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2009-04-03 05:44

中国の軍事力増強への米国の警戒心は冷厳

石垣 泰司  アジアアフリカ法律諮問委員会委員
 3月末,2年振りに米国へ出かけ、ワシントンで開催された米国際法学会に出席してきた。オバマ政権は、対外政策をブッシュ政権時代から大きく転換しつつあり、同会議でも国務省法律顧問部関係者は、「オバマ大統領が就任直後に発出したグアンタナモ収容施設の1年以内の閉鎖大統領令に基づき、今後のテロとの戦いにおける容疑者の身柄拘束や取り調べ手法の国際法上の整合性の見直し問題に忙殺されている。さらに将来これまで米国が不参加方針を堅持してきた国際刑事裁判所への態度の再検討もありうる」旨示唆するところがあった。イランに対しても、オバマ政権は、ブッシュ政権とは正反対のアプローチをとりつつある。米国のイランとの2国間関係は、イラン政府が過激な学生等によるテヘランの米国大使館の長期占拠を容認した事件などがしこりとなって、今日なお外交断絶の状況下にあり、ブッシュ権は長い間イランを「悪の枢軸」国の一つとして、中東、世界の諸悪の根源として敵視してきたのに対し、オバマ大統領は、最近自ら直接イラン政府・国民に対し極めて友好的に呼びかける内容のビデオ・メッセージを送るとともに、米国大使がイラン政府代表と直接的接触を試み始めた。

 他方、米国の対中関係については、我が国では、ともすれば米国が日本の頭越しに中国指導部への直接接近の動きを強めるのではないかとの警戒心が強いが、さる3月25日米国防省が議会に対して提出した『中国の軍事力』2009年版は、米国国防当局の冷静にして厳しいは見方を示しており、興味深い。たしかに、同報告書は、一方において、「米国は、安定し、平和的で、繁栄する中国の台頭を歓迎し、中国が国際システムの安定、強固さ、成長のためにより多くの負担を担い、世界の事柄に責任ある形で参加することを奨励する。米国は過去30年間中国の国家発展と国際システムへの中国の統合を奨励し、容易にするために多くのことをなしてきた」と、いわゆる「中国の平和的台頭」自体については、肯定的な評価をあたえている。

 しかし、他方において、最近における中国の軍事力の動向については、「中国の将来の路線、特にその拡大する軍事力がどのように使われるのかに関して、多くの不確実性がある。人民解放軍は、その領土での長期的な消耗戦のための人員の多い軍から、その周辺においてハイテクの敵に対し短期的、高強度紛争を戦い、勝つことのできる軍への包括的な再編を追求している。中国の遠隔地で軍事力を維持する能力はまだ制限的であるが、核、宇宙、サイバー戦争のためのものを含む破壊的な軍事技術を開発・展開し、それは地域的な軍事バランスを変えつつあり、アジア・太平洋地域を越えて意味をもっている」と述べて、その警戒心を強める分析を行なっている。 
  
 また、台湾問題に関連しても、「短期的には、中国の軍は、台湾の法的な独立の追求を抑止する目的で強制的能力を急速に発展させている。これは、紛争の際に台湾への米国のありうる支持を抑止し、遅らせ、否定するためと同時に、将来において台湾に北京の条件による両岸関係の解決を押しつける圧力をかけることに使われうる」、「中国は不完全な防衛支出の数字を公表し、その宣言された政策に合致しないと思われる行動に従事し続けている。中国の軍事・安全保障問題での限定された透明性は、不確実性を作り出し、誤解や誤算の可能性を増やすことで、安定性への危険をもたらしている」とし、「米国は引き続き地域の同盟国や友好国とともにこれらの発展を監視するために作業し、事情に即して我々の政策を調整する」と述べて、警戒を怠っていないことが注目される。
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