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2008-04-04 09:01

(連載)東アジア食品生産共同体に「食の安全」を問う視点(2)

進藤榮一  筑波大学大学院名誉教授
 実際それまでは、国が直接水際段階で輸入食品の検疫検査を行い、検査結果が判明するまで国内での流通を認めない、事前水際検査体制をとっていた。しかるにそれを、いわゆる事後的なモニタリング(抜き取り)制に変え、初回の抜き取り一部検査をパスするだけで、あとは自由に輸入できる仕組みに転換させた。しかも、リスク管理にかかわる職員数は、全国31カ所に計334人と、人員も予算も逆に削減し続けている。そのために、輸入食品届出数は、1989年当時の60数万件から2006年の186万件に3倍近い輸入急増を見せているのに、検査率は、19%から10.7%にまで低下している。それが、今日の日本の食の安全体制の、うすら寒い現実だ(厚生労働省『輸入食品監視統計』等による)。

 いったいグローバル化が進展し、東アジア共同体の登場が不可避であるのなら、私たちがなすべきことは何よりも、モノやヒトが国境を跨ぐことから来るリスクを管理し、最小限に止めることである。それゆえに、私たちがとるべきは、安江則子・立命館大学教授がいみじくも示唆、提言しておられる(本欄2月5日付け投稿493号)EU流の「食の安全」政策だろう。すなわちEUは、90年代後半以後「食の安全」リスクに対して一連の安全保障政策を展開し、EU農相理事会主導下に2002年に「食料安全規則」を制定するとともに、欧州食料安全庁(EFSA)を設置し、EU拡大に伴う域内食料流動性の増大から来るリスクの管理と削減に乗り出したのである。ここでもまた私たちは、欧州統合から実に多くの教訓を学ぶことができる。

 そしてその上で、私たちの食と生活のかたちの転換をはかることだ。過剰なまでに拡大した環境劣化を進めるばかりの、長大なフード・マイレージを可能な限り縮めて、ファーストフードからスローフードへと、食とライフスタイルの修正と転換をはかることである。併せて、アジア版の食料・人間安全保障政策の展開によって、東アジア域内外の貧困削減と衛生保健体制の整備、推進に協働し、農業開発援助政策によって、地域内格差を縮め、農業農村の近代化をはかっていくことだ。疑いもなく、そうした一連の「食の安全」政策は、単に効率性だけによってではなく、地域に根ざした「地産地消」によって、環境にやさしい人間らしさと豊かさを、ゆっくりと時間をかけて紡ぎ上げていく道につながるはずだ(『信濃毎日新聞』「月曜評論」(2月11日付)拙稿「食の安全を問う視点」に、加筆修正)。(おわり)
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