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2008-09-19 20:17

ODAではなく、民間資金を途上国開発に活用せよ

武石礼司  東京国際大学教授
 日本のマスコミは、ジャパン・バッシング(日本たたき)、そして、ジャパン・パッシング(日本素通り)と続いたあとに、ジャパン・ミッシング(日本行方不明)が生じているとして、日本の政策が外から見え難いことを問題視している。確かに、アジアの中で日本の経済力が突出して大きな存在であった時代は、アジア諸国の高度成長の持続があったあとで、過去のものとなろうとしている。ただし、日本の存在がアジアの中で相対的に縮小すること、を憂える必要があるかは問題である。筆者のように大学で開発論を担当している者から見ると、発展途上の諸国において、先進国に対するキャッチ・アップが生じ、先進国との格差が縮小することは、たいへん望ましく、豊かな暮らしを享受できる途上国の人口が増えることは、歓迎すべきと感じる。

 近隣のアジア諸国においては、各国とも年率5%から10%を超えるというほどの高度成長が続いており、しかも、それらの国ぐにの通貨は、年々、対円でも対ドルでも切り上がっている。こうした状況があるにも関わらず、また、対中国投資ブーム、対ベトナム投資ブームというような投資ブームがあったものの、アジア全体として、特に、後発の発展途上諸国の経済の底上げまでを視野に入れたよりきめ細かな資金の供給を見ると、対途上国投資はリスクが高いとして避けられてしまってきた。

 一方、日本は貿易立国と言われて久しく、強力な製造業が輸出を増大させて外貨を稼ぎ、一人当たり所得の向上があった。問題なのは、こうして得られた所得が、日本国内での内需不振のために、再度海外(特に欧米諸国)に流出してきた点である。日本国内のインフラの整備が、今もって決して万全でないことは明らかであるが、それにもかかわらず、投資コストの回収という観点からの厳密なコスト・ベネフィット計算はなされておらず、国内でどこに資金を投下すべきか(適正なリターンは獲られるか)の議論は、広く行われてはきていない。つまり、日本の国内においては、効率性(コスト・パフォーマンス)を厳密に評価する「政策評価」の手法が導入されていなかったと言える。そうした国内の予算執行の曖昧さをそのまま引き継ぐ形で、日本から国外(特に途上国)に対する資金の供給ルートと、投下資金からリターンを得る手法の確立は遅れている。

 一方で、ODAという形での資金供給は、途上国からの援助要請リストに従って拠出されて来たが、他方で、せっかく生じている民間での投資機会を着実に活かし、後発の発展途上諸国の生活環境の改善を図るための資金供給のルート確立の手立ては、明らかに不足している。現在のように、交通網と通信手段が発達してきた中では、ODAではなく、民間資金の投下のルートが存在する。例えば、農園を始める、ホテルを立てる、学校を始める等である。日本国内に滞留する資金を、発展途上諸国に回していくとともに、着実に投資収益を回収することが可能となる。まず補助金ありき、あるいはODA資金ありきという発想ではなく、民間資金を回していくという手法を、日本の内外において追求していく必要がある。
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