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2008-05-30 19:46

アセアン経済共同体と金融・通貨協力

村瀬哲司  龍谷大学教授
 アセアンは、設立40周年を記念する2007年11月20日の首脳会議において、アセアン経済共同体(AEC)の設立時期を2020年から2015年に前倒しにすることに合意し、AECの青写真に関する宣言を発表した。AECは、(a)単一市場と生産基地、(b)高い競争力を持つ経済地域、(c)公平な経済発展の地域、および(d)世界経済と完全に一体化した地域、の特徴をもつ共同体を目指している。この青写真には、AECのための戦略的スケジュール表が添付されており、2015年までに実施すべき優先行動項目が2年ごとに区切って35ページにわたって記載されている。「単一市場と生産基地」の実現が全体の3分の2を占め、「高い競争力を持つ経済地域」が3分の1、残りの2項目(c)、(d)は付随的に記されているだけである。

 AECは「財、サービス、投資および熟練労働の自由な移動、ならびに資本のより自由な流れ」の地域を実現することになる。実体経済の面では、自由貿易地域を超えて部分的に単一市場の統合段階をも目標とする意欲的な計画と見受けられるが、他方、金融・通貨の側面は「資本のより自由な流れ(freer flow)」の表現が示す通り、及び腰の感が否めない。2003年10月第二アセアン共和宣言は、2020年までにAECを含むアセアン共同体を設立することを宣言した。その際、AEC実現に向けて金融・通貨の分野は、主として「アセアン金融統合のための工程表」に沿って行動することが承認され、これは上記戦略的スケジュール表に反映されている。

 工程表は、(a)資本市場の発展、(b)資本勘定の自由化、(c)金融サービスの自由化、(d)アセアン通貨協力の4分野で構成されている。資本市場の発展では、主として規制の枠組み、市場インフラなどの整備と各国資本市場のクロスボーダーの協調を目指す。資本の自由化は、段階的な秩序だったアプローチをとり、必要な場合には緊急の規制も認める。金融サービス自由化は、保険、銀行、証券業務などを対象に、個別項目ごと、国別かつ段階的に実現スケジュールがまとめられる。通貨協力については、「域内貿易の促進と統合の深化を促す通貨協力にまず絞る」こととし(2003年財務相会議共同声明)、域内為替相場取極めに関する検討は「アセアン為替相場取極めに関するアセアン中央銀行フォーラム作業部会」に委ねられることとなった(2004-05年アセアン年次報告)。

 アセアンが2015年までに単一市場の実現を目指すならば、実体経済の統合に応じて金融・通貨の分野でも協調が図られなければならない。特に域内通貨相互の為替相場の安定が、単一市場の円滑な運営には欠かせない。しかし、AECの青写真も、金融統合のための工程表も、域内通貨協力については殆ど触れていない。欧州通貨制度に類する為替相場取極めをアセアンに設立することは、加盟国の金融・通貨主権に直接かかわる政治的にセンシティブな問題である。10年前のアジア通貨危機の悪夢も頭を横切るだろう。さらに後発アセアン加盟国の金融環境整備なくして、域内通貨制度は議論できないという事情もあるだろう。アセアン中央銀行フォーラムは、極秘裏に検討を進めているだろうが、通貨投機に対する危機管理はチェンマイ・イニシャティブに委ねるなど、アセアン+3との連携を意識した制度設計を進めてほしい。そして通貨安定へのアセアン指導者の英断を期待したい。
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