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2008-03-11 13:05

インドネシアの知日家・M・サドリ教授の死に思う

木下俊彦  早稲田大学客員教授
 インドネシアだけでなくアジアの知性と良心の代表的存在であったM・サドリ博士が昨年末に亡くなった。少し前まで元気であちこちの会議に出たり、新聞などで積極的にコメントを出していた。スハルト時代に活躍したいわゆるバークレィ・マフィアの一人と目され、国立インドネシア大学教授、投資調整庁初代長官、エネルギー鉱業大臣など要職を歴任した学者兼実務家だった。しかし、同氏は過去のキャリアなどひけらかすことなど全くなく、きさくで、親しみやすい人柄だった。大の親日家で、日本でも講演者やパネリストとしてよく来日し、ファンも多かった。帝人や東京(三菱)銀行の現地法人の監査役会代表も務め、その真摯な言動は同社、同行本部でも高く評価されていた。同氏が亡くなって、今更ながらに同氏の存在感がいかに大きかったかを思い知らされる。これも大の親日家で、内外で活躍したラディウス元経済調整相も3年前に亡くなっている。

 現地の知人から追悼集を作るので短文を送れといわれ、同国にかつて住み、同氏と親交のあった一人として一文を書いた。それを読んだ元インドネシア勤務のビジネスマンの友人から、「あなたの同国への思い入れは分かる、自分も同国のために何かしてやりたいと考え、知識人などをつかまえては議論を繰り返した。しかし、最近同国へ赴任する人たちはローテションの一環として同国をとらえ、特別の感慨はもたない。食べ物も昔よくやったように、下町のお世辞にも奇麗といえないが、美味な店へ行き食べることもしない。昔はパーティといえば、日本人の多くがバティックを着て出かけたが、最近は、皆、背広だ。ある正式の会の招待状に「バティック着用」と書かれていたとき、5年もジャカルタに駐在しているわが現地法人社長があわててバティック店に走ったと聞いて驚いた」と教えてくれた。回顧趣味になってはいけないが、両国間の関係変化を物語るエピソードといえよう。

 知日派インドネシア人も同様の感慨を述べる。最近、日本を訪れた元賠償留学生・ギナンジャール地方議会議長は、日本国際問題研究所での講演で、「両国の人脈のパイプがどんどん小さくなっている。自分は日本で勉学させてもらい、日本人の勤勉さ、実直さを学び、以降、日本の政官産学の方と親交を維持してきた。しかし、インドネシアには、自分のような人間はいない。これから日本に期待するのは金ではない。年間数十人といわず、年間千人規模で日本に留学生を受け入れてもらい、自分のような人間を多数作ってほしい。そうすれば、祖国・インドネシアは大いに栄えるのではないか」と述べた。日本の政官産学のアジア通の人々は、確かに現在インドネシアの投資環境は良くないが、人口、面積、鉱物資源量、対日感情などからして、日本としては、ASEANの「雄」インドネシアを大事にすべきだと強調する。しかし、人脈の空洞化・断絶をなんとかしないと、両国関係の将来は危ういのではないか。
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