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2008-08-06 10:57

(連載)なぜアセアン通貨協力は進まないか(2)

村瀬 哲司  龍谷大学教授
 アセアン域内の経済格差は、一人当たりGDP(2007年)でみるとシンガポール35,163ドル、マレーシア6,869ドル、タイ3,892ドル、インドネシア1,925ドル、フィリピン1,625ドル、ベトナム835ドル、さらに低いその他インドシナ3国まで大きな開きがある。この経済発展段階の差異は、政治体制や為替制度の違いなどとも相まって、国ごとのマクロ経済政策の目標の差異に結びつく。

 高所得国では、インフレの抑制と経済成長をバランスさせる形で経済運営をするのに対し、低所得国は経済成長を第一義とし、ある程度のインフレは甘受する傾向がある。近年ベトナムは年率実質8%台の経済成長を実現しつつ、物価の上昇率も高く、これが通貨ドンの下落の原因となっている。マクロ経済政策に関し、特にインフレに対する姿勢と金融政策の在り方が異なると、全加盟国同時の為替相場協調は難しくなり、マルチ・スピード方式をとらざるを得ない。

 為替相場の協調は、金融政策をはじめとするマクロ経済政策の協調を必要とすることから、国家主権の一部を域内共通の利益のために移譲しなければならない。「アセアン共同体」構想を議論する過程で、加盟国は、主権を尊重する伝統的なコンセンサス方式では限界があるとして、多数決などの新たな共同決定の方式を模索してきた。その結果、「相互作用の強化」と呼ばれる方式に合意し、アセアン共通の解決策を引き出すために、加盟国に対して開放的となるよう促すこととなった。これは主権の絶対的尊重の立場からは前進と言えるが、実際の運営面では、ミャンマー問題に典型的に見られるように、まだまだ主権の壁が厚い。

 通貨協力のように個別国の国益と地域共通の利益が深く絡む問題に関しては、政治指導者の決断とそれを可能にする環境や時代背景が重要である。アジア危機の直後には、東アジアの政治家は、危機の再来を共同で防ぐことの重要性を認識し、その道筋を示した。アセアン指導者が、通貨協力の新たな局面に舵を切るためには、もう一つ外的ショックを必要としているのかも知れない。(おわり)
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