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2008-07-06 11:54

ワシントン会議後の日本を想起せよ

高橋 秀哉  大学院生
 ブッシュ米政権は、北朝鮮が6月26日に「6カ国協議」議長国・中国に「核計画の申告」を提出したことをもって、同日北朝鮮の「テロ支援国家指定」解除に踏み切った。これは、実質的に米国が日本の拉致問題を切り捨てて、北朝鮮の核問題を中国に丸投げしたことを意味している。米国は「拉致問題は忘れない」と言っているが、これは外交的にはまったく無意味なリップサービスに過ぎない。この間、日本外交は何をやっていたのか、と問わずにはいられない。こういうときのためにこそあるはずだったのが、日米同盟ではなかったのか。こうされるまで何もしないでおいて、切り捨てられてから「日米関係に亀裂の印象を与えるのは得策でない」と、対米追随路線を再確認している。こんな外交なら、だれにでもできる。

 ところで、踏んでも蹴っても日本はついてくると思っているらしい米国が、中朝と結託して何をしようとしているのか、その本心をちらりと覗かせたのが、米外交問題誌“Foreign Affairs”の最新号(7~8月号)に掲載されたライス米国務長官の論文だろう。現在の「6カ国協議」をいずれ「北東アジア安全保障メカニズム」に発展させたい、というのである。かつて第一次大戦後の世界秩序を構築したのは、欧州においてはヴェルサイユ会議、アジア太平洋においてはワシントン会議であった。前者は敗戦国ドイツを封じ込め、後者は新興国日本を封じ込めようとした。すなわち、「太平洋に関する四カ国条約」(1921年)がその第4条で日英同盟の廃棄を決めるとともに、「中国に関する九カ国条約」(1922年)が中国における「門戸開放・機会均等」(言い換えれば、日本の特殊権益の否定)を打ち出した。

 米国がもし日本を切り捨てて(あるいは何をしても日本はついてくると侮って)中朝と結託し、「6カ国協議」を「北東アジア安全保障メカニズム」に発展させたいというのなら、それはワシントン体制の過ちを繰り返すことになるのではないか。いずれ日米同盟は空洞化し、最後には廃棄されるかもしれない。しかし、そうなれば、いくら他力本願の日本でも、米露中朝の4つの核保有国に包囲されたまま、憲法9条の精神だけを頼りに生きてゆくというわけにはゆかなくなるであろう。今回の米国の動きは、日本によい教訓をあたえてくれたと思う。これをしも他人事視して、傍観するならば、日本はいずれ極東における三流国に転落することだけは、間違いない。

 
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