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2008-04-30 14:24

「東アジア共同体」論議は弁証法的に捉えよ

石川 良平  大学院生
 亀山良太氏の投稿「東アジア共同体は『運動』であることに意義がある」(4月30日付558号)を興味深く拝読した。同氏の議論に触発されるかたちで、以下に筆者なりに「東アジア共同体」論議の戦略的価値について述べることにしたい。

 「東アジア共同体」を論ずるにあたり、哲学者ヘーゲルを持ち出すのは唐突かも知れないが、あえて思弁的な議論から入りたい。ヘーゲルは周知のとおり、ギリシャ以来の弁証法(διαλεκτική=dialectic)を独自の理論体系へと仕立て上げた。彼の理論は、単純にいえば、ある命題「正」に対しそれを否定する命題「反」が対峙し、それらが統合され止揚されたところに「合」の命題が生じる、というものである。この考え方のポイントは、ある立場Aが生じた場合、かならずその立場に反する立場Bというものが生じ、この両者はまさに対立することによって結びついている、というものである。そしてこの対立が発展的な立場Cを生み出す土壌となると考えられる。

 ヘーゲルの弁証法は、後にマルクス、エンゲルスらによって批判的に継承され、かれらのいう「科学的」な歴史理論へと組み替えられた。「科学的」であるとされるがゆえ、「歴史の必然」という側面が強調されたマルクス主義的歴史論は、20世紀を通じて世界史に大きな禍根を残した。そのことは、いまさら指摘するまでもない。その手痛い教訓を踏まえた21世紀のわれわれとしては、むろん歴史は閉ざされたものではなく、未来に向けて開かれていると考えるべきであろう。それゆえヘーゲルの議論を現代的に再解釈すれば、Aの立場とBの立場の対立的関係の調整によって、その結果生じるCの立場は、いかようにもなると考えることができるはずである。

 「東アジア共同体」とは、現在のところ、一つの言葉(単語)にすぎない。そしてこの言葉をめぐって侃々諤々の議論がなされている、のが現状である。よく言われるように、「東アジア共同体」構想を「同床異夢」として否定的に片付ける向きもあるが、ヘーゲル的に考えれば、「同床」であることの意義は少なくない。この構想を支持する立場もあれば、支持しない立場もあるのは、当たり前のことで、むしろ東アジア各国が同一の言葉をめぐって、ああでもない、こうでもないと意見を異にしつつも、しかし同じ土俵に乗っているという状況自体が、なんらかの発展的状況を生み出す土壌と捉えられるべきではないだろうか。

 したがって、「東アジア共同体」論議を意義あるものとするためには、逆説的ながら「東アジア共同体」構想への反対論にもっと耳を傾けることが肝要となる。同構想を支持する声は、ほっておいてもわれわれの耳に届くが、この構想に消極的な立場の声は、よく耳をすまさないと聞こえて来ない。幸い日本国内では、同構想に対する賛成論、反対論共に論壇等で活発に開陳されているようであるが、他の東アジア各国においてはどのような反対論が展開されているのかを、我々はあまり知らないのではなかろうか。ためにする議論の妨害的な雑音は論外であるが、傾聴に値する批判論が東アジア各国で陰に陽に展開されているとすれば、我が国がそれらをキャッチする知的なプラットフォームを持つことは、日本の国家戦略上決して不利なこととはならないであろう。東アジア共同体評議会の存在意義も、そこら辺にあるのではないだろうか。
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