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2008-09-15 10:30

(連載)外交政策の一環としてのODAの戦略性(6)

廣野良吉  成蹊大学名誉教授
 わが国のODA政策を含む対アジア地域政策は、中国、韓国を含めたアジア諸国との貿易・投資・環境・政治・文化・安全保障協力の拡大・緊密化を目標としたものであり、もってアジア地域の「持続可能な開発」と「平和の海」の構築に貢献するものでなくてはならない。このいずれの目標もが、1国ないし2カ国だけで達成できるものではないが故に、わが国の対アジア地域ODA政策は、従来のような2国間協力重視から他の先進アジア諸国の協力の下における多国間協力をも重視したものへと急速に転換する必要がある。さらに、経済交流の促進から文化交流の促進へ、また長期的には開かれた「東アジア共同体」の結成をも念頭に置くことが肝要である。

 1990年以降は、1997-98年のアジア通貨・経済危機にも拘らず、東アジア諸国間の域内貿易・直接投資量は飛躍的に拡大した。またアセアンを中心とする東アジア諸国間の経済協力政策が進展し、国際収支危機に直面した加盟国に対する中央銀行間の外貨救済支援制度「チェンマイ・イニシャテイブ」も導入された。アジア債券共同市場が確立されれば、より容易かつ低コストの長期資金調達も可能となろう。2国間FTAやアセアン地域的EPAの締結、さらには印豪NZを含めた東アジア首脳会議、アセアン経済・社会・安全保障共同体の展望、「東アジア共同体」設立の構想も視野に入ってきた。最早ODA政策を遥かに超えた議論がみられる。最近では、エネルギー価格の急騰と地球温暖化の急速化に伴い、インドを含めた東アジア諸国間でのエネルギー効率の向上のための技術移転・開発、環境に優しい代替エネルギーの共同開発等が地域協力・協議の議題に上がってきている。

 このようなアジア地域における域内経済協力の進展は、単に一層のモノ、技術、カネの交流を強化するのみでなく、ヒトの交流や移住を増大させており、その結果一方で長期的には人々の国際的相互理解を増進し、知識、経験、価値観の共有に貢献しているが、他方では長年の間伝統的・閉鎖的社会に安住していた人々と新住民の間では、異なった価値観、宗教的信条、世界観に基づく誤解や軋轢ももたらしている。さらに、自国の経済発展水準や所得水準が未だに低く、人種間の経済格差が顕著な場合には、この軋轢は時には人種間対立にまで発展し、社会的不安をもたらすこともある。このためアジア地域ではいずれの国でも、海外からの移民労働者に対する違和感ないし偏見があり、各国政府は外国人労働者の流入に対する職業的ないし時間的規制措置を設けている場合が多い。

 わが国は、アジア地域に「繁栄と平和の海」を定着させる為にも、域内の経済交流だけではなく、ODAによる文化交流を推進し、率先してアジアからの留学生の計画的増大と段階的定着をはかり、知的・技術的・職業的労働者の流入制限措置を緩和し、他のアジア諸国に模範を提示することが望まれる。このことはまた、わが国が少子化によって長期的に直面せざるを得ない国内労働力不足の緩和にも役立つことになる。(つづく)
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