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2009-03-16 14:16

WBCが教えるアジア新時代の到来

大江 志伸  江戸川大学教授・読売新聞論説委員会特約嘱託
 第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が異常な盛り上がりを見せている。東京が舞台となった一次ラウンドの日韓戦、日中戦は軒並み高視聴率をマークした。スタンドを埋めるのに汲々としていた2006年の第1回とは様変わりだ。今回の盛り上がりを因数分解すると、日本の連覇を期待する「ジャパン・アズ・ナンバーワン心理」と、日本のプライドを容赦なく打ち砕く「コリア・ショック」との相乗効果という図式が見えてくる。優越感と困惑の混在という図式は、中国の台頭や韓国の追い上げに戸惑う日本のアジア認識の揺れと重なるものだ。その足跡を、韓国を中心に追ってみよう。

 韓国野球は長らく日本の亜流とされてきた。韓国野球の源流は日本の植民地時代に遡る。1982年創設の韓国プロ野球草創期は、張明夫(日本名:福士明夫)ら多くの在日韓国人選手が韓国に渡り、主力選手や指導者として活躍した。「韓国は格下」という日本人の固定観念を最初に揺るがしたのが、2000年シドニー五輪だ。結果は韓国の3戦全勝だった。ただ、日本代表はプロ・アマ混成だったうえ、次のアテネ五輪アジア予選では韓国を下したこともあり、日本の「格上」意識はなお続いた。06年WBC一次リーグ直前の「相手が『向こう30年は日本に手が出せないな』という感じで勝ちたい」というイチロー発言は、「アジア・ナンバーワン心理」を端的に示したものだった。

 ところが、結果的にチャンピオンとなった06年WBCで、日本は「コリア・ショック」に見舞われることになる。日本は一次、二次リーグとも韓国にせり負け、イチローは「野球人生で最も屈辱的な日」と唇をかんだ。韓国が世界一となった北京五輪では一次リーグ、準決勝と韓国に敗れ、銅メダルにすら届かなかった。「韓国は日本戦では実力以上の力を出す」「優勝すれば徴兵免除というインセンティブが大きい」「日本は国際ボールに備えたチーム作りを怠った」などといった日本側の敗因分析は、「実は日本の方が強い」という潜在意識を前提にした「言い訳解説」が主流だ。だが、勝負は結果がすべてのはずだ。プロ選手が出場した日韓国際試合の通算成績は、韓国の8勝4敗。韓国は、文句なしに日本より強いのである。

 長年、韓国各紙の運動面に目を通している人なら、韓国の底力を先刻ご承知のはずだ。日本では野茂、イチロー、伊良部、新庄、松井らの大リーグでの活躍がいやというほど報じられるが、投手を中心に大リーガーとなった韓国選手もかなりいる。日本で報道されないだけだ。しかも、韓国プロ野球は草創期から「きょう勝たなければ明日はない、という試合を進めがちで、これに過度に積極的なスピリットが加わる」(関川夏央氏)スタイルで発展してきた。韓国野球は日本の亜流ではなく、「似て非なるもの」なのだ。日本を先頭にしたアジアの雁行型発展は、歴史の一コマとなった。東アジアの野球事情も、中国が外資ならぬ外国人監督・コーチ導入で台湾を破るなど、大きく変わった。日韓中が競い合う結果、アジア勢が世界の頂点を極める。経済や産業と同様、野球にもそんなアジアの新時代が到来することを期待したい。
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