国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2008-06-19 22:01

小児病的平和主義の虚妄を暴く歴史的名著登場

入山映  サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
 東京外国語大学の今井千尋さんから新著『国家建設における民軍関係:破綻国家再建の理論と実践をつなぐ』(国際書院)を送って頂いた。彼女自身が16章からなるアンソロジーの一章の筆者であり、その他の執筆者のうちにも何人か個人的に存じあげている方がいたこともあって、最初は「お付き合い」程度に読み始めた。しかし、読み終わって感じるのだが、本書は歴史的な名著だと思う。アンソロジーの余儀ない欠点として、中には感服しない論考も含まれているが、それを通り越して、これは「あとがき」で編者の上杉氏が述べるように「日本語による初めての本格的な」著述である。浅学にして外国語による文献はほとんど読んでいないが、日本において、この主題を巡って小児病的な言説がもっともらしくまかり通る中では、現実に目を見開かせてくれるという点で、国民必読の書であると言っても良いと思う。だから、「歴史的」というのは決して誇張ではない。

 これほど手放しで褒めるのには、いくつかの理由がある。別に今井さんに義理立てをしている訳ではない。その第一は、先に小児病的言説と言ったのと関係する。世界に誇るべき憲法九条を持っているのはともかくとして、それ故に「軍」について語るのは平和主義に反する、あるいはタブーだ、という種類の議論の存在である。どんなに醜い現実であろうとも、オーストラリアの駝鳥ではあるまいし、砂の中に頭を突っ込んで見ないようにしていればよい、というものではない。その存在を肯定するかどうかは別にしても、見据えた議論が必要だ。そうでなくては、この四つの島の外では通用しない。それを認識させてくれるのが本書だと思う。

 第二の理由は、国連万能主義(http://airiyama.exblog.jp/7905376/参照)の幻想を打ち砕く実証的論述であることだ。もっと言えば、掲げる理想がいかに高かろうとも、現実との妥協点を求められるという実証的な論考である点だ。その妥協のないところでの理想論がいかに無意味か、を見事に描写している。日本ではカリスマとして持ち上げられているだけの緒方貞子さんだが、難民高等弁務官としてこのジレンマに逢着した彼女の決断は、読者を感動させる。

 そして、第三に、混じりけなしに「人道支援」に特化することが可能だ、と考えるナイーブな日本「世論」の危うさを浮き彫りにしていることだ。いかに善意に満ちて人道支援に赴いても、銃弾飛び交う中では保護を求めざるを得ない。保護を求める行為自体が保護者の一味とみなされる。だから、銃弾のないところだけで「顔の見える」貢献をしたい、という。その虚妄と空虚さを、これほど明確に記述した例をほかに知らない。3,400円は決して安くないが、投資を後悔しない稀に見る書物だと思う。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会