で借りて住む――「蟻族」と呼ばれる――という現象が起きています。つまり、中国の経済発展は、主流から外れた知識層を多数生みだしたのであり、これは例えば中央アジアなどと比べると大きな違いです。
従って、エジプト情勢がなくとも、中国は当面、難しい舵取りを強いられているわけです。数字上は目覚ましい経済成長も、半分近くは、地方の役人が農地を「再開発」し、これまで価格ゼロだった土地の権利を大金で売って、「成長」を演出し、自分の昇進の手段にしたことによるものでしょう。米国経済が未だ回復しない中、中国は経済刺激とインフレ対策のジレンマに悩んでおり、「中流から落ちた層」の不満はますます高まると思われます。こうした中で中国政府が行うのは、綱渡り的経済政策の継続と、管理された徐々の民主化、腐敗に対する見せしめ的取締といったところでしょう。その管理が「締付け」や「弾圧」と見られ、同時多発的な騒動が起きると、中国も大きく不安定化しかねません。
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