国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2008-10-14 10:21

(連載)ガバナンスは、21世紀最重要の課題(5)

廣野 良吉  成蹊大学名誉教授
 人々のこのような意欲、期待にも拘らず、いずれの社会でも「良いガバナンス」の導入や定着には大きな壁が横たわっているのが、現状である。それらの壁の厚さは、組織毎、国毎、活動分野(人権擁護、メデイア活動、企業経営、環境保全、開発協力等)毎で異なるが、基本的には以下の4つが大きな壁である。

 第一は、組織の構成員、地域住民、国民、国際社会の間で、ガバナンスに関する情報、知識、教育が徹底されていないということである。最近わが国で問題となっている例をあげれば、原産地証明を偽ったり、工業用汚染米を食用米として販売するなどの企業の反社会的行為、住民、子どもの信頼を裏切る地方自治体や教育委員会の反市民的行為がある。これらは、一方で政府の情報開示・公開が未成立か不徹底であるか、他方で独立的メデイアが弱体であり、「悪いガバナンス」の事例が正確かつ十分に報道されず、それに関する人々の認識が不十分であることによる場合が多い。逆に、センセーショナリスムに流れるマスコミも、読者の信頼を失い、結果的にガバナンスについての国民一般の理解の混乱を助長し、その関心を低下させる結果を招く。

 第二は、既得権の存在である。既存の制度の下で利益を得ている人々が、その制度の改革に消極的あるいは積極的に反対であることは、容易に理解できる。改革は通常、中長期的には既得権の縮小ないし廃止、あるいはその方向での不安の増大を意味するからである。国レベルのガバナンスでは、小泉内閣での郵政民営化プログラムへの全国郵便局長の政治団体の反対は、その好例であった。既得権益者の集団が大きければ大きいほど、改革に反対する声が大きいのは当然である。首長の多選禁止条例は、多くの地方自治体議会で採択されたが、この既得権益者はごく少数だったからである。国会議員定数の削減や国会議員の世襲制限となると、現在および将来の既得権益者の反対のみならず、法的観点からの反対も手伝って、その改革は一層困難となる。縦割り行政改革や公務員制度の改革も、国家・地方公務員の雇用制度の包括的改革を無視して、単に「天下り制限・禁止」となると、その影響を受ける公務員の範囲も拡大し、関係する労働組合を含めて、今までも当然大きな反対があったが、今後もそうなるであろう。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会