国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2008-03-21 17:54

内憂外患の中スタートした胡錦濤新体制

大江志伸  読売新聞論説委員
 3月5日から2週間の会期で開かれていた中国全国人民代表大会(全人代)は、胡錦濤国家主席と温家宝首相の再任と、習近平、李克強の両政治局常務委員の国家副主席、筆頭副首相就任などを決め、閉幕した。これにより、「胡―温体制」は後半5年のスタートを切った。まさに内憂外患の船出である。世界に衝撃を与えたチベット暴動は、胡錦濤国家主席が全人代で「チベットの安全は全国の安全にかかわる」と明言した8日後の3月14日に起きた。暴動はチベット自治区の区都ラサから自治区各都市、そして四川、甘粛、青海の近隣各省へと飛び火し、北京でもチベット系学生らによる抗議行動が表面化した。まさにチベットの安全が全国の安全にかかわる事態にまで発展したのである。

 中国政府が、容赦のない武力鎮圧に踏み切ったのは、当然の帰結であろう。「全国の安全にかかわる」であろうチベット人の暴動を放置すれば、同じく自治権拡大、分離・独立要求のくすぶる新疆ウイグル自治区などにも飛び火しかねない。そうした危機意識に立つ中国指導部にとって、武力鎮圧以外の選択肢以外なかったのは明らかだ。今回のチベット暴動は、胡錦濤国家主席の政治経歴にも再照明を当てることになった。チベット自治区での大規模暴動発生は、1989年3月以来のことである。当時、自治区トップの党委員会書記のポストにあった胡錦濤氏は、ラサに戒厳令を敷き、反政府行動を武力で鎮圧した。この「功績」が最高実力者、とう小平氏の目にとまり、胡錦濤氏は中央政界への進出、江沢民氏の次の最高指導者への道を歩むことになった。

 1989年の天安門事件はチベット暴動の直後に起きた。天安門事件を武力鎮圧したとう小平氏が、胡錦濤氏を江沢民氏に続く指導者として抜てきした背景には、チベットで武力行使に踏み切った「果断さ」を高く評価したからに他ならない。鎮圧の対象は、チベット族と学生や知識人を中心とする漢族民主勢力という違いはあっても、自国民に対する武力行使を「果断」に決行したという点において、とう小平、胡錦濤の両氏は歴史に対し同様の責任を負った。従って、胡錦濤政権下で、天安門事件の見直しはあろうはずがない。とう小平氏の深謀遠慮は、中国を今なお束縛しているのである。

 そして、中国共産党政権を支える暴力装置は、なお堅固である。事態の沈静化は時間の問題だろう。中国政府は、国際社会の求めるダライ・ラマとの対話には見向きもせず、暴動発生はダライ・ラマ勢力の違法な策謀に起因するとして逆に反撃の姿勢を強め、中央突破の構えだ。しかし、北京五輪を8月に控え、今回の流血の事態の真相が明るみに出るにつれ、国際社会の批判がさらに高まるのは必定である。欧米諸国の一部では、北京五輪のボイコット論も出始めている。中国外交にとっては大きな痛手だ。胡錦濤政権は、高まる「外患」をどう収拾するのか。外交戦は始まったばかりだ。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会