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2008-05-16 23:49

(連載)胡錦濤訪日の「円満成功」を検証する(2)

大江志伸  江戸川大学教授・読売新聞論説委員会特約嘱託
 次に、「よりハイレベルの協力推進」では、安保分野でのハイレベル相互訪問の強化や、日中ハイレベル経済対話の戦略的活用などを具体策として盛り込んだ。最後の「国民感情の改善」は、日中両首脳、事務方とも最も心を砕いた点であろう。日中共同声明に、日本側の「反省」や「責任」に関する言及はなく、中国は「日本が戦後60年あまり、平和国家としての歩みを堅持し、世界の平和と安定に貢献していることを積極的に評価する」との文言が盛り込まれた。中国が外交文書で「戦後日本の平和貢献」を認めたのは初めてである。7日夜の宮中晩餐会で、胡錦濤氏は「過去」にふれず「未来志向」を強調した。8日の早稲田大学の講演では、日本の対中円借款が近代化建設に貢献したと謝意を表明しただけでなく、「我々は歴史を銘記するよう強調しているが、それは恨みを抱き続けるためではない。両国民が子々孫々、友好的に付き合うためだ」と語り、歴史を感情的な摩擦要因にしてはならないとの見解を示した。

 早大での講演は、中国でも同時中継された。つまり、この講演は自国民に対するメッセージでもあった。「円満成功」の第二の理由として、早大講演が端的に示すように、今回の訪日全体のメッセージ効果を事前かつ綿密に計算したうえで、そのシナリオに沿って日中首脳がそれぞれの役割を演じきったことが挙げられる。日中の両首脳は胡錦濤訪日を前に、相手側マスコミとの会見を行った。ここまでは定番だが、早大で胡錦濤氏が福原愛選手と「ピンポン外交」に興じた時、福田首相は傍に寄り添い、引き立て役となった。翌9日には、福田首相は中国中央テレビのインタビューを受け、パンダ2頭の有償貸与に反対の声があるが、「それはごくごく少数派。ほとんどは手放しで喜んでいる」と力説した。首相が首脳会談後に重ねて相手国の主要メディアの取材を受けるのは異例のことだ。日中両国が連携して広報戦略を展開し、一定の効果をあげたのは確かである。(つづく)
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