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2011-02-23 09:55
対中武器禁輸解除を模索するEUの動き
岡崎研究所
シンクタンク
『Asia Times』紙1月10日付で、Trefor Moss 元『Jane's Defense Weekly』誌編集委員が、「EUの一部に対中兵器禁輸を解除しようという動きがあるが、これは実現しないだろうし、解除すべきではない」と論じています。すなわち、「1989年の天安門事件を契機に始まったEUの対中兵器禁輸の解除を求める声が、EUの一部から出てきた。例えば、昨年末、アシュトン「EU外相」はEU諸国首脳への報告書の中で『禁輸は対中関係における大きな障害となっており、対中戦略を検討する中で今後見直されるべきだ』と言っている、しかしEUの「兵器輸出についての行動基準」(強制力はない)は、輸出された兵器がその国の(1)国内弾圧、(2)領土要求、(3)EUの加盟国、友好国、同盟国に対して使われないことを掲げており、中国はこうした基準を満たしていない。他方、工作機械等の輸出は自由であり、中国はこれを軍事生産にも使えるので、兵器禁輸はシンボリックな意味しかないかもしれないが、姿勢を示すことは重要だ」と言っている。
論説は、さらに「中国は、スペイン国債の購入等でEUに対するバーゲニング・ポジションを強めてはいるが、欧州経済の安定は中国にとっても必要なので、禁輸を解除しなければ国債は買わないという事態にはならない。従って、対中兵器禁輸は続くだろう」とも言っています。論説は名指ししていませんが、禁輸解除の動きはおそらくフランスあたりから出ていると思われます。サルコジ政権は昨年12月に大型揚陸艦「ミストラル級」の輸出についてロシアとの成約にこぎつけており、今度は対中輸出に目を向けてきた可能性があります。
他方、日本は一貫して、EUが対中兵器禁輸を解除しないよう呼びかけてきました。このまま事態が進めば、日本は、ロシアからはEU製の揚陸艦によって、中国からはEU製の戦闘機・ミサイルによって圧迫されることになりかねません。日本はIMFや欧州復興開発銀行などへの多額の拠出等を通じて欧州諸国(ギリシャ等)や欧州周辺諸国(ウクライナ等)の経済安定を支えており、その貢献度は中国をはるかに上回ります。そうした日本の安全保障を脅かすようなことは避けるよう、今後も強く(しかし内々に)EUに申し入れていくべきでしょう。
民主主義・市場経済諸国が大きな戦略を欠き、調整も不十分であることから、今世界では奇妙な現象が生じています。それは米国が核軍縮やイラク・アフガン後の軍事予算削減を進め、西欧諸国も冷戦終了と財政赤字削減の必要から総じて軍縮に向かっている中で、中国は軍事予算・軍備の拡充を図り、最近ではロシアもこの流れに加わってきています。従って、日米欧で安全保障面での世界情勢認識をすり合わせ、対処ぶりを話し合う機会を設けて行くべきでしょう。また、中国の兵器生産技術が急速に進んだのは、西側の工作機械を自由に購入できたことが大きいと思われるので、民需用に輸出した西側の工作機械が軍用に転用されるのをできるだけ妨げる方策を、日米欧の間で強化するべきだと思われます。
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