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2008-04-13 21:35

「チベット」と「満州」の連関

櫻田 淳  東洋学園大学准教授
 現在の中国政府にとって「チベット」が占める位置は、戦前期の日本にとって「満州」が占めた位置と似たようなものになっているのではなかろうか。チベットは、元々、漢民族の土地ではない。ダライ・ラマ十四世が亡命する契機となった1950年の「チベット解放」以降、中国政府が進めた対チベット政策には、周回遅れの植民地主義政策の趣きが濃厚に漂っている。戦前は、満州をめぐって日本の植民地獲得の論理に抵抗していたはずの中国共産党は、戦後に政権を掌握した後は早速、自ら植民地獲得の論理に走ったのである。

 そうであるならば、往時の日本における石橋湛山のように、「チベットを放棄してでも、国際社会との協調を図ることが大事だ」と唱える人物が果たしているかということは、今後の中国の動向を占う上では、かなり大事な条件になるであろう。往時の日本にとっては、満州や朝鮮半島のような植民地を経営することから得られる経済上の利得は、英国や米国との貿易から得られる利得を凌ぐものではなかったし、その植民地経営は、財政上も対外関係の上でも「重荷」と呼ぶ他はないものであった。そして、その「重荷」の実態を糊塗していたのは、「満蒙は父祖の血で購った土地である」という半ば非合理な感情であったのである。
 
 現下のチベットの位置もまた、中国政府にとっては、財政の上でも対外関係の上でも「重荷」になっているのではなかろうか。現下の中国政府の表面的な対チベット強硬姿勢にもかかわらず、そうした中国政府の苦慮を想像することは、決して難しいことではない。筆者は、此度のチベット騒乱に際して、たとえば欧州諸国が行っているような対中批判に何の留保もなく追随することは、日本にとっては決して賢明なことではないのではないか、と考える。結局、日本は、戦後、満州や朝鮮半島のような海外植民地を半ば否応なく手放した結果として、国運の飛躍を遂げることができた。これは、現下の中国に対して示すに値する「歴史の教訓」であろう。
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