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2008-09-11 10:06

(連載)外交政策の一環としてのODAの戦略性(2)

廣野良吉  成蹊大学名誉教授
 そこで筆者も、戦後50年間のわが国の外交政策の変遷に基づくODA政策の変遷に関して「日本の外交政策とODA:半世紀の経験と将来への展望」なる論文(『国際問題』2005年11月号)を発表した。この論文は、戦後50年間実施してきたわが国のODAが、国際情勢の変化に対応してわが国の外交政策の手段として機能してきたのだろうか、という問いかけに応えた論文であり、戦後日本が展開してきた外交政策の基軸を認定するとともに、わが国ODA政策がその基軸と照らし合わせて、如何なる成果を挙げたかを検証した。この検証結果を踏まえつつ、本稿では、本年10月1日の新JICAの誕生を契機として、今後ポスト福田の新しい政権がとるべき望ましい外交政策とODAのあり方について、若干の政策提言をしたい。その理由付けになる背景説明は長くなるので省く。

 基本的な方向としては、一方ではわが国が長年にわたって営々と築き上げ、国際的に受け入れられてきた外交政策・政策目標(例えば、国際・国内紛争の平和的解決、段階的軍備縮小、核不拡散、南北間格差の縮小、地球温暖化防止を含めた地球環境保護・保全等)やODA目標・計画(途上国の自立的発展、貧困削減、人間の安全保障、持続可能な開発のための教育、良い統治、HIV/AIDSや感染症の抑制・絶滅、熱帯雨林の保護等)を今後も堅持・拡充すると同時に、他方ではわが国の従来の外交姿勢やODA体制で21世紀の国内的・国際的要請にそぐわないものとは潔く決別することが肝要である。新JICAは、そのようなODA政策の実施機関として、わが国のODAの目的合理性の維持と成果の確保のために、効率性、透明性と負託責任制(わが国では通常「説明責任」といわれているが)を重視して、そのもてる全能力を発揮して欲しい。

 21世紀のODA供与は、最早先進国から途上国への資金・技術供与や知的協力の側面よりも、国際社会を構成する全ての国々が、それぞれの比較優位に基づき、世界平和、世界経済の持続可能な発展、災害予防、地球温暖化防止等の地球益を、より効率的に追求するための「地球公共財の共同構築行為」である側面が強くなって行くと考える。

 なお、昨年からの原油・食糧価格の急騰と米国に端を発したサブプライム・ローン問題で世界経済の景気後退と不確実性が増す中で、今年は5月に横浜にて第4回アフリカ開発会議(TICADⅣ)が、また7月には北海道洞爺湖にてG8首脳会議が開催された。わが国のODAの減少傾向に歯止めがかけられ、来年からは上昇するという希望ももたれている。また、DAC諸国のODA総額が2001~2006年の間に524億ドルから1035億1900万ドルへと倍増した事実も重い。なおかつ国内的には10月の国際協力機構(JICA)と国際協力銀行(JBIC)の一部統合を目前に控えて、先々月発表された自民党外交委員会の提言でもODAの増額を要求している。ただし、財務省は、2012年までに財政のプライマリー・バランスを達成するという数年前の経済財政諮問会議の決定に従って、増額を認めない方向で考えている。増額決定は、次の総理を議長とする「海外経済協力会議」がいかなる政治的判断をするかにかかっている。(つづく)
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