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2008-12-24 16:19

タイ王政の試練が始まった

大江 志伸  江戸川大学教授・読売新聞論説委員会特約嘱託
 タイのアピシット首相(民主党党首)率いる新内閣が12月22日、プミポン国王の前で宣誓式を行い、正式に発足した。有能ながら強権体質のタクシン首相を追放したクーデターから2年3か月、タクシン元首相派主導の政権打倒を叫ぶ反政府勢力が首相府、国際空港の占拠という非常手段に訴えてから4か月を経て、反タクシン派主導の連立政権が誕生したことになる。

 過去3年のタイ政情の混乱は、王室護持つまり「勤王」を錦の御旗に掲げる「守旧派」と、強権的な手法で「王国近代化」を試みたタクシン氏ら「新興勢力」との対立激化が引き起こしたものだ。高級官僚、財界、軍、司法の連合体である「守旧派」は、王室を頂点に都市部中間層も糾合する形で強固な支配体制を維持してきた。その「守旧体制」に正面から挑んだのが、大半が貧しい農村地帯である東北・北部に政治基盤を築いたタクシン氏である。中央政界が重視しなかった貧農救済やインフラ投資などのばら撒き型政治で、国民の過半数を占める農民の心をつかみ、選挙では連勝を重ねた。

 中央政界では、実業界出身の経歴と豊富な資金力を生かし、守旧派の既得権益を突き崩していった。ただ、貧農救済は王室の専売特許だった慈善事業の権威失墜につながりかねず、守旧派からは「王室軽視」との批判を浴びた。今回の民主党主導政権の誕生は、短期的には「守旧派」の勝利を意味するが、タクシン的なるものが一掃されたわけではない。タクシン政権によって一気に表面化した「守旧派」対「新興勢力」、「都市部富裕層」対「農村部貧困層」という階級闘争に似た対決の構図は、一連の政争によってむしろ激化したといえる。

 政情不安のたびにアンカーの重責を担ってきたプミポン国王は12月5日、81歳になった。恒例の誕生日前日の国王演説は、体調不良を理由に行われなかった。「国王は崇敬される地位に置かれ、何人もこれを侵すことができない」と、タイ国憲法が謳うように、世界の現役君主最長の在位62年を誇るプミポン国王の権威に揺らぎはない。しかし、「国王を元首とする民主政体」(タイ憲法2条)のあり方自体が問われる事態は早晩起きる、と見るべきだろう。王位継承期がそのターニングポイントとなる可能性が高い。タイ王政の試練は、始まったばかりなのである。
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