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2008-06-20 05:53

着実に定着する「東アジア共同体」構想への関心

石垣泰司  東海大学法科大学院非常勤教授
 数年前新鮮なコンセプトとして登場し、わが国でも論議が高まってきた「東アジア共同体」構想をめぐる関心、機運は、このところすっかり退潮したのではないか、と取り沙汰されるのを最近耳にすることがある。果たしてそうであろうか。確かにわが国では、「東アジア共同体」構想自体がメデイアで連日大きく騒がれる、ようなことは最近なくなったかもしれない。しかし、他方、「東アジア共同体」のコンセプトは、もはや単なる空想や夢物語の中の1つのアイデアではなく、東アジア地域の関係諸国政府および国民が今後地域協力を進めていく延長線上で、究極的に達成すべき1つの現実的目標のコンセプトとしては、すっかり定着したようにも思える。

 事実、巷間の話題性は多少薄れたとはいえ、「東アジア共同体」を正面からとりあげた新刊書、論考等は、今日非常な多数に上る。また「東アジア共同体」を単独で、あるいは、アジア情勢全般、東アジア情勢、欧州統合、EPA/FTA等との関連で論ずるシンポジウム、セミナー等も多数開催されるようになった。さらに、一昨年わが国に「国際アジア共同体学会」が新たに設立され、活発な活動を行うようになったことも周知の通りである。昨年10月経団連が発表した「対外経済戦略の構築と推進を求める」提言も「東アジア(経済)共同体」の具体像を「東アジア共同体憲章」の検討を通じて真剣に議論すべきことを提案している。学会研究者の間でも、東京大学社研グループ4名が極めて具体的内容を有する「東アジア共同体憲章」テキストを発表し、これがごく最近英和対照文添付の「東アジア共同体憲章案」と題する新刊書(昭和堂)として出版された。

 このように全体的にみれば、「東アジア共同体」構想をめぐる機運が退潮しつつあるということは全くなく、むしろ「東アジア共同体」構想の研究や論議が次第に定着化・ルーティン化し、専門家をはじめとする一部知識層には深く根を下ろしつつあるというのが、最近の状況ではなかろうか。東アジア共同体評議会の政策本会議でも、本年3月以来「東アジア共同体をめぐる最新の動向」についての研究報告シリーズが開始され、さらに掘り下げられた討議が行われていることも特筆される。

  東アジア地域における政府ベースの論議も後退するどころか、ASEAN+3および東アジア・サミット(EAS)を中心として、着実に討議が重ねられてきている。わが国が2007年1月のセブでの第2回EASで提案し、同年11月シンガポールでの第3回同サミットで設立が承認された「東アジア・アセアン経済研究センター」(ERIA)の設立総会が、本年6月ジャカルタで開かれ、正式に活動がスタートしたことも特記に値する。最近ではラッド豪州首相による「アジア太平洋共同体」構想の提唱といった新たな動きもみられる。東アジア共同体の地理的範囲については未だ意見の大きな相違があり、すぐには収斂が期待できないが、地域共同体の構築に向けて努力すべきであるとの点については、関係国の完全な一致がみられているといってよいであろう。
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